つばさ

平和な日々が楽しい

100平米(へいべい)の知恵比べは続く

2012年11月26日 | Weblog
天声人語11月26日
 自宅のはす向かいがコンビニで、冷蔵庫がわりに重宝している。めまぐるしい盛衰を映し、ここの店名は15年で3回変わった。徒歩3分ほどの間に、無休で競う同業が4店。道すがら、これほどのおでんを誰が買うのかと思う▼日本のコンビニが、10月末で5万店を超えたという。店を支える周辺人口から国内はすでに限界との説もあったが、消耗戦を勝ち抜いたところが増殖しているらしい▼コンビニは、独自の商品とサービスで若者の消費をリードしてきた。野菜を置く店も増え、遠出しづらい高齢者をつかんでいる。宅配便、公共料金、ATM、防犯の駆け込み寺……。生活スタイルの変化に即応し、先の大震災では、有事に頼れる社会インフラとしても見直された▼経営環境は厳しい。わが国の小売業は、縮む人口と胃袋を取り合う宿命だ。物を売るだけなら敵は多く、近くて便利は当たり前、我らお客の要求はきりがない。大手は全国を七つ八つに分け、おでんの味を変えているそうだ。おにぎりや弁当はさらに細かい▼〈コンビニのおにぎりコーナー早々と売切(うりき)れとなる田植えの季節〉内藤三男。農村や町はずれには、砂漠のオアシスのような店もあろう。旅先でなじみの看板を見つけ、助かったと思うことがある▼多機能ゆえの安らぎは、コンビニならではだ。食文化を壊すといった批判に耐えるには、深いところで消費者とつながり、味方を増やすほかない。四季に合わせ、行事をにらみ、100平米(へいべい)の知恵比べは続く。

日本のアイデア商品に目を見張る人々の姿を想像すると、心が弾む。

2012年11月26日 | Weblog
【産経抄】11月26日
 米国に初めて滞在したとき、文房具店で途方にくれた。「ホッチキスがほしい」。何度訴えても、店員は首を傾げるばかり。「ステープラー」と言わないと通じない。
 ▼「酒場などで酔った勢いであまり親しくない異性もしくは同性が安易に口づけを交わして、離れられない関係におちいった場合、その最初の口づけを指して『ホッチキス』という」なんてことも、もちろんない。細見和之さんの詩集『ホッチキス』に入っている作品の一節だ。
 ▼ではなぜ、日本で「ホッチキス」(最近ではホチキス)と呼ばれてきたのか。トップメーカーの「マックス」のホームページによると、明治後期に伊藤喜商店(現イトーキ)によって最初に発売されたのが、米国のホッチキス社の製品だったからだ。辞書などには、機関銃の発明者として知られるベンジャミン・B・ホッチキスの名に由来する、とある。ただし、文献の裏付けはないらしい。
 ▼年々改良が加えられているものの、コの字形の針が悩みの種だった。書類を廃棄する際に、取り外すのが面倒だ。時に食品に混入される事件も起こる。そこで10年以上前から、針を使わない製品の開発が相次いできた。
 ▼先月東京で開かれたIMF・世界銀行の年次総会で、各国関係者に「針なしホッチキス」を含めた、日本の最先端の文房具を配布すると大好評だったという。自信を得た各社は、海外展開を急いでいる。
 ▼文房具のマーケットは、かつて世界を席巻した家電製品に比べれば些細(ささい)な規模にすぎない。それでも海の向こうで、日本のアイデア商品に目を見張る人々の姿を想像すると、心が弾む。「ホッチキス」が、世界中で通じる日も遠くないかもしれない。

「対立は荒廃を招く。協調こそが繁栄につながる」

2012年11月26日 | Weblog

余録:毎日新聞 2012年11月25日
 東南アジア諸国連合(ASEAN)の旗は日本の国旗とデザインが似ていて、青地の中央に日の丸と同じような赤い円がある。円の中心には黄色い10本の稲の束が描かれている。加盟10カ国の友好と結束を示す標章だ▲1967年に発足したASEANは国際社会でさほど目立つ存在ではなかった。それが90年代に入って著しい経済成長とともに急速に注目を浴び始めた。世界銀行のリポートが「東アジアの奇跡」と称したころだ▲ASEANが開く国際会議は次々と周辺国を引き寄せ、ASEANプラス3(日中韓)や、米国とロシア、インドなども加わる東アジアサミットは重要な外交舞台としてすっかり定着した。ASEANはそのホストとして地域協力のけん引役を務める▲ASEANの基本精神は「協調」にある。東南アジアは長年、ベトナム戦争やカンボジア内戦など厳しい戦乱の時代を経験してきた。そんな歴史の反省から「対立は荒廃を招く。協調こそが繁栄につながる」という教訓を導き出した▲先週のASEAN首脳会議ではオバマ米大統領のミャンマー初訪問という番外編もあって、軍事独裁だった国の変貌が注目された。これを弾みにASEANは3年後の共同体構築に向けて歩み続ける。一方の日中韓はせっかく首脳が顔をそろえながら3国の首脳会合さえ持てない不和ぶりだ▲稲は1本だけでは弱い。しかし10本の束になれば何十倍もの強さになって丈夫な縄を編むこともできる。小国の集まりという弱点を利点に変えたASEANの知恵だ。北方の隣人である我々も先人から伝わる「三本の矢」の逸話をかみしめるべきだろう。