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孤独な帝国 日本の1920年代 

~ポール・クローデル外交書簡1921-27~
ポール・クローデル著 奈良道子訳
草思社文庫 2018年

百年前に大使として赴任した、ポール・クローデルは日本文化を理解し、日本人に敬意と愛情を抱いた詩人にして外交官である。カトリック教徒だが、赴任前から日本文化に親しんでいた。鋭い感受性と洞察力でとらえた当時の日本・・・読み応えのある書簡集である。訳も綿密で読みやすい。姉のカミーユ・クローデルはロダンの弟子。

東京日仏会館の創設準備の一環として仏領アンナン領事が来日した際、黒田子爵(清輝)がフランスへの恩返しと、重い糖尿病だったのに、結果的に命を縮めてまで尽したということを知り、驚きと嬉しさが交々であった。単にわが郷土の画家とのみ理解していた彼にこういう陰徳があったとは。イギリスとは日英同盟廃棄(1921)、アメリカでは排日移民法の成立(1924〉と、日本は国際的孤立を深めているときに、「人種差別的アングロサクソンとわが国は違う」と、フランス大使としてフランスの立場を鮮明にした。

比叡山でのフランス語夏期講座を創設したのも彼だそうだ。
アインシュタインの来日に沸く日本人を揶揄し、彼はスイス人と自称しているとドイツ色を薄めたり、イタリアのファシストが来日し宣伝するときも、英国皇太子の来日に際しても、かれは常にフランスの独自性を強調している。

さて以下は、ついでに書いておきたい。 
関東大震災(1923)で自らも被災、その夜横浜から東京まで歩いたが、沿道の庶民の、助けを求めるにも慎みを失わない態度に打たれたそうだ。
第二次大戦中のある夜会で、敵同士であるにもかかわらず、「世界中でただ一つ滅びてほしくないのは日本人」「かれらは貧しい、だが高貴である」といったと聞いて、単純にうれしい。

この書簡集は、できれば買って手元に置きたいくらい素晴しい後味だ。
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