urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』講談社文庫

2005年10月08日 | reading
大ネタバレ注意。

ミス研十月読書会課題本。
「なつとふゆのそなた」です。僕は「なつふゆ」と略してますが、あなたが「ふゆそな」と略すのを止めはしません。

多分七年ぶりぐらいの再読。
初めてこの作品を読んだ時の衝撃を、僕は未だはっきりと憶えている。中学生で、綾辻行人でミステリの…新本格の味をしめたばかりの頃だった。たった一言で、世界の意味が反転してしまうような。そんな一瞬の切れ味。素晴らしいミステリとはそのようなものだと思っていた。
実に魅力的なミステリである。孤島。コミューン。首切り。雪の密室。しかしやがて、このミステリは徐々にそのコードから逸脱していく。犯人の設定。顕現する奇蹟。そして、ヒロインに孕まれる謎。戸惑いはやがてカタストロフィへと至る。
これは僕が初めて徹夜で読んだ小説である。畳み掛けるような後半の展開と不条理は、僕に巻を置くことを許さなかった。そして、たったひとつだけ不足していた「探偵」のピースが、予想もしなかった言葉を吐き出し、物語は唐突に終わる。――閉幕。混沌の中に放り出されながら、それまで読んできたミステリとの質の違いに戸惑いながら、まさに「眩暈感」の陶酔のなかで、僕にあるのはただひたすらの畏怖だった。

天才だ。

紛れもなく天才だと思った。なにがなんだか分からなかった。しかし、とにかく「すごい」ということだけは分かった。まったく評になっていないが、とにかくそういった類の小説だった、僕のなかで「夏冬」は。

今でも、僕の三本指に入るミステリだ。

そして、今回の再読である。ミステリについて語り合える集団に属しているという貴重な立場にいるうちに、もう一度この本を読んでおきたいと思い、推薦したのは僕だった。
酷く歪な小説である。まず麻耶の文章。かつては才気走って感じられたが、今読むとどうにも読みづらい文章である。だがそれが作品に凄みを与えているようにも思われるのだが。ところどころよく意味の掴めない文章があったのだが、それは読書会の機会に。
歪と言えば、やはり後半の混沌とした展開であろう。実は今回、ネット上で見た仮設を検証する立場で読み進めた。「パピエ・コレ」という概念、そして「夏と冬の奏鳴曲」という謎めいたタイトルが、その解釈だと最も綺麗にミステリの枠の中に落としこまれるように思われた(詳しくは http://www006.upp.so-net.ne.jp/eqfc/private6.html 参照)。しかしそれでも、「和音」の意図が奈辺にあるのか、という疑問は残る。これも読書会にて。

言いたいことはたくさんある(付箋が大変な数になってしまった)のだが、多すぎてうまくまとめきれない。感想めいたことで終わりにしよう。
今回は再読でもあり、初読時のようなインパクトはなかった。しかしその一端は、僕が整然としたプロットを求め、仮説検証の立場から、伏線やキーワード、示唆を拾っていくという読み方をしたためかもしれない。「画」全体の感興が、細部への意味づけを行うことによって壊される、という芸術の在り方は、この小説の主題に見合ったものである気がした。その意味でこの小説は、すぐれてキュビズム的であるのかもしれない。僕のキュビズムは印象論だけれども。

これを書いた時、麻耶はまだ二十代前半であったという。驚嘆する以外にない。竹本健治以来の早熟の才能。
この小説は、その恐るべき才気が生み出した混沌のなかに、ただたゆたうような読み方こそが正しいのかもしれないと思った。

再読なので、作品の評価はしません。
しかしトリプルAクラスの作品だと思います(してんじゃん)。

4062638916夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)
麻耶 雄嵩

講談社 1998-08
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2 コメント

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Unknown (ミト)
2005-10-10 01:35:28
ひさしぶりー。

オッキー文章うまいねぇ。

POPを書かせたい。

ミステリは全く読まなかったんだけど、読みたくなったよ。

ということで、『ふゆそな』買いに行きますわ。
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ありがとー。 (urt)
2005-10-10 11:33:02
これはね、イタい文章になっちゃったね、ちょっとね。

あまりビギナ向けではないと思われる小説ですが、インパクトだけは強いと思われます。よかったら感想聞かせてやー。
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