つばさ

平和な日々が楽しい

余録:ちゃぶ台を囲むだんらんが日本の代表的な家庭風景…

2012年11月06日 | Weblog
毎日新聞 2012年11月06日 
 ちゃぶ台を囲むだんらんが日本の代表的な家庭風景だったのは昭和10年代から40年代までの比較的短い期間だという。それ以前は家族それぞれの銘々膳(めいめいぜん)、以後はダイニングテーブルでの食事となった▲なのに今も「ちゃぶ台返し」が若者言葉にあるのは、一つは漫画「自虐の詩」の近年の映画化でダメ男が怒るたびにちゃぶ台をひっくり返したからだろう。もう一つは一生懸命お膳立てした段取りを上の人の自分勝手でひっくり返されて頭にくる人が絶えないからだ▲振り返れば民主党政権の「政治主導」を掲げたちゃぶ台返しもひどかった。長年合意を積み重ねてきた政策を突然ひっくり返してはみたが、新たなテーブルが整えられるどころか、散らかった食事も食器も放り出したままだ。後片付けは他人任せのちゃぶ台返しである▲さすがに影をひそめた民主党流政治主導だが、どっこいここに来ての田中真紀子文部科学相の3大学設立不認可だ。いずれも来春開校にむけ手続きと準備が進み、審議会のOKも出た大学だった。だが大学が多すぎるという文科相による土壇場(どたんば)の政治主導復活である▲なるほど大学の乱立と質の低下を憂え、設立審査制度見直しを求めるのは分かる。ならば大臣なのだから必要な施策を段取りを踏んで実現すればいい。何の落ち度もない学校や採用予定の教員、進学希望者たちに後片付けを強いる“開校返し”はいったい何のためか▲「50年後、100年後の将来のため」とは文科相の言葉という。何やら天下国家の大言壮語(たいげんそうご)はすれども、目の前の家人の戸惑いや苦しみには無頓着(むとんちゃく)な亭主の「ちゃぶ台返しの家」が思い浮かぶ。

アクシデントこそ、旅行の、そして人生の醍醐味(だいごみ)だと教えてくれるが?

2012年11月06日 | Weblog
【産経抄】11月6日
 米国の女流作家、アン・タイラーに『アクシデンタル・ツーリスト』(早川書房)という不思議な題名の小説がある。主人公は旅行ガイドブックのライターのくせに、旅行が大嫌いという設定だ。
 ▼そもそも旅行の楽しさを伝えるのが、ガイドブックの目的ではない。仕事でやむなく海外に出かける人のために、アクシデント(不測の出来事)をできるだけ避け、家にいるのと同じ快適さで過ごすための情報を提供している。
 ▼「世界遺産・万里の長城グレートウォール・100キロトレッキング」のツアーに参加したのは、そんなガイドブックには無縁の人たちだった。日本とまったく違う雄大な風景や食べ物を堪能していたはずだ。ただ、北京周辺を五十数年ぶりに見舞った大雪は、アクシデントとしては大きすぎた。
 ▼しかし、大きな疑問も残る。日本人観光客4人と中国人ガイドが遭難し3人が死亡した河北省の現場は、中国の観光客もめったに訪れない辺鄙(へんぴ)な場所だ。天気の悪化が予想できたにもかかわらず、なぜ山歩きを強行したのか。ツアーを企画した「アミューズトラベル」は、「大雪は想定外」と釈明している。
 ▼この会社は3年前の夏、北海道・大雪山系トムラウシ山で登山客ら8人が悪天候の中で遭難し、凍死した事故でも、ツアーを主催していた。事故を受けて観光庁は、51日間の業務停止命令を出し、北海道警は今も業務上過失致死容疑で捜査している。安全管理について教訓を生かしているのか、疑問の声が上がるのも当然だ。
 ▼小説は、実はアクシデントこそ、旅行の、そして人生の醍醐味(だいごみ)だと教えてくれる。もちろん、十分な備え、あるいは機転によって、それを乗り越えることが前提だ。

歴史を顧みれば平和の使者というより戦争に駆り出されたハトのほうが多いに違いない

2012年11月06日 | Weblog
春秋
2012/11/6
 ハトが平和の象徴になったのは旧約聖書のおかげらしい。有名な「ノアの方舟(はこぶね)」の伝説のなかで、洪水が引いたかどうかを確かめるためにノアは1羽のハトを放つ。するとハトは若葉の芽吹いたオリーブの枝をくわえて戻り、神の怒りがおさまったことを知らせるのだ。
▼大昔から、人類は帰巣能力に優れたハトを伝令役に使っていたのだろう。もっとも、歴史を顧みれば平和の使者というより戦争に駆り出されたハトのほうが多いに違いない。戦前の日本では、敵中果敢に軍の文書を運び届けるハトの姿がしばしば美談に仕立てられたという(黒岩比佐子著「伝書鳩―もうひとつのIT」)。
▼このハトが託されていたのはどんな書信だったのか。第2次大戦中、ナチス占領下のフランスから英軍兵士が放ったとおぼしき伝書バトの骨が、英国南部の民家の煙突内から見つかったそうだ。足の骨には暗号文書の入ったカプセルも付いていたという。解読できれば大戦史の知られざる事実が浮かび上がるかもしれない。
▼連合軍はノルマンディー上陸を控えて、ハトが運んでくる情報を大いに参考にしたといわれる。なにかと物語にこと欠かぬ鳥なのだ。じつはわれらが新聞界も、昔は原稿や写真を送るのにずいぶんハトに助けてもらったから感謝しなければならない。幻のスクープがどこかの煙突から見つかる? まあ、それはないにせよ。