urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

古川日出男『ロックンロール七部作』集英社

2005年12月09日 | reading
ネタバレ一応注意。

《だから、この物語は彼らに敬意を表して、シベリアを起点に流転(ロール)する。ただし、安っぽい海賊盤さながら、しばしば針飛びを起こし、光に透かすと誰かの肋骨が浮かびあがる、そんなめちゃめちゃな語り口で。/そう、今から透けるのは歴史だ。》(99p)

七大陸をロールする、ロックの二十世紀史。『ベルカ』における犬をロックに置き換えたイメージですね。いきなりエピグラフが「ワールズエンド・スーパーノヴァ」でびっくりしたよ。
相変わらずテンションの高い独特の文章で、震えがはしるようなかっこよさは頻出します。しかしこの歴史的な叙述を絡ませての語りの手法にやや食傷気味かも。もっと個人に深く踏み込んだドラマ(『沈黙』みたいな)が読みたくなってきましたな。でも意外と量産の効く作家みたいでその点は凄く嬉しいです。

《武闘派の王子様が父親のあだ討ちを果たす瞬間に、三十数年もの歳月を超えて、そのロックンロールはいまやタンゴそのものである格闘家の蹴り足の内側(なか)に共鳴するように、確かに触れて響いている(ノックアウト!)。》(274p)

引いた文章は違いますが、話としては第五部が面白かったな。奇想ですわ。
引用が多過ぎてどうかと思うのですが、かっこいいんだからしょうがないよね。一番震えたのはラスト近くの以下のセンテンスです(ネタバレとも微妙に違いますが、新鮮な気持ちで本作に臨みたい方は読まないでください)。

《大切なのは、あなたがレコードを持ってきたということなのよ。/レコードを携えて、二十世紀から密航してきた事実なのよ。/この煩い号に。/だからあたしは違うことを語る、と彼女は決める。あたしはあたしの報道(ニュース)とも違うことを物語る。あたしは希望や自立や鷹揚や、無垢や、覚醒や解放のために、そのために時間(とき)を費やす。/ねえ、わかる?/これは贖罪なの。戦争の世紀であった二十世紀の。あの世紀のための。あたしたちが歩み去った世紀よ、死ぬな、ロールしろ、とあたしは言うの。/戦争の世紀の代わりに、あれはロックンロールの世紀だった、と言うの。/あたしは断言するの。》(320p)

ロックンロール。
『LOVE』の時にこの作家を評した言葉が、実作で示された気がして嬉しくなってしまいました。
ロックです。

チープに凝ったブックデザインもいいっすね。

作品の評価はBマイナス。

4087747875ロックンロール七部作
古川 日出男

集英社 2005-11
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools