一旦、1塁側から退く。
保護者と指導者、話のネタは山ほどあっただろう。
だが、会話もそこそこに試合後のミーティングが行われる。
ここで私は、応援に来ていた2年生の悠斗を見つけて歩み寄った。
「悠斗の言う通りになったな」
すると、悠斗は笑みを浮かべた。

「これ、四つ葉のクローバーやで。マリナーズは絶対に勝つで」
試合前、悠斗はこう言って手に持った四つ葉のクローバーを私に見せてくれた。
「悠斗のお陰かな」
私は、心の中でそう思った。
昼食済ませ、しばらく次の試合を眺める。
高クラのペースで試合は進む。

試合時間が大幅に押し込むが、まぁ仕方ない。
時間無制限の大会である以上、これぐらいは想定できる。
そんなこんなで時間は経ち、ろうきん杯予選の決勝は、若狭和田対高浜となる。
既に敗れたチームは立ち去り、物静かさを残した球場となった。

―高浜クラブへの勝率は.000―
相手からしてみれば「カモが葱を背負ってくる」
いわゆるカモ葱という奴だ。
先攻高浜クラブで試合は始まる。
マリナーズの先発は蒼空。
上々な滑り出しを魅せる。

だが、それもつかの間。
2回にピンチを招いてしまう。
連打とフォアボールからノーアウト満塁とされる。
正直、ここで大量失点を覚悟した。
しかし、思わぬ方向となる。
スクイズを外してアウトにすると、ここから凡打を重ねて無失点で切り抜ける。
次戦のないトーナメント戦。
結果オーライで構わない。

どうしても欲しい先制点。
だが、1回戦と同じ3人ずつで打ち取られる。
3回表、皓大に浴びたヒットからピンチとなる。
連続フォアボールから2アウト満塁とされる。
だが、スローボールを織り交ぜた投球で脱する。
攻撃の糸口を全く掴めないマリナーズと、ここまでチャンスを2度も作った高クラ。
―意外な展開―
おそらく観衆の内に秘めた正直な感想である。
だが、マリナーズの子供達が持つ底力をも感じ取る。
高クラの好機を摘む奇跡はみたび起こる。

4回表、ポテンヒットとフォアボールからランナーを三塁に背負う場面に遭遇する。
「そろそろ先制点を献上か」と思った瞬間だった。
強い打球がショートの瑛喜の正面に飛んでくる。
捕球すると、すかさずサードへ送球。
見事なダブルプレーであった。
喜びを爆発させるマリナーズナイン。
そして迎えるベンチ陣。
この試合、この光景を何度見たことか。
すぐに監督を中心とした円陣が組まれる。
真向からの勝負を挑むのか、それとも奇策に転じるのか。

4回終了時で0対0。
球場全体が異様な雰囲気に包まれる。
だが、5回から試合は少しずつ動いていく。
この回、皓大と拳太を打ち取るもランナーを溜め込んでしまう。
この場面でマウンドに集まる内野陣。
この後の投球で、手痛いミスが生じる。
蒼空の投球を逸らした翔太。
これが、先制点を演出させてしまう。

劣勢になったかと思いきや、6回の守備で好プレーが飛び出す。
ランナーを三塁に置く場面で打球がピッチャー前に転がるが、蒼空のグラブトスからホームでアウトにする。
この咄嗟の判断は、センス以外の何物でもない。
まだ諦めない。
諦めていない。
わずかな流れが来る事を信じて待つ。

0対1で迎えた最終回、裏の攻撃を待たず力尽きてしまう。
ランナーを2人置く場面から悠夢に特大のスリーベースヒットを浴び、ここから緊張の糸が途切れてしまう。
だが、マリナーズ応援席にいた6年生の保護者達からの大きな声援は続く。
ここまで来れた事に感謝をしているかのようにも見えた。

そして、ここでベンチにいた6年生の翔摩がセカンドに入れ替わった。
その瞬間、応援席からは一際大きな声援が飛び交った。
これで6年生全員がグラウンドに立った事になる。
最後は、6年生達の打席で幕を閉じた。
応援席にいた保護者からは、1試合目とは違った意味合いの涙が見えた。
私にも、この子達の成長が少なからず見て分かった。

涙を拭う保護者が見える傍ら、私は最後までフェンス越しを見ていた。
「マリナーズは勝ったん?」
足元を見ると、私を見上げていた悠斗がそう聞いてきた。

私は一呼吸を置いてこう返した。
「マリナーズは負けたんやで」
何となく理解ができていたのか。
すると悠斗は、寂しそうな顔をしてこう続けた。
「これからどうなるん?」

私は返答に悩んだが、悠斗が理解できるように返した。
「今日で6年生は、マリナーズが終わりになったんやで」
悠斗は下を向いた。
閉会式、準優勝杯が贈られた。
そして、全員の記念写真が撮影された。
みんないい表情を見せていた。

写真を撮影していた時、1年前の自分の姿が見えた。
子供達と一緒になって夢中になっていたあの頃。
忘れていないつもりだったが、この写真を見て思い出した。
多かれ少なかれ子供達を支えようとする保護者の気持ちは同じだった。
そして、去っていくチームが次のチームに確かに残してくれたものも分かった。

―2017年9月3日(日)午前10時20分―
曲を聞きながら思いに更けこんでいると
「歩夢。あんたは悠斗と悠久にこれから良い事を教えたげなあかんのやで!」
店内から出てきたのか、車外から薄っすらと聞こえてくる。
コンビニで買い物をしていて、どうして叱られたのかは知らない。
まぁ、いつもの事だ。
気にしない。
そして妻の説教が終わった頃。
目的地へと出発した。
そう、にいにい(お兄ちゃん)を追いかけて。
おわり
保護者と指導者、話のネタは山ほどあっただろう。
だが、会話もそこそこに試合後のミーティングが行われる。
ここで私は、応援に来ていた2年生の悠斗を見つけて歩み寄った。
「悠斗の言う通りになったな」
すると、悠斗は笑みを浮かべた。

「これ、四つ葉のクローバーやで。マリナーズは絶対に勝つで」
試合前、悠斗はこう言って手に持った四つ葉のクローバーを私に見せてくれた。
「悠斗のお陰かな」
私は、心の中でそう思った。
昼食済ませ、しばらく次の試合を眺める。
高クラのペースで試合は進む。

試合時間が大幅に押し込むが、まぁ仕方ない。
時間無制限の大会である以上、これぐらいは想定できる。
そんなこんなで時間は経ち、ろうきん杯予選の決勝は、若狭和田対高浜となる。
既に敗れたチームは立ち去り、物静かさを残した球場となった。

―高浜クラブへの勝率は.000―
相手からしてみれば「カモが葱を背負ってくる」
いわゆるカモ葱という奴だ。
先攻高浜クラブで試合は始まる。
マリナーズの先発は蒼空。
上々な滑り出しを魅せる。

だが、それもつかの間。
2回にピンチを招いてしまう。
連打とフォアボールからノーアウト満塁とされる。
正直、ここで大量失点を覚悟した。
しかし、思わぬ方向となる。
スクイズを外してアウトにすると、ここから凡打を重ねて無失点で切り抜ける。
次戦のないトーナメント戦。
結果オーライで構わない。

どうしても欲しい先制点。
だが、1回戦と同じ3人ずつで打ち取られる。
3回表、皓大に浴びたヒットからピンチとなる。
連続フォアボールから2アウト満塁とされる。
だが、スローボールを織り交ぜた投球で脱する。
攻撃の糸口を全く掴めないマリナーズと、ここまでチャンスを2度も作った高クラ。
―意外な展開―
おそらく観衆の内に秘めた正直な感想である。
だが、マリナーズの子供達が持つ底力をも感じ取る。
高クラの好機を摘む奇跡はみたび起こる。

4回表、ポテンヒットとフォアボールからランナーを三塁に背負う場面に遭遇する。
「そろそろ先制点を献上か」と思った瞬間だった。
強い打球がショートの瑛喜の正面に飛んでくる。
捕球すると、すかさずサードへ送球。
見事なダブルプレーであった。
喜びを爆発させるマリナーズナイン。
そして迎えるベンチ陣。
この試合、この光景を何度見たことか。
すぐに監督を中心とした円陣が組まれる。
真向からの勝負を挑むのか、それとも奇策に転じるのか。

4回終了時で0対0。
球場全体が異様な雰囲気に包まれる。
だが、5回から試合は少しずつ動いていく。
この回、皓大と拳太を打ち取るもランナーを溜め込んでしまう。
この場面でマウンドに集まる内野陣。
この後の投球で、手痛いミスが生じる。
蒼空の投球を逸らした翔太。
これが、先制点を演出させてしまう。

劣勢になったかと思いきや、6回の守備で好プレーが飛び出す。
ランナーを三塁に置く場面で打球がピッチャー前に転がるが、蒼空のグラブトスからホームでアウトにする。
この咄嗟の判断は、センス以外の何物でもない。
まだ諦めない。
諦めていない。
わずかな流れが来る事を信じて待つ。

0対1で迎えた最終回、裏の攻撃を待たず力尽きてしまう。
ランナーを2人置く場面から悠夢に特大のスリーベースヒットを浴び、ここから緊張の糸が途切れてしまう。
だが、マリナーズ応援席にいた6年生の保護者達からの大きな声援は続く。
ここまで来れた事に感謝をしているかのようにも見えた。

そして、ここでベンチにいた6年生の翔摩がセカンドに入れ替わった。
その瞬間、応援席からは一際大きな声援が飛び交った。
これで6年生全員がグラウンドに立った事になる。
最後は、6年生達の打席で幕を閉じた。
応援席にいた保護者からは、1試合目とは違った意味合いの涙が見えた。
私にも、この子達の成長が少なからず見て分かった。

涙を拭う保護者が見える傍ら、私は最後までフェンス越しを見ていた。
「マリナーズは勝ったん?」
足元を見ると、私を見上げていた悠斗がそう聞いてきた。

私は一呼吸を置いてこう返した。
「マリナーズは負けたんやで」
何となく理解ができていたのか。
すると悠斗は、寂しそうな顔をしてこう続けた。
「これからどうなるん?」

私は返答に悩んだが、悠斗が理解できるように返した。
「今日で6年生は、マリナーズが終わりになったんやで」
悠斗は下を向いた。
閉会式、準優勝杯が贈られた。
そして、全員の記念写真が撮影された。
みんないい表情を見せていた。

写真を撮影していた時、1年前の自分の姿が見えた。
子供達と一緒になって夢中になっていたあの頃。
忘れていないつもりだったが、この写真を見て思い出した。
多かれ少なかれ子供達を支えようとする保護者の気持ちは同じだった。
そして、去っていくチームが次のチームに確かに残してくれたものも分かった。

―2017年9月3日(日)午前10時20分―
曲を聞きながら思いに更けこんでいると
「歩夢。あんたは悠斗と悠久にこれから良い事を教えたげなあかんのやで!」
店内から出てきたのか、車外から薄っすらと聞こえてくる。
コンビニで買い物をしていて、どうして叱られたのかは知らない。
まぁ、いつもの事だ。
気にしない。
そして妻の説教が終わった頃。
目的地へと出発した。
そう、にいにい(お兄ちゃん)を追いかけて。
おわり