つばさ

平和な日々が楽しい

「たくさんおすごしになるんだったら、行く前に盛りそばの一杯もあがってらっしゃい」

2012年11月05日 | Weblog
【産経抄】11月5日
2012.11.5
 『男はつらいよ』シリーズの「ぼくの伯父さん」に、寅さんが予備校生の甥(おい)の満男に酒の飲み方を教えるシーンがある。「まず片手に杯を持つ。酒の香りを嗅ぐ。酒のにおいが鼻の芯に染み通ったら、おもむろに一口飲む…」。
 ▼寅さんの居酒屋での講義は立派なものだ。ただし飲み過ぎて勘定も払えないのは、いただけない。いつものように妹のさくらに迷惑をかけ、見事に反面教師を務めることになる。
 ▼昔に比べて、若い人の酒量は明らかに減っている。それでいて、一気飲みによる急性アルコール中毒などのトラブルは絶えない。酒の飲み方を人生の先輩から学ぶ機会が、なくなっているせいだろう。かつてある大学で、「お酒との上手な付き合い方」をテーマにした講義が行われたそうだ。果たして効果があったのか。
 ▼大学側としては、せめてキャンパス内での飲酒事故は避けたいのだろう。東大教養学部で今月23~25日に開かれる駒場祭をはじめ、一橋大、東北大なども、学園祭の全面禁酒を決めたという。「年に1度のお祭りが盛り上がらない」などと、嘆きの声も聞こえるけれど、この流れは今後も変わりそうにない。
 ▼「たくさんおすごしになるんだったら、行く前に盛りそばの一杯もあがってらっしゃい」。10代で社会に出た作家の池波正太郎さんは、こんなふうに吉原のお女郎さんから、酒の飲み方を教わった。なんとも、うらやましい。
 ▼なにせ小欄も学生時代から現在に至るまで、酒の上での失敗には事欠かない。最近コンビニでビールを買うたびに、年齢確認のためのパネルに手を当てるように言われる。「酒の大学」の卒業証書は持っているのか。そう問われているようで、つらい。

サイバー空間に潜んでいる危うさに鈍感な人はまだまだ多

2012年11月05日 | Weblog
春秋
2012/11/5
 「ブロンズの夜」。後にそう呼ばれることになる騒乱がエストニアの首都タリンで起きたのは、2007年4月のことだ。かつての支配者である旧ソ連の赤軍兵士をかたどったブロンズ像をめぐり、ロシア系の住民と民族主義者の間でくすぶっていた対立が火を噴いた。
▼政府の機敏な対応もあり、2日ほどで暴力的な騒ぎは収まった。むしろ世界の注目を集めたのは、その後の出来事だった。エストニア全土が激しいサイバー攻撃にさらされ、市民生活や国民経済に深刻な影響が出た。人々は銀行から預金をおろせなくなった。先進的とされていた政府の電子サービスも利用できなくなった。
▼攻撃の規模が大きかったこともあり、エストニア国内ではロシアの政府機関の関与を疑う声があがった。もちろんロシア政府は否定し、5年半たった今も真相はよくわからないようだ。ともあれ、サイバー攻撃の恐ろしさを目の当たりにした北大西洋条約機構(NATO)は、エストニアを拠点に対策の研究に乗りだした。
▼幸い、日本ではエストニアが経験したような国全体を揺るがす事態は起きていない。とはいえ、安閑としていられる状況でもなさそうだ。なりすましに誘導されて無実の罪を着せたり、違法アプリをダウンロードして個人情報を流出させたり。捜査当局も含め、サイバー空間に潜んでいる危うさに鈍感な人はまだまだ多い。