乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

遺伝 陽春   萩原朔太郎   (2景)

2012-04-09 | ことのは


      
      
  
    


    遺伝   萩原朔太郎




    人家は地面にへたばって

    おおきな蜘蛛のように眠っている。

    さびしいまっ暗な自然の中で

    動物は恐れにふるえ

    なにかの夢魔におびやかされ

    かなしく青ざめて吠えています。

      のおあある とおあある やわあ

    もろこしの葉は風に吹かれて

    さわさわと闇に鳴ってる。

    お聴き! しずかにして

    道路の向こうで吠えている

    あれは犬の遠吠だよ。

      のおあある とおあある やわあ

   「犬は病んでいるの? お母あさん。」

   「いいえ子供

    犬は飢えているのです。」

    遠くの空の微光の方から

    ふるえる物象のかげの方から

    犬はかれらの敵を眺めた

    遺伝の 本能の ふるいふるい記憶のはてに

    あわれな先祖のすがたをかんじた。

    犬のこころは恐れに青ざめ

    夜陰の道路にながく吠える。

    のおあある とおあある のおあある やわああ

   「犬は病んでいるの? お母あさん。」

   「いいえ子供

    犬は飢えているのですよ。」


    
      


    陽春   萩原朔太郎




    ああ、春は遠くからけぶつて来る、

    ぽつくりふくらんだ柳の芽のしたに、

    やさしいくちびるをさしよせ、

    をとめのくちづけを吸ひこみたさに、

    春は遠くからごむ輪のくるまにのつて来る。

    ぼんやりした景色のなかで、

    白いくるまやさんの足はいそげども、

    ゆくゆく車輪がさかさにまわり、

    しだいに梶棒が地面をはなれ出し、

    おまけにお客さまの腰がへんにふらふらとして、

    これではとてもあぶなさうなと、

    とんでもない時に春がまつしろの欠伸(あくび)をする。 

        

    









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2 コメント

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こんばんはです。^±^ノ (てくっぺ)
2012-04-09 22:09:38
萩原朔太郎、記念館に行きましたよ。^±^
彼の作曲した楽譜もありました。^±^ノ
それは前橋の敷島公園の中にあります。
敷島公園も、バラが美しいですよ。
また6月に行ってみようかなあと思ってます。^±^ノ
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こんばんは^^ (Rancho)
2012-04-10 00:30:12
 てくっぺさん、「おわあ、こんばんは」(*^-^*)
 うれし~いコメントをありがとうございま~す♬^D^♫
 萩原朔太郎、記念館☆行ってみたいです(^^)♩
 バラですか?きっと、きれいでしょうね☆
 前橋の敷島公園?楽しそうなところですね!
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