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ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映問題

2008-04-14 13:35:01 | 国内報道
「靖国」上映中止:「圧力」じわじわと 週刊誌報道、議員向け試写きっかけに

 ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映を予定していた東京、大阪の5館(4社)が相次いで中止を決めた。映画館側は今月12日の封切りを控え、なぜ断念したのか。経緯を検証した。【臺宏士、本橋由紀、鈴木隆】

 ◆街宣、怖がるスタッフ

 「現場は若い女性スタッフばかりだ。彼女たちは携帯電話の着信音にも右翼団体が来たのではないかとおびえる状況だった。しかし、会社としては上映を支える人的配置は困難だった」。「靖国」の上映中止を決めた「銀座シネパトス」。運営する「ヒューマックスシネマ」(東京都新宿区)の担当者は、苦渋の選択だったことを強調した。

 同社によると、右翼団体が、映画館周辺で初めて街頭宣伝活動を行ったのは先月20日午後。3人が乗った1台の街宣車が映画の上映中止を訴えた。22日にも別の団体が来た。いずれも文書での申し入れはなかったが、98年公開の「南京1937」が街宣活動のため相次いで中止に追い込まれたケースを挙げ「同じようになる」と主張したという。脅迫めいた抗議電話もあった。同社は26日、配給協力・宣伝会社「アルゴ・ピクチャーズ」(港区)に上映中止を申し入れ、ポスターも取り外した。その日、別の団体が来たが、中止決定を告げると引き揚げた。

 同社関係者は「過剰な自粛と言われるが、安心して上映できる環境を確保できなかったことに尽きる。昨年、試写を見たときは中止に追い込まれることは想像もしなかった。『反日』という言葉が独り歩きしている気がする」と明かす。

 ◆「近隣の施設に迷惑」

 最も早く上映中止を決めたのは、東京・新宿の「バルト9」を運営する「ティ・ジョイ」(中央区)。同社は「番組編成上の総合的な判断」としているが、自民党の稲田朋美衆院議員らの意向を受ける形で、アルゴが先月12日に国会議員向け試写会を開いた直後だった。アルゴ側は「右翼団体の街宣車が来る恐れがある。映画館は、商業地の真ん中にあり、近隣施設に迷惑がかかる、という説明だった」と明かす。銀座シネパトスと異なり、右翼団体などからの具体的な抗議はないという。

 「Q-AXシネマ」(渋谷区)も「直接的な抗議や特定の団体、個人などからの働き掛けはなかったが、商業施設として万一のことがあってはならない。上映中止は初めてだがやむを得ない」とコメントする。

 「シネマート」を東京、大阪で運営する「エスピーオー」(港区)は今月1日、ホームページに経緯を説明する文書を掲載。国会議員による試写会後にアルゴ側に「安全な上映環境の整備」を申し入れたが「中止にすることで了承を願いたい」と申し出があったとしている。これに対し、アルゴは「エスピーオーは、左右両派を招いた試写会を開くことなど実現が難しい条件を提示した」と、ニュアンスが異なる説明をする。両社は公開に向けて話し合いを再開した。

 ◆「表現の自由の担い手」

 上映を予定している新潟市の「市民映画館シネ・ウインド」は、「個人が会費を払って自由を維持している。23年間、公開を中止した映画はない。自粛ムードが全国に広がった昭和天皇の大喪の礼の時も営業した。大丈夫です」と言い切る。同館では、上官の戦争責任を追及する故・奥崎謙三氏を描いた「ゆきゆきて、神軍」(原一男監督、87年)を上映した時も問題なかったという。

 アルゴの岡田裕社長は「映画は上映して初めて事業が成り立つ産業だ。映画館は重要な表現の自由の担い手だ。頑張れるところまで、頑張るべきではないか」と話す。

 上映中止が広がるきっかけになった国会議員対象の試写会は、文化庁が製作者側に打診し、会場を手配するなど深く関与した。公開前の議員向け試写に対しては「事前検閲だ」と疑問の声もある。同庁は「稲田事務所から助成金についての問い合わせがあった際に視聴の要望を受けた行きがかり上だ」(芸術文化課)と説明。今回の対応が中止につながったことについては「心外だ」としている。

 ◇右傾化、戦前の歴史から学べ--ノンフィクション作家・保阪正康氏
 最も懸念されるのは、面倒なことに巻き込まれたくないと言って靖国問題について議論することを敬遠する風潮が日本社会に広がることだろう。

 言論の自由は、新聞記者や作家が書く自由のみでなく、新聞を運ぶ運転手さんや本を販売する書店員の方たちを含めて社会全体に自由が確立されていなければならない。映画館の従業員が圧力団体の脅しにおびえたり、近隣に迷惑をかける恐れがあるから中止するという理由のみを論じたら社会のあらゆる自由はその段階で最初に制約を受けてしまう。

 文化庁は封切り前の映画を、問題視する一部の自民党議員の声に押される形で、事前検閲のような異例な試写会を事実上おぜん立てした。表現の自由の制約についてあまりに鈍感過ぎる。「公開されるので見てください」と断るべきではないか。

 太平洋戦争に至った昭和10年代は、台頭する軍部におもねる言論が増幅していった歴史だ。そういう社会の中であたりまえのことがだんだん発言できなくなった。ときに一部雑誌などで右派の主張が大きく取り上げられる今日、近隣に迷惑がかかるという限定された状況でのみ上映中止問題をとらえると本質を見誤る。社会の右傾化という大状況をどう認識するかの能力が試されている。ただ、上映する映画館が出てきたことは、日本社会にはまだ復元力があるという健全性を示した。

 <映画のあらすじ>

 8月15日。靖国神社周辺は、戦没者を静かに弔うというよりも大勢の参拝者らで喧騒(けんそう)に包まれる。旧日本軍の軍服を着込み、境内で「天皇陛下万歳」と叫ぶ人たち。星条旗を掲げて「小泉純一郎首相を支持する」と靖国参拝に賛意を示した米国人男性は、警察の指導で神社の外に追いやられる。追悼集会に抗議した青年は、支持者に殴られて血まみれに。被害者にもかかわらず、警察官がパトカーに乗せて連れて行く。今回、助成金を問題視した稲田朋美氏が靖国神社参拝を呼びかけるシーンも登場する。

 カメラは、日本在住19年に及ぶ李纓監督が10年にわたり見つめた神社境内の現実を映し出す。「イデオロギー的見方を打ち消すためにナレーションを一切排除」(李監督)する手法が全編を貫く。

 日本刀は靖国神社の「御神体」で、戦前には、境内で「靖国刀」が製作された。作品には90歳の現役最後の刀匠、刈谷直治さんが登場し、李監督によるインタビューが随所に織り込まれる。小泉元首相の参拝を理解し、戦争を否定する刈谷さんの姿を通じ、靖国の魂と日本人の心情に迫ろうと試みる。

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 ■「靖国 YASUKUNI」をめぐる主な動き■

06年10月    文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」の審査委員会が「靖国 YASUKUNI」を製作した「龍影」(ドラゴンフィルムズ)に対して750万円の助成を決める。

07年12月    「週刊新潮」(12月20日号)が「反日映画靖国は『日本の助成金』750万円で作られた」と報道。

08年 2月上旬  東京4館、大阪1館での上映が確定。

      12日 自民党の稲田朋美衆院議員の事務所が文化庁に対して週刊新潮の記事内容の確認と、映画の視聴を要望。これを受け同庁は議員側の意向を仲介する形で、製作した龍影側に上映会の開催を要望。

    3月上旬  東京、大阪の封切りを除く北海道から沖縄までの地方14館での上映が内定。

      12日 配給協力・宣伝会社の「アルゴ・ピクチャーズ」が全国会議員と秘書を対象に試写会を開催。自民、民主党などから議員ら約80人が出席した。

      15日 「新宿バルト9」が中止をアルゴに通告。

      20日 「銀座シネパトス」で、右翼団体が初めて街頭宣伝活動。その後、同22、26日にも別の団体が来る。

      26日 銀座シネパトスが中止を決定。

      27日 参院内閣委員会で、有村治子議員(自民)が助成金支出の妥当性について取り上げる。

      31日 「渋谷Q-AXシネマ」「シネマート六本木」「シネマート心斎橋」が上映中止を決める▽アルゴが東京、大阪の計5館での今月12日の封切り上映の中止を発表▽稲田氏は「上映の是非を問題にしたことは一度もない」とのコメントを出す。

   4月上旬   日本新聞協会、日本民間放送連盟、日本ペンクラブなどが上映中止について懸念を示す談話などを相次いで発表。

       2日 福田康夫首相が「嫌がらせとかの理由で上映中止になるのは誠に遺憾だ」と表明。

       4日 アルゴが5月から東京、大阪を含む17都道府県の計21館で順次、上映すると発表。

(出所:毎日新聞 2008年4月7日 東京朝刊)

「靖国」上映中止:仙台弁護士会が声明「表現の自由尊重を」 /宮城

 ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(李纓(リイン)監督)の上映中止が東京や大阪の映画館で相次いだ問題で、仙台弁護士会(荒中(あらただし)会長)は11日会見し、「不当な圧力による上映中止という事態が生じないよう、関係機関に対し、表現の自由を最大限尊重するよう求める」などとする会長声明を発表した。

 声明は同弁護士会の常議員会で賛成多数で採択。問題の発端とされる稲田朋美衆院議員(自民)が文化庁に要請し、上映前に国会議員向けの試写会を開催したことについて「表現行為に対する事前抑制につながる恐れがあり、検閲を禁止した憲法の趣旨に照らし合わせても慎重な配慮が求められる」と指摘。

 さらに、試写会後、上映予定館周辺で街宣活動などがあり、上映自粛が相次いだことを受け、政府と国会に対し、試写会開催の経過とその後の経緯について調査を求めている。

 同映画は今のところ、東北地方では山形、福島、盛岡、青森県八戸の4市の映画館「フォーラム」で上映する予定。【比嘉洋】

(出所:毎日新聞 2008年4月12日 地方版)

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衆院山口2区補選ー民主が「道路、年金、高齢者医療」の3点セット、自民党が地域活性化で対抗ー

2008-04-14 02:26:00 | 国内政治
読む政治:衆院山口2区補選 27日投開票(その1) 両党首、命運かけ
 
 福田政権発足後初の国政選挙となる衆院山口2区補選(投開票27日)が15日告示される。選挙直後の29日には、揮発油(ガソリン)税などの暫定税率を復活させる租税特別措置法改正案の再可決が可能になる。そのため選挙結果はガソリン代値上げをめぐる与野党攻防に大きな影響を与え、福田康夫首相と小沢一郎民主党代表の命運を握る。

 ◇民、道路・年金・医療を追及/自、国政隠し「地域活性化」
 11日、体調不良をおして急きょ大票田の岩国市に入った小沢氏は「厳しい情勢じゃないか。どんな取り組みをしているんだ」と選対幹部を叱責(しっせき)した。支持団体である連合山口の幹部との意見交換後も笑顔は見せなかった。

 民主党の平岡秀夫氏は05年衆院選の山口2区で敗れたものの比例で復活当選。知名度では自民党新人の山本繁太郎氏より勝る。「負けるはずのない選挙」が、今は「すぐ後ろで足音が聞こえる」(県連幹部)状況で、それが小沢氏をいら立たせるのだ。

 選挙戦は、民主党が「道路、年金、高齢者医療」の3点セットを前面に出し、自民党が地域活性化で対抗する構図だ。それはポスターの図柄に象徴的に表れる。平岡氏が小沢氏と並ぶのに対して、山本氏の相手は管内10市町長のうち9人の首長らだ。自民党は「福田首相=国政」をわきに置く戦術をとった。

   ◇ ◇

 今月6日に田布施町で開かれた「桜祭り」に平岡氏が姿を現した。同町は岸信介、佐藤栄作両首相の出身地で自民党の金城湯池。平岡氏が同党支持層の切り崩しを狙って力を入れる地域の一つだ。

 「道路が重要でないとは言わないが、年金や医療などには金がかかる。貴重な税金をいかに有効に使うかだ」と会場の隅っこで声を張り上げた平岡氏。特設のステージで岸信夫自民党参院議員があいさつするのを遠目に見ながら、会場内をひたすら歩き回って支持を訴える姿もあった。

 一方、自民党は今月上旬に山口2区の有権者を対象に行った独自の意識調査で、関心のある政策を聞いた。その結果、トップは「年金」の22%だったものの、「地域活性化」が15%で、「ガソリン問題」の8%を上回った。自民党にとっては心強い数字だった。

 しかも山本氏は、立候補を表明した3月5日まで内閣官房地域活性化統合事務局長の職にあった。地域活性化を重点的に訴える戦術が一気に固まった。

 山本氏は4月8日夜、岩国市の山あいの小瀬地区でミニ集会を開いた。パイプ椅子に座った約30人に「何といっても地域活性化のポイントは仕事(雇用)だ。これを活性化のど真ん中にして、やらなきゃいかん」。30分に及ぶ熱弁だったが、ガソリン問題には最後まで触れなかった。

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 ◆立候補予定者(政党順)

山本繁太郎 59 [元]国交省局長=自新

平岡秀夫  54    弁護士  =民現

(出所:毎日新聞 2008年4月13日 東京朝刊)

読む政治:衆院山口2区補選 27日投開票(その2止) 負ければ求心力低下
 <1面からつづく>

 ◇福田首相 「再可決」判断厳しく
 ◇小沢代表 「9月再選」に暗雲も
 山口県岩国市を貫く大動脈の国道2号。車を走らせると、沿道には民主党の平岡秀夫氏と自民党の山本繁太郎氏のポスターが目に入ってくる。

 小沢一郎代表との握手姿を収めた平岡氏のポスター。対する山本氏の脇に写っているのは、県選出の自民党参院議員の林芳正、岸信夫両氏と、2月10日の岩国市長選で初当選した福田良彦市長。最大の「看板」であるはずの福田康夫首相が登場するポスターは見あたらなかった。

 現地で山本陣営を指揮する自民党本部の職員は、05年郵政選挙との落差をこぼす。

 「当時は『自民党です』といえば票になった。今は内閣支持率も下がって『自民党です』『福田首相です』とは言いにくい」

 山本氏の立候補表明に合わせて3月5日に同県入りした菅義偉選対副委員長は、長谷川忠男県連幹事長と会談。菅氏が「首相よりも地元首長とのツーショットのポスターがいいなあ」と伝えると、長谷川氏は「結構です」と答えた。長谷川氏は地元県議を通じて、山本氏と選挙区内の9人の首長が写ったポスターを作製させた。

 告示後、首相は応援に入るか。行かなければ「逃げた」と言われ、行けば国政が話題になる。選挙情勢をにらみながらの苦しい判断になる。

  ◇  ◇

 国政選挙である以上、地元での争点はかみ合わなくても、政治的にはガソリン代値上げの是非など国民投票的な色彩を帯びる。

 自民党が補選で負けた場合、暫定税率を維持するための租税特別措置法改正案の再可決の判断は厳しいものとなる。

 無理して再可決をすれば、反発する民主党から首相問責決議案が提出される可能性が高く、国会は一気に緊迫する。再可決できなければ道路族の反発などで首相の求心力はさらに低下し、「福田おろし」につながるかもしれない。

 一方、民主党が負ければ、国会での同党の攻勢は勢いを失いかねない。小沢氏自身にとっても深刻だ。昨年の大連立構想の頓挫、代表辞任騒動、大阪府知事選の惨敗、日銀副総裁人事でのしこりなどの影響で、ただでさえ同氏の基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。

 民主党幹部は「小沢氏が求心力を維持するには圧勝が必要だ」と強調する。補選は「選挙の小沢」という神話を保つための試金石であり、9月の代表選にも影響を与える。【西田進一郎、渡辺創】

 ◇共産票行方が焦点
 共産党は衆院山口2区補選で候補者擁立を見送った。

 同党は次期衆院選小選挙区について、これまでの「全選挙区候補者擁立」方針を転換し、全国300の半分以下に絞り込むことを決めており、擁立見送りはこうした方針に沿ったものだ。

 前回05年の衆院選では、自民公認の福田良彦氏(現岩国市長)と民主公認の平岡氏が戦い、平岡氏が約600票差で敗れた。この時、共産公認候補は1万3499票を獲得した。

 次期衆院選では候補者の出ない共産票の動向が焦点になっており、山口2区は先行ケースになる。

 共産票について、平岡氏陣営は「自民党に回ることはない。数千票は入るのでは」と期待を寄せるが、山本氏陣営は「基礎票はせいぜい2000~3000。大したことはない」と冷めた見方だ。

 ◆過去の国政補選

 ◇与野党形勢逆転の契機 87年参院岩手が典型的
 国政補選の結果は政権を揺るがすこともあり、時には与野党の形勢を逆転させるきっかけとなってきた。典型的なのは87年3月の参院岩手補選。売上税の是非が問われ、反対を掲げた社会公認候補が大勝。売上税を廃案に追い込んだ。

 89年2月の参院福岡補選で当時の社会公認が自民公認に大勝したのを契機に消費税、リクルート事件、農政不信の「3点セット」が政府・自民党の逆風となった。

 竹下登首相はリクルート事件で引責辞任、後任の宇野宗佑首相の下で行われた6月の参院新潟補選も社会候補が自民候補を降した。1カ月後の参院選への影響は決定的で、宇野首相は参院選惨敗で引責辞任した。

 後任の海部俊樹首相は10月、参院茨城補選に臨み、連敗にストップをかけた。当時の自民党幹事長は民主党の小沢一郎代表だった。

 補選は00年10月からは年2回の統一方式に。複数の選挙の「星取り」勝負となり、自民勝ちか与野党引き分けが続いた。小沢氏が代表に就任した直後の06年4月の衆院千葉7区補選では民主が勝利し、「偽メール問題」が代表交代に発展した民主党の窮地を救う形となった。

(出所:毎日新聞 2008年4月13日 東京朝刊)

道路財源、代理戦争 衆院山口2区補選

 「補選は大丈夫ですか?」

 福田首相は心配そうに自民党の古賀誠選対委員長に声をかけた。2月末、衆院本会議場でのことだ。

 4月15日告示、27日投開票の衆院山口2区補選は、昨秋誕生した福田政権にとって初の国政選挙。現職だった福田良彦氏が出直し岩国市長選に転出したのに伴う補選で、民主党は「必ず議席を奪還する」(小沢代表)と年明け早々、比例中国ブロックの平岡秀夫衆院議員(54)が走り始めた。05年の衆院選こそ惜敗したものの、00年、03年は2区を制している。

 自民党は出遅れていた。参院議員や地元の柳井市長らの名が浮かんでは消えた。「ねじれ国会」で福田内閣の支持率が低迷する中、政権の浮沈を占う補選にだれを……。

 古賀氏は首相に旧知の官僚の名を告げた。内閣官房の地域活性化統合事務局長、山本繁太郎氏(59)。直ちに首相官邸の二橋正弘官房副長官を訪ね、山本氏擁立に向けて「仁義」を切った。

 3日後、外堀を埋められ官邸に赴いた山本氏に、首相はいつにない真剣な表情で語った。「非常に大事な選挙。しっかり頼む」

■「道路なら山本」

 山本繁太郎氏は1カ月前まで内閣官房に詰めていたが、もともとは旧建設官僚だ。「道路族のドン」となる古賀誠氏と縁が深まったのは80年代後半。ちょうど道路局に籍を置いていたころだった。

 バブル真っ盛りで、族議員と官僚の蜜月時代。東京・赤坂の高級料亭に呼ばれた山本氏は、古賀氏らの前でふざけて座敷の鴨居(かもい)にぶら下がった。ナマケモノのまねだ。すると鴨居がガタッと外れた。山本氏は焦ったが、古賀氏は「面白いなあ」。外れた鴨居に自分もぶら下がり、座敷に落としてしまった。

 山本氏は抜群の陽気さと人なつっこさで相手の懐に飛び込む「破天荒な役人」(旧建設省OB)として永田町に知れ渡った。旧建設省が国土交通省になった後、事務次官に次ぐ国土交通審議官にまで上りつめた。

 補選の投開票日の2日後、ガソリン税の暫定税率を復活させる税制改正関連法案が再議決できるようになる。古賀氏ら政府・与党の幹部は再議決する構えだが、暫定税率の復活には世論の反対が根強いため、選挙の争点となることは避けたい。さすがの山本氏も「地域活性化」は訴えるものの、道路問題への発言は「議員になってから……」などと言葉を濁していた。

 ただ、暫定税率の期限が切れた1日、下松市での集会では珍しく本音を漏らした。

 「一般道路事業だけが借金もせずにやれたのは50年前の(道路特定財源)制度が続いてきたおかげ。2区を2週間走り回って、まだ道路整備を急がなくてはならない所がたくさんあると思った」

 7日の岩国市での集会。選対幹部の県議は「道路なら山本」とばかりに声を張り上げた。

 「地方には車が必要! 道路が必要なんです! 山本さんは国交省一筋。道路局にも長くいらっしゃいました」

■「ここらで見直し」

 3月29日に岩国市であった国道バイパスの開通式。あいさつに立った自民党の岸信夫参院議員や福田良彦・岩国市長らは「道路はつながらなければ意味がない」などと、口々に道路特定財源や暫定税率の維持を訴えた。

 だが、民主党の平岡秀夫氏だけはとうとうと制度の沿革を説明し、反論した。

 「ここらで見直さないといけないのではないか」

 平岡氏も官僚出身だが、その歩みは山本氏とは対照的。旧大蔵省から内閣法制局を経て、40代半ばで国税庁課長を辞め、政界に。憲法や法律に詳しいだけでなく、理屈っぽい性格もあって「民主党の法制局長官」と評される。

 党内「左派」とされる「リベラルの会」の代表世話人も務める。小学校の遠足で広島の原爆資料館を見学して以来、平和問題にはこだわり続けた。一方、昨年6月には、テレビ番組で少年犯罪をめぐり「悪いことをした子どもたちはそれなりの事情があったんだろう」などと語り、ホームページで「おわび」したこともあった。

 その平岡氏が初めて国政に挑んだ00年に選挙応援に入ったのが、山口県宇部市生まれの菅直人代表代行。以来、2人は多くの場面で政治行動をともにしてきた。

 菅氏は党内や地方組織に異論を抱えながらも、道路政局の先頭に立ち、議論をリードしてきた。古賀氏への「口撃」も激しく、古賀氏の地元、福岡県八女市の橋を視察し、「(橋や道路の建設が)道路族がいるところだけ優先されているようにも見える」と追及。名指しこそ避けたものの「道路族は国交省からエサをもらって利益を守る番犬」とののしった。

 補選はさながら「古賀VS.菅」の代理戦争の様相を呈しつつある。菅氏は11日に早速2区に入る。補選は狙い通り「再議決の是非を問う国民投票」となるだろうか。

(出所:朝日新聞HP 2008年04月11日07時04分)

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