私が子どもに伝えたいと願ってきたことがあります。
でも、それをなにより一番大切に願うのはどうしてだったか。
「あなたは、あなたのままでいい」と願ったのは
どうしてだったか。
「自分らしく、ありのままでいい、
できないことがあってもいいのだと」と伝えてきたのは、
どうしてだったか。
それは「子どもがさびしくならないように」だったのだと、
いまごろ気がつくのは何か変な感じはします。
でも、私は「新発見」した気分なのです。
そんなふうに考えると、子どもが「自分から分けられた場所」を
選ぶ場合のことも、腑に落ちる気がするのです。
子どもが自分から、「特別な場所」を選ぶことがあるのも、
「孤独がいや」だからだと分かるのです。
いまいるクラスで「孤独」であるなら、
そこから逃れたいと思うのはあたり前のことです。
孤独はイヤ。
孤独じゃなくなるなら、なんでもするから。
ひらがなも漢字も算数も覚えるから。
自分らしさもいらないから、だから孤独だけはいや。
だから、仲間に入れてほしい。
そんなふうに子どもが願うとしても、
それは自然な感情の流れだと思います。
その気持ちは痛いほど分かります。
でも、それが、そのまま、その子どもの願いを
かなえてあげることにはつながらないことを、私たちは知っています。
子どもが「自分らしさ」をあきらめなければならないとしたら、
そこにいるのは、その子の「仲間」ではないのだと、私は思います。
その子が、「自分の意思」「自分の願い」を
あきらめなければならないとしたら、
そこにいるのは、その子の仲間では、ありません。
その子が「それでもいい」と言っても、
その「仲間」のなかにいられたとしても、
いつか自分の中のさびしさに気づいてしまうときがきます。
なぜなら、仲間でいてもらうために、
置いてきた自分にいつか気づくからです。
みんなの仲間にしてもらうために、
自分の気持ちは「みんなのなかにある」と間違っていることに
気づくからです。
そうして、自分に忘れられている自分に気がつくときがきます。
自分から疎外されている自分に気づいた時、
取り返しのつかないほど孤独になってしまいます。
だから、子どもたちに、「ありのままでいいよ、
できないことがあるままでいいよ」と
まず初めてに伝えたいのです。
未熟なままで受けとめられた体験は、
子ども体験としてとても大切なことだと思うのです。
自分が子どもで未熟で、できないこと、
知らないことがあっても、
ひとりの人間として誠実に向き合い受け止めてくれる人がいること。
自分は一人じゃないと信じることができて、
自分に自信が持てること。
それこそが、本当の自尊感情なのだと思います。
そうすれば、その子は、たとえ一人ぼっちですごすときにでも、
自分が自分の味方でいることができます。
子どもは自分のままで人とつながりたいと願う。
何かができるようになって、受けとめてもらう自分じゃなくて。
自分が自分であることを大事にしてくれる人、
どんな自分であっても受けとめてくれる人に出会うことが、
何よりうれしいことだと思います。
ふつう学級での生活には、そうした出会いがつまっていることを、
私たちは知っています。
ふつう高校には、そうした関係がうまれることを、
私たちは知っています。
だから、あきらめることができないのです。
◇
父親に捨てられ、母親に見放され、
学校からも厄介者扱いされ、警察に保護されて、
その先でようやく自分を受け止めてくれる人たちに出会って、
自分もそういう大人になりたいと願ったのだろう。
「いい人になれるかな」
「まだ、間に合うかな」
「いい人になりたい」とは、
「自分を受けとめてくれた」大人たちのように
なりたいということでした。
この世に、悪い子の自分を受けとめてくれる人はいないと
信じてきた彼が、
誰よりも自分を受けとめたいと願い続けてきたのでしょう。
自分も誰かとつながりたいと。
自分も誰かを信じて受けとめられるようになりたいと。
自分が本当にそう願っていることを、信じてもらえるかな。
「どんなに悪い子でも、どんなにわがままでも、
どんなにできなくても、君の味方だよ」と
子どもの味方になれるかな。
5年生の子どもが私に教えてくれたことは、
そういうことだったのだと、いま思っています。
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