ワニなつノート

自閉症者が語る人間関係と性(2)




相手を助けられないという無力感や、
けれども彼らが生きていく上での悲しみから
守らなければならないという思いは、
特に子どもに障害がある場合には、
問題の間違った面に焦点を当てたり
表面的に収めることにつながることもあるだろう。

このことは、自閉症の人は、
自分の能力に着いて「現実的な視点」をもつべきだ、
というような周囲の言い方にも表れる。

一例をあげると、
軽度の知的障害がある自閉症の男性に関わったある職員の場合がある。

ある自閉症の男性が度々ガールフレンドがほしいと口にしていたが、
それは不可能であると判断したその職員は、
将来その希望がかなうと思わせるのはかえってよくないと考えた。

それで、職員たち全員に働きかけ、
一致して男性にそう言うことにしたのである。

自分と自分の能力に関して、「現実的な視点」をもつようにと、
自閉症のため、彼には将来にわたってガールフレンドはできないであろうと、
告げたのだった。

彼に自信と好ましいメッセージを渡したいと考えた職員たちは、
「魚釣りやボウリングをするのはどう? 君はそれらが好きだろう?」
とも付け加えた。

よかれと思ってしたことだろうが、
いったいどういう権利があって、
周囲の人々は一人の人間の夢を取り上げることができるのだろうか。

人には多くの夢があり、
その中には実現できずに終わる夢もあるだろう。
そういう夢をもつこと、その実現に努力すること、
それ自体が大事なのではないだろうか。

それに加えて、
その人の夢が実現するか否かを他人は知ることはできない。

本書でも紹介したとおり、
パートナーのいる自閉症や知的障害の人たちの例はあるのである。
だからといって、周囲の人々がその人にやがて夢は実現するであろうと
確信させる必要があると言っているのではない。
確実にそうなるかどうかは、
もちろん誰にもわからないのである。
(P240)


付け加えることは何もないが、
上の文の一部は、私のなかに次のような言葉で残る。

「よかれと思ってしたことだろうが、なんだろうが、
いったいどういう権利があって、
周囲の人々は一人の子どもの夢を
取り上げることができるのだろうか。」

「みんなといっしょにがっこうにいきたい」
という夢を。



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