つばさ

平和な日々が楽しい

ほどよく立ち止まる

2012年11月13日 | Weblog
天声人語11月13日
 もう立冬は過ぎたけれど、中国の古い詩をひとつ思い浮かべた。〈秋風(しゅうふう) 蕭蕭(しょうしょう)として 人を愁殺(しゅうさつ)す〉と始まる。秋の風がひゅーひゅー吹いて、人を愁いに沈ませる、と。そのあと〈座中の何人(なにびと)か 誰(たれ)か憂いを懐(いだ)かざる〉などと続いていく▼この秋風を「解散風」に置き換えると、民主党議員の胸の内に思いがいたる。政界はここにきて、いよいよ風が吹きだした。だが、野田内閣の支持率は本紙調査で2割に届かない。加えて党が再分裂含みときては、誰か憂いを懐かざる、となろう▼片や、解散を引き出したい自民党は「北風」から「太陽」に転じた。審議拒否といった強硬策ではなく、赤字国債法案などに協力して環境を整える。風で吹き飛ばすより、温めて上着を脱がせようという策が、じわりと効いてきたようだ▼夏以来このかた、「近いうちに解散」の「近いうち」をめぐって不毛な反目を見せられてきた。内外順風の時ではない。民意を問う仕切り直しがずるずる延びては、国の舵(かじ)取りもままならない▼今の政治を、戦前の2大政党時代になぞらえる人が多い。民政党と政友会は党利党略の争いを繰り返した。首相はころころ代わり、閉塞(へいそく)感から民心は政党を離れ、軍部が政治を牛耳ってしまう▼決められない政治は苛立(いらだ)ちをもたらす。だが、威勢よく決めればいいものでもない。よく決めて、ほどよく立ち止まる。そんな熟思の政党がいい。気を取り直し、あらためてポケットの一票を研ぎ澄ます、この歳末になりそうだ。

「ここにあるような人間の痴愚は、いかなる男の胸にも潜んでいる」。

2012年11月13日 | Weblog
【産経抄】11月13日
2012.11.13 03:12
 ストーカーという言葉がなかった時代から、逃げる女をひたすら追いかける、困った男たちが世にはびこってきた。大正時代に活躍した近松秋江(しゅうこう)という作家もその一人だ。39歳のとき、京都・祇園の芸妓(げいぎ)にほれこんだ。
 ▼女が母親とともに姿をくらませても、すぐに引っ越し先を突き止め乗り込み、警察を呼ぶ、呼ばないの大騒ぎになる。その一部始終を『黒髪』『狂乱』『霜凍る宵』の連作小説に仕立てた。
 ▼恥も外聞もない主人公の行動にあきれるばかりだが、作品は今も根強い人気を保っている。「情痴小説の一つの極致」と評した谷崎潤一郎によれば、「ここにあるような人間の痴愚は、いかなる男の胸にも潜んでいる」。
 ▼たとえそうだとしても、かつて交際していた女性を包丁で刺し殺してから、自分は首をつって自殺するという、身勝手きわまりない蛮行が許されるはずがない。元教員の小堤英統容疑者(40)は、平成18年ごろから、被害女性に嫌がらせメールを送り続けてきた。
 ▼昨年6月に神奈川県警逗子署の捜査員が、小堤容疑者を脅迫容疑で逮捕した際、被害女性の結婚後の姓や住所の一部を読み上げていたことがわかっている。それをもとに、インターネットの掲示板や探偵を使って、居場所を割り出したようだ。
 ▼つまり、警察が被害女性を守るどころか、犯行の手助けをした可能性があるというから、ますますやりきれない。文面が脅迫的でなければ、たとえ何千通、嫌がらせのメールを送りつけても罪に問えないという、ストーカー規制法の不備も明らかになった。男の胸から痴愚をなくす方法はなくても、それが悲劇に結びつくことのない、ストーカー犯罪防止の決め手はないものか。

人の顔をしたルールづくり

2012年11月13日 | Weblog
春秋

2012/11/13付
 確かにルールはある。が、被害者の立場への想像力が少しでもあったなら、ルールはあえて曲げてしかるべきではなかったか。先週、男が以前つきあっていた神奈川県逗子市の女性を殺して自殺するという事件がおきた。この事件にからむ警察の対応が釈然としない。

▼男は昨年、女性に脅迫メールを送りつけた疑いで逮捕された。その折、結婚し引っ越していた女性の新しい姓や逗子に住んでいることが、警察から男に伝わったという。人を逮捕するとき、被害者が誰かをきちんと容疑者に伝えるのは法が定めたルールだ。ただし、命にかかわる次の事件への想像力が警察には欠けていた。

▼ストーカー行為に悩んで警察に相談する。その警察から、相手に隠していた個人情報が漏れてしまう。これでは何のための相談かわからない。かつてはやった言い回しを借りれば、こうした事件にこそ「人の顔をした」捜査が大切なのに。ルールがあって曲げられないというなら、ルール自体を曲げて作り直す必要があろう。

▼近松門左衛門人気などで心中がことさら美化されていた江戸の世、流行に手を焼いた幕府は未遂で生き残った者に重い罰を科した。それでも、心中未遂を酔った揚げ句のけんかとして処理するよう指示した現場の役人向けマニュアルが出回っていたそうだ。大ごとにせぬための方便である。「人の顔」がのぞいていないか。