政府は、日銀の審議委員にBNPパリバ証券のエコノミスト河野竜太郎氏を国会に提示する。
このニュースに対して、ロイターは、「政府が今回の人事案を提示したことついて、驚きを持って受け止める市場参加者は少なくない。その理由のひとつが河野氏の金融政策へのスタンスだ。同氏が2月20日付で顧客向けに配信したリポートは「ゼロ金利政策と国債購入政策の長期化・固定化の副作用」との標題を掲げ、1)日銀は追加緩和を続けるべきか、2)積極緩和の副作用で資本蓄積が阻害されていないか、3)追加緩和のデメリットは本当に小さいか――など「日銀寄りのサブタイトル」(国内証券)が連なっている」と報じた。
野田総理は、デフレ脱却に不退転の決意で取り組むという。白川日銀総裁も言葉では同じ趣旨の発言を行なっている。正直、日銀は、ここ10年以上、同じ言葉を繰り返してきた。
しかし、実態はどうか。この20年にわたるデフレで、日本の産業は疲弊し、自殺者は一万人増えて3万人の高原状態だ。日本産業に構造改革を通じた競争力回復の必要は明らかだが、デフレは構造改革の実施を妨害する。マイルドなインフレは、価格調整を通じて、スムーズな構造改革をサポートするのだ。
日銀は、デフレの責任をさまざまな他の要因に転嫁してきた。例えば、デフレは高齢化に伴う需要不足が原因だと。しかし、これは、世界の珍説で、日銀が正式にこの考えに理解を示すとは、金融論のいろはを知らないと批判されてもしょうがないだろう。確かに、実質経済成長は、人口構成により影響を受けるだろう。しかし、名目の物価は、物と貨幣の相対量で決定される。人口論は、実質と名目の区別を付けない初歩的な誤りだ。
河野氏は、この人口デフレ論者でもある。3月31日付けのダイヤモンド誌では、チャイナのバブルの可能性に触れ、これは、人口ボーナスが原因となると述べている。
なぜ、野田総理は、こんな人物を審議委員に提示するのか。これは、野田総理に限らず、日本の政治家が全く経済音痴だからだろう。音痴だから、事務方の用意のままに従う。
かつて、安部総理は、厚労省の言うがまま「すべての年金受給者の悉皆調査を行なう」と不可能なことを公約し、果たせず失脚した。これは、猫でもわかる公約だったから、失脚した。
ところが、ことデフレ脱却となると、途端に騙されてしまう。白川氏のデフレ脱却という言葉は、厚労省の悉皆調査と同じだろう。日銀官僚に任すから、河野氏のような論者を審議委員に推すことになる。
2月、日銀が世界標準のインフレ・ターゲット政策を採用かと報じられて、円安株高が進行した。日銀の決意次第で、経済は動く。しかし、ここにきて、日銀は本気だったのかという疑いが生じ、この動きは停滞している。
インフレ・ターゲット政策を採用する英国では、インフレ目標が達成できない場合、イングランド銀行総裁は、なぜ達成できなかったのか、今後達成するために具体的に何時までに何をするのかを公の場で明確にしなければならない。責任転嫁の日銀とは大違いだ。人口高齢化を前提として、何をするかが問われている。
日銀官僚は、一万人の自殺者増という国民の犠牲の上にたって自らの居心地のよさを追求している。それは、大阪市役所の職員と同じだろう。日銀が悪質なのは、そのために学者を手なずけていることだ。研究名目で、さまざまな形で資金も流れるが、その他の手段が、今回のように、忠実な犬の河野氏に社会的な褒章を与えることだろう。
問題は、国会が、それを20年にもわたり放置していることだ。筋金いりのデフレ脱却論者はいるが、これらの人は、政策決定の場から排除されてきた。野田総理、そしてまじめな国会議員は、いまこそ、人事で、デフレ脱却を明確にすべきである。学者では、学習院大学の岩田規久男、実務家なら修正ソロス・チャートを提案するドイツ証券の安達誠司がいいだろう。
重ねて言いたい。デフレ脱却をしたいなら、人事を変えるべきだ。たとえ、日銀の政策が直ちに変らなくても、反執行部の見解との論争により、論点は国民の前に明確になるだろう。イエスマンだけの政策委員会なら、委員会の意味がない。