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ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

石持浅海『扉は閉ざされたまま』祥伝社ノンノベル

2005年08月21日 | reading
ネタバレ注意。

倒叙モノです。
ミステリマニア外の方に説明しますと、犯人の視点から描く推理小説をそう呼びます。例として最もよく挙げられるのは「刑事コロンボ」のシリーズですかね。厳密にはどうか分かりませんが…。

死体が見つからない(というか死が発覚しない)ままに繰り広げられるロジック対決という趣向はなかなかに目新しく、面白いと思います。ロジック自体はまあ、犯人が見落としていた小さな瑕疵を付く、という、倒叙の常として真っ当にせせこましいものでありますが。
「閉ざされたまま」なのは犯人の意図と必然性があり、動機にも繋がってくる部分なのですが、この動機が納得できない。ここのロジックだけ浮いてしまっていて、気持ち悪いんですよね…。臓器移植との絡みは面白そうなのですが、うまい処理ではないと思います。佳多山大地がこの動機の瑕疵を、伏見が狂気にふれていたと見るべきだと述べていましたが(今回のメフィスト)、そもそもこの人のキャラクタ造型が、『月の扉』を読んだ時にも感じましたが、クレバーに見えながらも狂気を抱え込んでいる、という設定が多いんですよね。優佳なんかもクレバーというよりむしろマッドな造型ですよね。そういう中で狂気とロジックをいかに絡ませる、あるいは折り合いをつけていくのか、ってのはこの作家の作品を読んでいくうえで面白い着眼点だと思います。なんかクイーンみたいなロジック一辺倒の、洗練された作家ってイメージがありそうですが、結構歪んでるんじゃないかと見ているのですよ、僕は。西澤みたいな、根性の捻じ曲がった心理描写に溢れたミステリとか、面白いんじゃないかなあ。

作品の評価はB。

4396207972扉は閉ざされたまま
石持 浅海

祥伝社 2005-05
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