三重県鈴鹿市加佐登――私の生まれ故郷です。
正確に言うと生まれたのは四日市の病院だそうですが、
小学校に入る前の年まで、そこに住んでいました。
突然思い立って、今日の午後車を走らせたのは、
朝、何気なく見た携帯の待ち受け画面で、今日が、亡くなった母の誕生日だったことを思い出したからです。
記憶をたどりながら小一時間探し回りましたが、
育った家を……というより家があった場所すら、見つけることはできませんでした。
当時の周囲の風景は、なぜか今でもかなり鮮明に覚えているつもりなのに、
思い当たる風景に出会えません。
でも、それが当然なんでしょうね、もう半世紀以上も昔になるんですから。
最初から無理な試みだったことを苦笑いしながら探すのをあきらめ、
ただ、夏の夜祭に行ったことをうっすらと覚えている「加佐登(かさど)神社」に立ち寄ってきました。
「そうですかあ。探し出せなくて残念でしたね。それはそれはご苦労さま。でも、思い立ってお越しになっただけでも、お母さまはきっと喜んでいらっしゃると思いますよ」と、
お願いして差し出した朱印帳に筆を走らせながら宮司さんにそう言っていただけただけでも、
出掛けた甲斐があったと思うべきでしょう。
神社近くの土手に、
「ノゲシ」の仲間でしょうか、名を知らない野草が、春の色の花を咲かせていました。
ファインダーを覗き、ピントを合わせた時、
一瞬、オフクロの笑顔が瞼に浮かんで重なった気がしました。
たしかに母は、
戦後の混乱期を
雑草のように逞しく生きながらも、私たち子供にはいつも笑顔を忘れない
筋金入りの「明治女」でした。
オフクロ、
元気にやってるかい?
ろくに墓参りにも行かず、ごめんな。
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