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グルジア紛争ー根源に複雑な歴史/軍事介入で非難浴びるロシアー

2008-09-17 13:38:28 | 国際政治
 記者の目:グルジア紛争 根源に複雑な歴史=杉尾直哉(モスクワ支局)

 ◇感情論排し、流血回避急げ--露・欧米、認識の差解消を
 グルジアからの独立を求める南オセチア自治州を舞台に、グルジアとロシアが武力衝突した。そして、最も激しい戦闘が行われた南オセチアの州都ツヒンバリを取材して目にしたのは、戦争に翻弄(ほんろう)される住民の悲惨さだった。ロシアがソ連崩壊後初めて本格的に他国に軍事介入しただけに、米国を中心にロシアを一方的に非難する国際世論が強い。だが18日のロシア軍の撤退開始を機に、国際社会は感情論を排除し、武力衝突の原因を冷静に検証すべきだ。そうでなければ、住民が再び犠牲になる可能性が高いと思う。

 紛争勃発(ぼっぱつ)のニュースが流れた8日、私は五輪取材で北京にいた。この夜、4年に1度の「平和の祭典」が開幕していた。国連は昨年10月、五輪期間中のすべての紛争停止を呼び掛けていたが、それがもろくも崩れたのだ。北京出張を切り上げ、ツヒンバリに入ったのは13日。グルジア軍の攻撃で、一般アパートや病院を含む多くの建物が破損していた。住民は無差別砲撃に怒りの涙を流し、グルジア軍を撃退したロシア軍を歓迎していた。

 南オセチアやロシアの住民は、グルジアの「ジェノサイド」(大虐殺)を非難し、同国のサーカシビリ大統領を「ファシスト」と批判。ロシアの報道機関は、「ロシア悪玉論」を展開する欧米メディアの偏向ぶりを連日糾弾する。だがロシアの報道機関は、グルジア側のゴリの住民にも砲撃による死傷者が出た事実を伝えていない。一方、サーカシビリ大統領は、ちょうど40年前の8月、ソ連がチェコに侵攻した例になぞらえてロシアを糾弾した。これに欧米諸国も同調した。

 こんな冷戦時代のような情報戦が続けば、西側諸国とロシアの相互不信は深まるばかりだ。国際的に反ロシアの感情が高まり、冷静な議論や分析はしにくい情勢でもある。また、一般住民に砲弾を浴びせたグルジア軍は非難されるべきだが、同国の攻撃理由もきちんと検証されていない。

 今回の衝突の間接的な原因は、04年に親欧米派でロシア嫌いのサーカシビリ政権が誕生したことだ。ロシアはグルジアの主要産物であるワインの禁輸措置を取ったり、グルジアがロシア人将校をスパイ容疑で拘束するなど、外交対立がエスカレートしていた。

 だが、問題の根源にはカフカス(英語名コーカサス)地方の複雑な歴史がある。この地方は非スラブ系のさまざまな民族がモザイクのように住む場所だ。18~19世紀に帝政ロシアが激戦の末、地域一帯を征服し、旧ソ連の指導者スターリンが諸民族の居住地を分断、グルジアなどの国境を画定したことが民族間の怨念(おんねん)を残す結果となった。今回、ロシアは南オセチア支援を強く打ち出し、ロシアへの併合も視野に入れているようだ。だが、そう簡単にはいかないだろう。

 私は過去5年間、機会をみてはグルジアやロシア側のカフカス地方を見てきたが、その都度モスクワとの認識の差を感じた。南オセチアはロシア側の北オセチアとの統一を求めるが、北オセチアの多くの住民は「同じ民族と思われているが、文化も風習も違う。(統一は)迷惑だ」と答えた。そんな空気はモスクワでは分からない。スターリンの評価一つをとっても、カフカスがモスクワから遠いことを知っておくべきだ。出身地のグルジアだけでなく、北オセチアなどロシア側でも「民族を分断した独裁者」として嫌悪される。一方、プーチン時代以降の今のロシアでは「偉大な指導者」とされている。

 メドベージェフ露大統領は「ロシアは歴史的にカフカス地方の安全の保証人だった。これは我々の使命であり責務だ」と言う。だが、思い込みが過ぎればしっぺ返しを受けかねないことも自覚してほしい。

 ツヒンバリでは上空をロシア軍ヘリが舞い、通りを装甲車が行き交っていた。轟音(ごうおん)の中、28歳の女性の腕に抱かれ、生後1カ月の女の子が眠っていた光景が忘れられない。南オセチアの地位問題の解決は簡単には望めないとは思う。だが、当面必要なのは武力衝突の回避だ。一番の犠牲者は大国の野望に翻弄される現地や周辺の住民たちだからだ。グルジアやロシア、米国など主要国は、互いの言い分に謙虚に耳を傾け、まず認識の差を解消すべきだ。最優先課題は、住民の安全なのだ。

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 ご意見は〒100-8051 毎日新聞「記者の目」係 kishanome@mbx.mainichi.co.jp

(出所:毎日新聞 2008年8月22日 東京朝刊)

記者の目:グルジア軍事介入で非難浴びるロシア=飯島一孝(外信部)

 ◇国際社会の悪者扱い、危険--大国を取り込もう
 ロシアがグルジアに軍事介入し、非難を浴びている。91年のソ連崩壊後、ロシアが他国に軍事介入したのは初めてだが、ソ連時代のチェコスロバキア侵攻と重ね合わせて批判する声もある。今回の紛争で責められるべきはロシアだけだろうか。ソ連時代を含めてロシアは必要以上にバッシングを受けてきたように思う。ソ連崩壊前からロシアを取材してきた記者として、ロシア・バッシングに異論を唱えたい。

 今回の紛争の経過をざっと振り返ると、8月8日の北京五輪開会式にあわせて南オセチア自治州を武力攻撃したのはグルジアだった。これに対し、ロシアが反撃した形だが、グルジアのサーカシビリ大統領の巧みなメディア戦略もあって、「悪者はロシア」という流れができてしまった。ロシア軍が停戦合意後もグルジア領内に駐留を続けていたことが、それに拍車をかけた。

 その後、欧州連合(EU・27カ国)はロシアに経済制裁しようとしたが、欧州の天然ガス需要の3分の1をロシアに依存していることから意見がまとまらず、制裁は腰砕けになった。

 日本のマスコミの一部にも、ロシアを悪者にすれば世論が喜ぶと思い込んでいるフシがある。そうした風潮が続くと、ロシアをみる国民の目が曇らされていく恐れがある。

 冷静にみれば、今回の紛争は北大西洋条約機構(NАТO)の拡大を急ぐ米国と、それを止めたいロシアとの対立が武力衝突に至ったといえる。ブッシュ米大統領は今年4月のNАТO首脳会議で、グルジアとウクライナの「将来の加盟」を約束させた。追い込まれたロシアは、反撃の機会を狙っていた。

 ロシアからすれば、ソ連崩壊以来、西側から冷戦の「敗者」と決め付けられ、無理難題を押し付けられながらもじっと耐えてきたという思いがある。元々「冷戦に勝者も敗者もない」というのがロシアの立場だ。実際、冷戦を終わらせたのは西側だけの“功績”ではない。改革派が保守派をたたいてソ連を崩壊に追い込んだ面もあるからだ。

 ところが、米国は表向きロシアを戦略的パートナーと持ち上げながら、国際安全保障上の重要問題については、ロシアの意見を聞かずに決定し、実行に移している。NАTOの東方拡大しかり、東欧へのミサイル防衛システム設置計画しかりだ。こうした米国の「単独行動主義」にロシアは「無視された」と不満を募らせていた。

 これには米国内からも「NАTO拡大は急ぎすぎ」などの批判が出ている。冷戦終了後、形成された米国の「一極支配」が崩れ、世界は多極化に向かって動きつつある。だが、まだ具体的な構図を描けない段階だ。この時期に、ロシアの言い分を聞こうともしないのはおかしい。

 旧ソ連・ロシアは芸術やスポーツでは優れているものの、「暗い、怖い、汚い」の3Kの国と毛嫌いされてきた。私はソ連崩壊直前の91年夏から97年春までモスクワ特派員として勤務したが、指導者の予想も付かない言動に振り回され、何度も「政治的に未熟な国だな」と思った。だが、エリツィン政権、プーチン政権と民主化を目指す政治の経験を重ねるにつれ、徐々にだが改善されてきた。

 一例をあげると、プーチン大統領になってから年に何度か、内外記者団をクレムリンに招き、長時間かけてていねいに質問に答えていた。今回の紛争でも、在京ロシア大使館がこの1カ月に3回記者会見を開いた。これは異例なことだ。事情を説明して国際社会の理解を得ようという姿勢の表れで、ソ連時代には考えられなかった。こうした努力は評価してもいいのではないだろうか。

 今回の紛争でロシアを孤立させようという議論もでているが、そうすればロシアを追い込むだけだ。ロシアの天然ガス、石油生産は世界1、2位で、経済力も英国並みに復活した。経済面でロシアを孤立させるのは非現実的だ。

 また、米国に肩を並べる超大国から滑り落ちたとはいえ、ロシアは米国に次ぐ核兵器を保有する世界有数の大国である。むしろ積極的に国際機関に取り込んで行動にタガをはめた方が得策だろう。

 ロシアを過大評価するのはよくないが、過小評価するのもよくない。ましてわが国は隣国であり、未来永劫(えいごう)付き合っていかなければならない関係にある。互いに尊敬できる付き合いを追求することが、いま一番大事なのではないだろうか。

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 ご意見は〒100-8051毎日新聞「記者の目」係kishanome@mbx.mainichi.co.jp

(出所:毎日新聞 2008年9月12日 東京朝刊)

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