うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

日本の安全保障

2007-08-28 14:21:23 | 政治・行政
2007/2/28(水) 午後 0:45

北朝鮮が日本人を拉致している。核も保有宣言をした。国際社会は、6カ国協議という枠組みで北朝鮮と協議してきたが、拉致問題を棚上げしたまま、核施設の一部凍結と引き換えに経済援助をすることで合意した。西部 邁は、これを「日本の宗主国米国の裏切り」、と表現するが賛成です。

国家の提供する基本的サービスは国民に対する安全です。何の罪もない国民が他国政府により海を越えて拉致される。こんな非道を行う国家が存在すること自体、日本人の常識を超えていますが、これに対して何の手も打たず北朝鮮の増長を許してきた過去の政府やメディアの責任は大です。しかも、やっと国として問題に取り組もうとする段になって唯一の頼りというべき米国の裏切りにあった。それに対して、政府はなすすべがない。

戦後、日本は安全保障に直面することをタブーとしてきた。保守主流は、米国依存一辺倒、革新は議論そのものを否定する言霊呪縛。いまでも、日本が侵略された場合、無抵抗で降伏する決議をしている自治体がある。そこの議員は全員、北朝鮮に拉致されてもらいたいものだ。日本人は、いま本当に安全保障を真剣に考える必要があるでしょう。

安全保障とは、国民の生命・財産を含む国の生存をまもることである。しかし、ただ、安全だけではない。国の自由な意思決定すなわち独立を守ることでなければならない。安全な奴隷になる安全保障は意味がない。国の自由な意思に基づく未来の形成、これが安全保障で守るべきものだ。

残念ながら、国際社会の現実はこの理想とは程遠い。国家の外縁を拡大しようとする政治的経済的誘因は避け難い。国内でそうであるように、国際社会での利権の獲得ゲームに参加していない国はない。

また、安全をより確保するための、国家の生活圏という考えも実践されている。かつてのチャイナの冊封体制、満州事変の指導理念であった国家の生命線という考え方や大東亜共栄圏がそれである。周辺地域を自国の影響下に置く行動は、覇権主義である。Chilling Effectという言葉がある。覇権国の影響下にある国は、覇権国の機嫌を損ねない行動を自主規制してしまう。

日本は敗戦後、完全な独立国家たることを放棄させられ、米国に安全保障を依存することになった。戦後世界は、戦後自由主義国家群の覇権国家として米国、社会主義国家郡の覇権国家としてのソ連、の2局構造でした。米国の覇権は、ヨーロッパ社会の培ってきた普遍的な自由・人権と民主主義に基いており、歴史的に見て、他民族にとっては、もっとも寛容なものと評価できるでしょう。ソ連の覇権下にあった東欧諸国と比較すれば明らかです。いまの言葉で言えば、ソフトパワー(文化力)に基づく覇権といってもいい。

2局化構造は、科学技術の発展にもよって支えられた。交通・通信および核ミサイル等関連軍事技術の発展により、軍事におけるグローバル世界が成立しました。

このため、小規模の地域ごとの覇権分立は困難となりました。世界の国は、グローバル覇権国になるか、いずれかの覇権国に属さざるを得ません。グローバル覇権国がたまたま2カ国の時代が、2局化世界というわけです。グローバル軍事覇権国数は、増加してます。EUに続き、チャイナが加わりました。将来的には、インドやブラジルがその一角を占めることになるかも知れません。

日米関係の根本的構造は、米国による日本の覇権的支配でしたが、独立が保たれているかのような外観が成立しました。日本が弱体国に留まるかぎり、米国は日本の自由意志を尊重します。しかし、日本経済が復活し、米国経済を脅かすようになるとこれを徹底的に徹底的にたたきます。

80年代末から90年代にかけて、日米経済摩擦が発生しました。米国は、これを日米経済戦争と位置づけ、CIAは経済諜報をい強化しました。米国は、自由競争経済原則に反する技術情報開示義務と貿易数値目標を日本に課しました。まさに覇権国の本質が現れた瞬間です。日本は、この条件をのみ、結果、当時世界を席巻していた日本の半導体産業はほぼ壊滅しました。半導体は、ディジタル機器の心臓部で、これを支配するものが電子のみならず将来の産業全体を支配すると言ってもいい。現在の日本の電子産業の苦境は、このトラウマによるところが大です。

グローバル覇権の必要要件は、領土、人口、軍事、経済での超大国であることです。いま、このバランスが、急速に変化しています。チャイナは、2050年、日本の7倍のGNPとなり米国とほぼ同等となるとの予測があります。日本は、いまでこそ、まだ世界第2の経済力がありますが、その相対的経済力は急速に落ちていくでしょう。ソ連崩壊後、米国の一極覇権の時代がありましたが、今後、米国の相対的は権力は衰えていくでしょう。パックス・アメリカーナの終焉です。

チャイナの国家目標は、平和的勃興(peaceful rise)です。この意味するところは、抵抗されないなら自己の領土、勢力圏を拡大するというものです。中華ナショナリズムが原動力で、当面はかつての最大版図を回復することです。

チベットは、かつては唐と対等関係を築いていた独立国でいたが、チャイナ史上最強の満州族国家清とは冊封関係にあった。歴史的に独立性は朝鮮より強固と言える国です。1932年清滅亡後ダライラマは、清国勢力を放逐し事実上独立していましたが、1950年武力侵略により支配下に置きました。史上初めての漢族支配です。南シナ海では、1995年、米軍がフィリピン撤退すると、その間隙をついて忽ちフィリピンが領有権を主張する南沙諸島に占拠しました。台湾支配の原則は決して譲らず、独立運動の妨害は徹底しています。

かつて一度でも冊封下にあった地域はチャイナの領土として回復対象であり、物理的抵抗がなければ支配行動にでるでしょう。つまり、日本・韓国・北朝鮮も対象ということです。尖閣諸島は、日米安保解消という事態になれば、瞬時に武力占拠されるとみて間違いない。

問題は、このような東亜のパワーシフトのなかで、いかに日本の安全保障を確保するか、ということです。

これを考えるには、個人の場合と同じく、自己認識から始める必要があります。まず、日本は、領土、人口からしてグローバル覇権国にはなりえません。戦前、グローバル覇権国になりかけましたが、あえなく敗退しました。今後、戦前の地位が回復する見込みは皆無でしょう。経済大国の地位も危うく、長期的には経済の世界シェアは、人口比程度に収斂していくでしょう。つまり、日本はいずれかのグローバル覇権国下で生存を図る以外の道はない。その覇権下で、可能な限り国民の自由と繁栄を保つ方策を考えざるをえない。

次は、どの宗主国を選ぶかですが、選択肢はアメリカかチャイナ(ロシアはないでしょう!)かの2者択一です。一方は衰退期、他方は勃興期。韓国はアメリカからチャイナに軸足を移しつつあるようにも見えます。しかし、日本は日米関係を維持するのが得策でしょう。それは、なによりも米国がソフトパワー覇権国であり、影響下の国に対し相対的には最も自由を保障する度合いが高いことに求められる。また、豊かな(人当たりGNP)国の覇権下にあれば、支配は寛容でしょう。貧乏国で文化後進国の覇権下にあった国がいかに悲惨かは、東欧で実証されてます。

更に考えるべきことは、覇権下でいかに覇権支配を弱めるかです。覇権下で安全を享受しながら覇権国の支配力を弱めるかという難題ですが、日本の政治家はそれを行うために養われてるのでしょう。

一つの方向は、国連に代表されるような多国間枠組みを強化することによる覇権力の抑制です。国連は、いざというときには役立たない代物ですが、ソフトパワー覇権国の制御に対しては、とくに有効です。

もう一つは、覇権国に対するバーゲニング・パワーを強化する方向です。戦後のフランスのように、自由陣営のなかにありながら独自性を発揮するための軍事等の諸基盤を整備してしていくものです。単なる従属国であれば、その意向は、今回の6カ国協議のように無視されるでしょう。無視すれば、なんらかの不都合が起きるとの認識があれば、「裏切られる」確率は少なくなるでしょう。米国に限らずどんな国も、他国のために自国民の血を流すことはない。他国を守るのは、それが自国に利益になる時だけです。この点、戦後政治はあまりに無邪気に米国依存を続けてきたのではないでしょうか。

最後に、安全保障上の敵対勢力となるチャイナに対する対応です。安全保障上の関心からいえば、チャイナが膨張主義をやめ、日本に対して覇権を求めなければいい。これは、チャイナが国家の目標を国家威信の強化から人民の幸福の拡大に変更することで促される。

日本にとっての悪夢は、チャイナが専制体制のまま軍事経済を強大化することです。それを避けるため、日本は、チャイナが自由と民主主義そして少数民族の独立を尊重する国家への変化を促すためのあらゆる工作を行うべきです。チャイナの政体変更を求めるのです。

理想は、アジアがEUのような相互互恵の安全保障共同体ができれば最高でしょう。アメリカのみならず、ベトナム、インド、アセアンなどともチャイナの変化を促す活動で協調すべきです。

思えば、大東亜戦争で日本を敗戦に導いたのは、日本を英米との戦争に追い込み勝利する、という蒋介石の大戦略でした。この戦略を遂行するため、蒋介石は、日本を挑発し続けました。挑発に乗った日本軍は、チャイナでの戦闘で百戦百勝でしたが、国民党の大戦略の前に敗れました。国民党のプロパガンダとして捏造された南京事件は、いまでも日本の国際的影響力をそぐために効果的に利用されてます。(北村稔著「南京事件の探求」は。中立文献の検証によりこの結論を導いた労作です。)日本は、蒋介石にならい、チャイナの覇権主義を封じ込める大戦略を実践すべきでしょう。


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