重低音のBlue Canary

♪ 思いつくままを、つたない文と photo で …

なぜ?

2008-02-14 | つれずれ
たびたび所用で出掛ける静岡方面行きの途中、
近くを通る時は必ずと言ってよいほど立ち寄る喫茶店があります。

その地域では珍しい紅茶専門店「S」です。




値段は少し高いのですが、
納得するだけの美味しい紅茶を楽しめるだけでなく、



店内の落ち着いた雰囲気や、
自家製のパンを中心にしたランチメニューとその味、
店員の接客サービスなど、あらゆる面で満足していたからです。

   

オーナーが自身の「社長ブログ」に綴っていた
店づくりについていつもいろいろ考えている真摯な姿勢にも、好感を持っていました。




だから、
たしか一昨年の秋、
本店から少し遠くにある、某リゾートホテルの施設内に、
今度は食事をメインにした支店を出したと知った時は、
少し遠回りでしたけど、足を運びました。

ところが……。


その支店は、
食事の内容も、店の雰囲気も、店員の接客も、
正直言って、期待外れでした。

本店での満足度が高かっただけに、アラが、より目立ってしまったのかも知れません。

でも、できればもっと楽しめる店になってほしかったから、
できるだけ失礼のないように気を配りながら、
「社長ブログ」のコメント欄に、私なりの感想を書き込みました。


「率直なご意見、本当にありがとうございました。ご期待に沿うように努めますので、今後ともよろしくお願いします」
――そんな返信をいただいてから数カ月後のことです。

「支店を閉鎖します」という案内を、
久しぶりに覗いたホームページで知りました。

「借り物の店舗だったため、思うような店づくりができませんでした」と
「社長ブログ」には書かれていました。


(テナント店というのは、そういう難しさがあるのかも知れないな)と思いながらさらに数カ月後のことです。

さらにまた別の場所で、今度は「S」の支店としてではなく、新しいコンセプトでレストランをオープンするというお知らせを、ホームページで見ました。


もちろん、行ってみました。
市の中心街からは離れていますが、
今度は独立店舗です。

でも……。


またもや期待とは、何か違ったのです、
オーナー自身が調理して出すメニューの傾向も、味も、店の雰囲気も。


それでも2度ほど食事に出掛け、
少し間を置いて3度目に行った時です。
定休日ではなかったのに、
店の扉が閉まっていました。

半月前に閉店していたことを
貼り紙で知りました。
オープンしてまだ半年も経っていないのに。

「支店や新店の経営に時間とエネルギーを注ぐあまり、店長ら任せきりにした本店の経営が思わしくなくなってきたため」だと、
後で見た「社長日記」には閉店理由が書かれていました。


そして、
先週末のことです。

何気なく手に取った地元新聞の片隅に
喫茶専門店「S」の、こんな「お知らせ」を見つけました。



「今月20日でお店を閉めます」


あわてて、行ってきました。
10時過ぎ、まだ開店間もない時間帯なのに、
駐車場は満杯でした。
道路脇で、順番を待っている車もあります。

みんな、閉店と聞いて、駆けつけたのでしょうね。
そういうファンに支えられてきたお店のはずでした。
それが、なぜ――。





「原材料の高騰や時代情勢の移り変わりなどにより、お客様に満足していただけるサービスを提供することが困難になりました」と、入口に掲げられた「ご案内」に書かれていました。
それはそれで事実なのでしょうね、たぶん。

でも、
それだけなのでしょうか?

というより、
本当にそれが一番の理由なんですか?オーナーのS・Rさん。


「寂しい話になっちゃったね」と、
顔見知りの女性店員さんに声を掛けました。
「はい…。申し訳ありません」と彼女は、急に潤みかけた涙をあわてて隠すかように顔を逸らしながら答えました。

「オーナーのSさんは、どこにいるの?」と重ねて訊くと、
「さあ…。今日はこちらには居ません。なんか忙しいみたいで、もしかすると……いまは日本には居ないのかも」



「ご案内」には書けない、どんな理由や事情があったのかは、もちろん知りません。

でもね、

26年間という結構永い歳月営業を続けてきて、
それなりに固定ファンが出来、
そういう彼らが、いまこうして別れを惜しむかように次々に店を訪れている最後の最後に、
Sさん、なぜあなたは顔を見せないのですか?

私にはそのことが、
大好きなお店がなくなることと同じくらい、
いえ、それ以上に、
寂しくて、
残念です。




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