ここでは、2019年9月14日配信の歌会たかまがはら2019年9月号で皆様からいただきました温さんへの質問をご紹介いたします。
回答につきましては温さんからいただいたものをそのまま掲載させていただきます。
なお、ご不満等は一切受け付けません。あらかじめ、ご了承ください。
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<番組中にお聞きした質問>
Q1 好きな音楽は何ですか?(鹿児島県 西淳子さん)
A1 "ジャンルとしてはヒップホップが一番好きです。もうかれこれ15年くらい聞いています。好きなアーティストは(ほんとうに沢山いるのですが)まず唾奇やjinmenusagi、鈴木真海子、野崎りこん、あたりがパッと思い浮かびます。ここ最近はDos Monosとか、すこし系統が違うけどクボタカイ、Tok10あたりの若手も激熱ですね。飛びぬけて日本語のラップがうまいなと思うのはMummy-DとACE COOL、Kenny Doesの三人。もちろんバトルも大好きです。U-mallowのバトルがかなり好き。最近、ヒップホップにおける方法論から照らしてみて、短歌ってまさに音楽だなぁ、と思ったことが「これは音楽だ!と思う短歌」というテーマを設定した理由でした。
とはいえいろんなジャンルを聞きます。ここ一年くらい、一番好きな歌手はカネコアヤノです。解散してしまいましたが、andymoriというバンドも同じくらい好きでした。他にも好きなアーティストは沢山いるので、そういうのが好きな人は話しかけてください。"
Q2 短歌における定型ってなんだと思いますか?(東京都 乾遥香さん)
A2 "ヒップホップから短歌を照射してみると、短歌の定型(5・7・5・7・7)とはヒップホップで言うビートなのではないか? という説を唱えてみたくなります。
ラップは、ビートに対してアプローチする性質を持っています。アプローチとは、ビートのリズムパターンに対して「気持ちいいリズムで言葉の音をはめる」ということです。その解はもちろん唯一ではなく、オンで乗せる、オフで乗せる、もしくはレイバック気味に/あるいは早口で言葉を詰める……などなど、様々な手法があります。
短歌も、「5・7・5・7・7」という基礎的なリズムに対して、わざと余らせて空白を作るとか、完全に無視してオフで乗せるとか、促音によってジャンプ→着地するとか、そういうことが実際に行われています。それは、ラップのビートアプローチと同じ性質のものであるように僕には思われます。"
Q3 温さんがこれこそ音楽だ、と思う一首を教えてください(三重県 はだしさん)
A3 "ジュンク堂でおはようのキス 信じてる 水だけで生き延びる物語/初谷むい
(「おはよ、ジュンク堂でキス、キスだよ。」、『ぬばたま 創刊号』、2017年)
「水だけで生き延びる物語」がめっちゃきれいだと思います。この下句は「5・5・5」で構成されているのですが、短歌なので「7・7」の重力がはたらき、その影響で「延」を中心とする線対称のリズムが描かれることになります。まずこのリズムの組み立て方だけでもかなりいけてます(これがさっき話したビート(定型)へのアプローチということです)。
さらにこのフレーズは音階もよくて、音の並びの構造が同じなのです。そこに周期性があります。周期性には美がある(気持ちいい)、というのが音楽の基礎的な考え方だと思います。
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みずだけで いきのびる ものがたり
(正確には「ものがたり」の「た」はちょっと落ちると思うけど)
さらにさらに、頭文字である「み」→「い」→「も」の音が一音ずつ下がっていることも注目です。近い音階で言うとG(ソ)→F(ファ)→E(ミ)です。これはもうコード進行と呼びたいくらいなのですが、ちょっとそれは行き過ぎな気もするし、短歌は作曲ではないので「このように構築されている」という断言よりは「この結果気持ちよくなっている」という説明にとどめたほうが豊かかなぁと思うので、そのように主張します。「水だけで生き延びる物語」って、なんかわかんないけどいい感じじゃないですか。
初谷むいさんの歌は、これこそ音楽だ、と思う率が高いですね。"
<短歌についての質問>
Q1 古典和歌や古文に対して、音楽的という観点から思うところがございましたらお聴きしたいです。(大阪府 山本千景さん)
A1 "古典和歌や古文はわかんないです。すみません。
音楽の話に限らず、昔の歌については、時代を超えて作品が楽しめるなんてほんとかよ、という疑念を持っています。作品の価値とは時代通念による強固な支配のもとで成立するものであり、にもかかわらずその作品を鑑賞する際には、感動するのに邪魔なこの認識は無視されがちである、とわたしは考えているので、千年も前の人間が作成した和歌と現代の人間が作成した短歌とを同一の俎上にあげるような姿勢(とそれを可能にする、定型というものが持つ均質化のはたらき)については警戒心があります。
もちろん、その壁を取り払うために真摯に研究を重ね、現代側から価値を与えるのではなくて作品の実際の価値を受け取りに行くような研究者の姿勢には、大きなリスペクトを送りたいです。"
<音楽についての質問>
Q1 音楽の良いところを教えてください(東京都 乾遥香さん)
A1 美しくて気持ちいいことです。
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以上となります。皆様からのたくさんのご質問ありがとうございました。
回答につきましては温さんからいただいたものをそのまま掲載させていただきます。
なお、ご不満等は一切受け付けません。あらかじめ、ご了承ください。
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<番組中にお聞きした質問>
Q1 好きな音楽は何ですか?(鹿児島県 西淳子さん)
A1 "ジャンルとしてはヒップホップが一番好きです。もうかれこれ15年くらい聞いています。好きなアーティストは(ほんとうに沢山いるのですが)まず唾奇やjinmenusagi、鈴木真海子、野崎りこん、あたりがパッと思い浮かびます。ここ最近はDos Monosとか、すこし系統が違うけどクボタカイ、Tok10あたりの若手も激熱ですね。飛びぬけて日本語のラップがうまいなと思うのはMummy-DとACE COOL、Kenny Doesの三人。もちろんバトルも大好きです。U-mallowのバトルがかなり好き。最近、ヒップホップにおける方法論から照らしてみて、短歌ってまさに音楽だなぁ、と思ったことが「これは音楽だ!と思う短歌」というテーマを設定した理由でした。
とはいえいろんなジャンルを聞きます。ここ一年くらい、一番好きな歌手はカネコアヤノです。解散してしまいましたが、andymoriというバンドも同じくらい好きでした。他にも好きなアーティストは沢山いるので、そういうのが好きな人は話しかけてください。"
Q2 短歌における定型ってなんだと思いますか?(東京都 乾遥香さん)
A2 "ヒップホップから短歌を照射してみると、短歌の定型(5・7・5・7・7)とはヒップホップで言うビートなのではないか? という説を唱えてみたくなります。
ラップは、ビートに対してアプローチする性質を持っています。アプローチとは、ビートのリズムパターンに対して「気持ちいいリズムで言葉の音をはめる」ということです。その解はもちろん唯一ではなく、オンで乗せる、オフで乗せる、もしくはレイバック気味に/あるいは早口で言葉を詰める……などなど、様々な手法があります。
短歌も、「5・7・5・7・7」という基礎的なリズムに対して、わざと余らせて空白を作るとか、完全に無視してオフで乗せるとか、促音によってジャンプ→着地するとか、そういうことが実際に行われています。それは、ラップのビートアプローチと同じ性質のものであるように僕には思われます。"
Q3 温さんがこれこそ音楽だ、と思う一首を教えてください(三重県 はだしさん)
A3 "ジュンク堂でおはようのキス 信じてる 水だけで生き延びる物語/初谷むい
(「おはよ、ジュンク堂でキス、キスだよ。」、『ぬばたま 創刊号』、2017年)
「水だけで生き延びる物語」がめっちゃきれいだと思います。この下句は「5・5・5」で構成されているのですが、短歌なので「7・7」の重力がはたらき、その影響で「延」を中心とする線対称のリズムが描かれることになります。まずこのリズムの組み立て方だけでもかなりいけてます(これがさっき話したビート(定型)へのアプローチということです)。
さらにこのフレーズは音階もよくて、音の並びの構造が同じなのです。そこに周期性があります。周期性には美がある(気持ちいい)、というのが音楽の基礎的な考え方だと思います。
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みずだけで いきのびる ものがたり
(正確には「ものがたり」の「た」はちょっと落ちると思うけど)
さらにさらに、頭文字である「み」→「い」→「も」の音が一音ずつ下がっていることも注目です。近い音階で言うとG(ソ)→F(ファ)→E(ミ)です。これはもうコード進行と呼びたいくらいなのですが、ちょっとそれは行き過ぎな気もするし、短歌は作曲ではないので「このように構築されている」という断言よりは「この結果気持ちよくなっている」という説明にとどめたほうが豊かかなぁと思うので、そのように主張します。「水だけで生き延びる物語」って、なんかわかんないけどいい感じじゃないですか。
初谷むいさんの歌は、これこそ音楽だ、と思う率が高いですね。"
<短歌についての質問>
Q1 古典和歌や古文に対して、音楽的という観点から思うところがございましたらお聴きしたいです。(大阪府 山本千景さん)
A1 "古典和歌や古文はわかんないです。すみません。
音楽の話に限らず、昔の歌については、時代を超えて作品が楽しめるなんてほんとかよ、という疑念を持っています。作品の価値とは時代通念による強固な支配のもとで成立するものであり、にもかかわらずその作品を鑑賞する際には、感動するのに邪魔なこの認識は無視されがちである、とわたしは考えているので、千年も前の人間が作成した和歌と現代の人間が作成した短歌とを同一の俎上にあげるような姿勢(とそれを可能にする、定型というものが持つ均質化のはたらき)については警戒心があります。
もちろん、その壁を取り払うために真摯に研究を重ね、現代側から価値を与えるのではなくて作品の実際の価値を受け取りに行くような研究者の姿勢には、大きなリスペクトを送りたいです。"
<音楽についての質問>
Q1 音楽の良いところを教えてください(東京都 乾遥香さん)
A1 美しくて気持ちいいことです。
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以上となります。皆様からのたくさんのご質問ありがとうございました。