urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

森絵都『永遠の出口』集英社文庫

2006年04月02日 | reading
ネタバレ一応注意。

いや、結論から言うとね、やっぱり森絵都は凄いんですよ。しかし良い本を二冊続けて読むとなにか後ろめたいような気持ちになってしまうのは、多読派の歪んだ性なのでしょうか。言うほど読んでないけど。
で、期待通りの素晴らしい作品でした。主人公の少女の小学校三年生から高校三年生までの生活を、連作形式で描いた作品。清廉な感情も、ひやりと鋭い悪意も、胸をつく切なさも…およそ青春小説のすべてが、まったく隙の無い美文と丹念なエピソードの積み重ね、絶妙のキャラクタ造型のなかに結晶しています。
両親の離婚後の想像をしてるシーンや、浴場での母と姉のやり取りに爆笑しながら、やがて明らかになる真相の感動にヤラれる「時の雨」は完璧な名編(でも万引きで捕まった娘に《「父さんだって欲しいものはあるけど、なんとか小遣いの範囲でやりくりしてるんだ!」》はねーなw)。「恋」に描かれる「うまくいかなさ」には胸が塞がれる思いがするし、ラストシーンの余韻も圧倒的。ラストシーンと言えば「春のあなぽこ」も最高。とにかく、それぞれの作品、あるいはそれを構成するエピソードのひとつひとつの造りが上手すぎる。《「うちの両親がお酒の密造を!」》(147P)は新幹線の中で爆笑してまったわ。今こうやって引用してても笑える。
さらにはそれが美しい文章にガッチリと支えられているわけです。引用したくなりまくり。

《そう思った瞬間、あまり馬の合わない友人宅での居心地の悪い夕食会は、何か大事な意味を宿した苦行へと変わった。取り返しのつかない何かを取り返そうとするように「もっと食べて」を連発するおばさんは、確かに私のどこかを満たし、そしてきっと、好恵のどこかを癒したのだ。》(33P)

《それから長い年月が流れて、私たちがもっと大きくなり、分刻みにころころと変わる自分たちの機嫌にふりまわされることもなくなった頃、別れとはこんなにもさびしいだけじゃなく、もっと抑制のきいた、加工された虚しさや切なさにすりかわっていた。どんなにつらい別れでもいつかは乗りきれるとわかっている虚しさ。決して忘れないと約束した相手もいつかは忘れると知っている切なさ。多くの別離を経るごとに、人はその瞬間よりもむしろ遠い未来を見据えて別れを痛むようになる。》(111P)

《洗面台の鏡越しにハサミを手にした母の楽しげな顔を見る。/時折、私はその光るハサミを母の喉元へ突きたててやりたい衝動に駆られた。/原因はあくまで前髪であるにもかかわらず、それは濁りのない冴えた殺意だった。》(116P)

天才やと思うわ。

作品の評価はA。

永遠の出口永遠の出口
森 絵都

集英社 2006-02-17
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
追記 (urt)
2006-04-03 20:53:42
あと日テレは、「女王の教室」に関して金払ってんのかな?
返信する
Unknown (いしやま)
2006-04-05 07:30:59
元気しったがっす??

正直ガソスタなめてました…

お互いがんばるべ!
返信する
Unknown (urt)
2006-04-05 22:39:00
疲れてますがなんとかやってます。

がんばんべ。
返信する