重低音のBlue Canary

♪ 思いつくままを、つたない文と photo で …

無音の響き。

2008-06-27 | つれずれ



コンクリート製ではありません。
石の梵鐘です。

花崗岩に、丁寧に手彫りされたものであることが判ります。




いまでは全国でも珍しいこの石の梵鐘が吊り下げられているのは
名古屋市東区泉「松嶋山 圓明(えんめい)寺」です。




創建は文明年中(1469~1486年)と言いますから
いまから五百余年前に遡る、そこそこの古刹です。



「金属類回収令」という言葉をご存知の年配者も、まだ少なくないのではないでしょうか。

発せられたのは、第二次大戦末期の昭和16年。
戦局が悪化し、物資――中でも武器の生産に必要な金属資源が不足してきたことから、
それを補うため、官民が所有するあらゆる金属類が供出を強いられました。
お寺の梵鐘も、その例外ではありませんでした。


ここ「圓明寺」の梵鐘も翌17年に強制供出され、
寂しくなってしまった鐘楼に吊り下げられたのが、
この石の梵鐘だったのです。





終戦後、多くの寺では、
溶かされずに済んだ梵鐘が戻ってきたり、
帰ってこなかった寺では新たに作った例がほとんどでした。

しかし「圓明寺」の鐘は戻ってこず、
戻らなかった本来の鐘の代用として作った石の梵鐘を、
現在も吊るし続けています。




今日の帰り、お寺に立ち寄っていただいてきた冊子には、
梵鐘をあえて作り直さなかった理由は何も書かれていません。


でも、
分かるような気がします。

それはたぶん、
戦争を、
二度と起こしてはならないという、
「無言のメッセージ」なのではないでしょうか。



石の梵鐘ですから、
撞くことはありませんし、
仮に撞いても、音はしません。

しかし――。


鐘楼の下に立ち、
石の梵鐘を見上げながら佇んでいると、

「ゴーン」………。

静かで、とても深みのある、
けれど、どこかに悲しみを帯びた鐘の音の余韻が、

心の奥底に沁み入るように響き、
いつまでも消えない気がしてなりません。




…………。

ほら、聴こえたでしょ?



--------------------------------------------------------------------------