つばさ

平和な日々が楽しい

「古本屋に出されないようにね」

2012年11月21日 | Weblog
春秋
2012/11/2
 石牟礼道子さんの随筆「食べごしらえおままごと」を読んでいて、父親に「死なれて二十年近くなる」というところでふっと止まった。死なれる。そういえば最近ほとんど使わなくなったが、かつては大切な人を亡くしたときによく聞かれた。そんな記憶がよみがえる。
▼「この方に死なれて10年になる」と書いてお許しいただけるだろうか。スカッシュのプレー中に倒れ、47歳で急逝した高円宮さまの、きょうが命日である。天皇陛下のいとこにあたり、皇太子さま、秋篠宮さまのよき相談相手でもあった。これからの皇室はどうあるべきなのか。意見をうかがいたいことが今、山ほどある。
▼関心の深かった環境問題を語って、著書「オーロラが消えぬ間に」にこうあった。「皇族の一員として、活動には幾つかの制限があることを知っています。しかし許される行動の範囲内でできる限り学びたいし、また人々と話し合いたい」。時代にふさわしい皇族の役割を果たそうと、自らに厳しい考えを持ち続けられた。
▼もう手元の著書は少し黄ばんでいる。扉には「憲仁」と万年筆の署名がある。それを見てある日を思い出した。署名は何人かでお願いしたものなのだが、その一冊に「古本屋に出されないようにね」と笑いながら「転売禁止」と書き添えられた顔のなんと楽しげだったことか。固くて柔らかくて。どちらも等しく懐かしい