阿川弘之著 ちくま文庫 2017年刊(初出1975年11月~京都新聞連載)元海軍士官で、「軍艦長門の生涯」が代表作と言えば、どう見ても右翼で、私とは縁遠いひとかと思いきや、なぜかこのひとの文が大好きである。佐和子を通しても、もと文藝春秋のエッセイストとしても親しんで来た。文を好きかどうかに、思想は大した問題ではないのかもしれない。上の子が21歳の時、妻の思いがけぬ妊娠、「戦艦長門の生涯」の新聞連載 . . . 本文を読む
2003年国書刊行会刊 著者 吉屋信子 初出 1938年1月より「少女の友」連載吉屋信子42歳の作品。年齢からくる成熟か、戦時中のためか、作風が変化。物語:東京で生まれ育った伴三千代は、女学校の教師になるため鉄道で地方に赴くが、車中で、親に置去りにされた幼い女の子に遭遇し、その子を引き取ることにする。「捨て子」が珍しくない当時のまずしい日本。心優しく美しく、富と権力に屈しない新任の先生は絶大な人気 . . . 本文を読む
著者 シモーヌ・ド・ボーヴォワール訳者 井上たか子発行所 人文書院 2018年(原書2013年)原著は1967年で、これまで単行本にはなっていない。物語はソ連を旅行中の初老のフランス人夫婦が、おたがいに行違いが生じるが最後には和解するといったもの。ふたりは退職教師であり、現実のサルトルとボーヴォワールでなく一般化されている。老いからくる心身の衰えを痛感し、夫婦関係もほころびだすといったそれぞれの独 . . . 本文を読む
瀧田眞砂子さんが、句集を送ってきてくださった。彼女とは30歳のころ、アジア・アフリカ語学院で知り合った。先日ふと彼女が川柳作家になっていることを知ってから、毎朝の万能川柳欄で寿々姫の句を楽しみにするようになった。Kも見つけるとすぐ教えてくれる。しかし、年に何回出るかという頻度なので、まさか句集が出るとは期待していなかった。まったくの不意打ちであった。同封の手紙によると、2004年に投句をはじめ、累 . . . 本文を読む
能町みね子著 2019年平凡社刊「人を食った結婚」をしようと、愛情も欲望も抜きで、子供を持つ気もなく、三十代のトランスジェンダーの女性と四十代ゲイのサムソン・高橋の行った「結婚」のいきさつを、淡々と綴った、エッセイあるいは私小説。図書館で長い間待たされ漸く手に入ったので期待に満ちて読み始めたが…。そもそも彼女の存在を意識したのは最近だ。年明けの1月9日、何かしながら耳だけ . . . 本文を読む
著者 シモーヌ・ド・ボーヴォワール 訳者 川口篤・笹森猛正新潮文庫 1956年初版 79年28刷 (初出1943年) ボーヴォワールの最初の小説。大戦中に刊行され、その当時は彼女もまだ、社会的連帯とか責任感よりも、いかに自分の欲望に忠実にアナーキーに生きて行くかで頭がいっぱいだった時代。 物語の舞台は1938年から39年の、大戦直前のパリである。登場人物は30代前半のピエール(俳優で舞台監督)とフ . . . 本文を読む
~ポール・クローデル外交書簡1921-27~ポール・クローデル著 奈良道子訳草思社文庫 2018年百年前に大使として赴任した、ポール・クローデルは日本文化を理解し、日本人に敬意と愛情を抱いた詩人にして外交官である。カトリック教徒だが、赴任前から日本文化に親しんでいた。鋭い感受性と洞察力でとらえた当時の日本・・・読み応えのある書簡集である。訳も綿密で読みやすい。姉のカミーユ・クローデルはロダンの弟子 . . . 本文を読む
三島由紀夫著 新潮文庫1979刊(初出1965ー1968)特に三島の愛読者というわけでもないので、手ごわそうなこれら二作は初めて読んだ。こんな時手掛かりとする巻末の解説は・・・付いてない。かわりに「自作解題(7編)」で作者みずから語っている。1.「サド侯爵夫人があれほど貞節を貫き、獄中の良人に終始一貫尽くしていながら、なぜサドが、老年に及んではじめて自由の身になると、とたんに別れてしまうのか、とい . . . 本文を読む
清沢 洌 (きよさわ・きよし)著 岩波文庫 1990年 刊行
戦争中に書かれた本はたいていは、時代の風潮にのったものだが、時には、抵抗する者もいる。果して自分なら、できるだろうか、と想像したりする。
この著者はジャーナリストだが、視野が広く、先見性がある。16歳から、米国の教育を受けたことが大きいと思う。原題は「戦争日記」で戦後,言論が自由になった . . . 本文を読む
①「文字通り激震が走りました」(文春文庫)②「うっかり鉄道」(幻冬舎文庫)③「私以外みんな不潔」(幻冬舎) 先月9日「大相撲どすこい研ー関脇はつらいよ」というNHKのテレビ番組を見ていたら、才気きらめく女性が出ている。それが彼女を知った最初であった。後で調べたら東大卒で、LGBTのT(トランスジェンダー)(M→F)。今はゲイの男性と結婚している。著書に「オ▽▽だけどOLやってます」「結婚 . . . 本文を読む
シモーヌ・ド・ボーヴォワール著 1983年人文書院刊
二宮フサ・海老坂武・朝吹三吉訳
サルトルの晩年の10年間を綴った「別れの儀式」テープから起こした「サルトルとの対話」が収録されている。ノーベル文学賞の候補者となり、知の巨人といわれたサルトルが、人より早く老い・病気・失明に侵される姿を目の当りにすると、感慨もひとしお。
二人の名が世界史 . . . 本文を読む
オノレ・ド・バルザック著 伊藤幸次・私市保彦訳1976年 東京創元社刊 バルザック全集(26) 彼の全体像を知るには、小説よりも書簡集が適していると思ったので借りてきた。ざっと読むと、彼が原稿のほかに、手紙も膨大な量を書いていたことが分かる。スタンダールやジョルジュ・サンドへの手紙や、アンデルセンの芳名帖のための文章もある。印刷業者への怒りのこもった手紙、妹への日記代わりのような手紙、母親への事務 . . . 本文を読む
ビアンカ・ランブラン著 阪口由美子訳
草思社 1995年刊
発売から25年の間に、3回手に取っている。初回はまだ東京にいたころ、発売早々に本屋で見かけ、ぱらぱらめくってそのまま置いてきた。そのつぎは10年後で、自分のハンドルネームBiancaを検索していたら、この本にぶつかり、読みたくなった。さいわい近くの大阪府茨木市立水尾図書館の書架にあり、その際ジョンソン「 . . . 本文を読む
シュテファン・ツヴァイク著 水野亮訳
早川書房 1980 発行 (初出 1945)
正月にゆっくり読もうと暮れの26日に借りて、昨19日読了した。生涯のほとんどを借金取りから逃げ回っていたバルザックは、外国での方が文学的名声が高く、しばしば王侯のような歓迎を受けていたらしい。著者の故郷ウィーンでも大変な人気だったから、この著書にもツヴァイクの尊敬の念がよく表れており、彼を妨害す . . . 本文を読む
1974(初出1834)東京創元社 バルザック全集 第7巻 古田幸男訳映画「金色の眼の女」を見たあとで、原作を読んだ。バルザックという、大きなお腹の作家は、現世的な快楽ーお金や名声や女性に対する欲望が人一倍強く、日本人の考える文学者のイメージからは遠く、私としては縁が遠かったが、たまには、読まなくてはと。 ある青年の、愛の物語である。「金色の眼の女」と巷で呼ばれる神秘的な娘と交渉を持った一人の青年 . . . 本文を読む