2011年3月4日 DIAMOND online
ノバレーゼが自信を見せる「極上のおもてなし」
――浅田剛治社長が語る中国ウェディングビジネス
あさだ・たけはる/1969年生まれ。1992年株式会社リクルート入社。93年株式会社東海会館華寿殿(現株式会社シャンテ)入社、96年同社代表取締役就任。2000年株式会社ワーカホリック(現株式会社ノバレーゼ)設立、同社代表取締役社長に就任。
多くの人にとって、結婚と言えば人生最大のイベントである。その「晴れの門出」をより感動的に演出するのが、挙式や披露宴だ。最近は、挙式や披露宴のニーズも多様化しており、ウェディングビジネスに関わる企業はよりお客のニーズにマッチしたサービスを提案しようと、趣向を凝らしている。
そんな激戦状態のウェディング産業において、不況の向かい風にもかかわらず、安定した成長を続けているのが、ノバレーゼである。2010年12月期の売上高は対前年比2.7%増の108億7900万円、純利益は同7.3%増の10億3200万円を実現した。
同社の中核事業は、自社施設や提携施設で婚礼に関わる総合的なプロデュースを行なう婚礼プロデュース事業、ウェディングドレスやタキシードを直営のドレスショップで貸し出し・販売する婚礼衣装事業、ホテル運営や挙式・披露宴で飲食サービスなどの提供を行なうホテル・レストラン事業の3つ。特に昨今ニーズが高まっているゲストハウス・ウェディングに強みを持ち、若いカップルのファンを増やしている。
そんな同社が、ここにきて中国への進出を本格化しているという。結婚式は、国によってニーズが大きく変わるイメージが強い。日本型のウェディングビジネスは、果たして中国に根付くだろうか?
ノバレーゼの浅田剛治社長に、中国戦略を詳しく聞いた。
中国に通い始めたのは10年以上も前
最初の目的は現地視察や人脈づくり
――昨年から中国でのビジネスを強化していますが、なぜ中国に力を入れようと思ったのですか?
浅田 経済成長や人口の増加が著しい中国市場は、全ての日本企業にとって大きな可能性を秘めています。私もこの有望市場に大きな魅力を感じ、現在持っているリソースの中から、余力がある範囲で本格的にトライしてみようと思いました。
実は、中国に通い始めたのは、もう10年以上前のことになります。そのときは、主に現地の視察や人脈作りが目的でした。
当時、中国には何もありませんでしたが、経済成長の予兆はありました。建設ラッシュであたり一面に粉塵が飛んでいたため、立っているだけで口の中がザラザラしたことを覚えています。
浅田 本格的にビジネスを模索し始めたのは、5年ほど前から。当時は日本の結婚式に使う家具を調達するために、上海などの家具工場に行っていました。現地には大きなビルがたくさん建っていて、以前より明らかに発展していましたね。
家具の輸入をしながら、現地に本格出店する可能性を探すために、上海から広州、蘇州などへ足を延ばして、色々なテナント物件を見て回りました。
日本企業が現地へ出店する場合は、日本の本社と打ち合わせをしながら進めますが、景気が過熱している中国は物件の足が速い。「これぞ」と思う物件に出会ったら、「賃料が高い」などと躊躇しているヒマはありません。その場ですぐに契約しないと、他社にとられてしまいます。そういう状況だったので、物件探しは骨が折れましたね。
満を持して出店した和食レストラン
「うちのサービスなら、絶対勝てる!」
――そんな試行錯誤の時期を経て、本格的なビジネスに乗り出したきっかけは?
浅田 昨年7月に、やっとよい物件を借りることができ、まずは上海に和食のレストランを出店しました。レストランに参入したきっかけは、それまで現地の様々なレストランで食事をし、「この味やサービスなら、自分がやっても勝てる」という自信を深めていたからです。
中国で和食というと、食べ放題や飲み放題の店が多く、メニューはてんぷら、うどん、カレーなどごちゃ混ぜで、味も大雑把。「もうちょっと本格的な和食を広めたい」と思いました。中国で暮らす欧米人の間でヘルシー志向が高まっていたこともあり、自信はありました。今はロール寿司のお店になっています。
昨秋には、蘇州(江蘇省)で結婚式場のビジネスを始めました。実際の経営者は蘇州のディベロッパーで、ノバレーゼは資本を入れずに、マネジメントを請け負っています。中国では一度お店を作ると、玉突きのように方々から「出店しないか」という話が舞い込んできますが、これもそんなやりとりの中で出てきた話でした。
今春から、その結婚式場に併設する婚礼衣装店で、ウェディングドレスなどの現地販売にも参入します。これも台湾のドレスメーカーが出店した店舗で、ノバレーゼがマネジメントを請け負う方式を採っています。
――中国人と日本人の結婚観は、随分違うと思います。日本型の結婚式は、うまく中国に根付くでしょうか?
浅田 結婚に求める基本的なものは、日本も中国もあまり変わりませんが、習慣が違います。たとえば、中国では結婚式が一日中開催されていたり、結婚式の前に皆で麻雀をしたり、式には普段着のまま参加します。
そもそも、日本のように挙式や披露宴のオペレーションもまだまだ確立されていません。招待状に出欠を書いて返送する習慣がないので、主催者側は何人出席するのか、当日にならないとわからない。当日たくさん人が来過ぎて、急遽もう1つ会場を借りたりするのも、珍しいことではありません。
披露宴については、起承転結がなく、いつの間にか始まっていつの間にか終わるという感じです。演出をあまり考えないため、日本のように花束贈呈が行なわれて親が涙するといったイベント性はありません。ほとんど飲み会のような感じで終わってしまうのが普通ですね。何十年も前の日本と同じような状況です。
演出が乏しい中国の挙式・披露宴に、
イベント性に富んだ日本型のサービスを
浅田 そんな中国の結婚式に日本のノウハウを導入し、イベント性を持たせ、より洗練された結婚式を提案していく。中国の基本的な習慣は尊重しつつも、日本の結婚式のストーリー性やオペレーションをうまく融合させて「もっとよい結婚式ができるようになる」と提案すれば、受け入れられる余地は大いにあると思います。
実際、都会を中心に、日本のきちんとした結婚式に憧れる若者は増えています。競合他社のなかにも、現地で自前の結婚式場をつくり、サービスを行なっている会社はありますが、目下その数はほんのわずか。お客様はサービスに飢えていても、それを提供できるベンダーがいない状況です。
その意味でも、日本型の結婚サービスは、今後ニーズが一気に高まっていく可能性があります。とりわけ、中国の富裕層は「一般人と同じ結婚式はイヤだ」という意識が強いので、今の日本のように、豪華なウェディングが流行る可能性があります。
――その追い風に乗るために、自社のどんな強みを発揮していくつもりですか?
浅田 ノバレーゼの強みは、過去から現在に至るまで、日本の様々な結婚式を見続け、手がけてきたこと。土地ごとの風習にカスタマイズしたサービスを提供するノウハウには、かなり長けていると思います。
中国で行なっているのは、今のところノウハウの供与だけですが、将来的には自社施設の展開も考えます。日本では、ゲストハウス・ウェディングが好調ですが、中国でもそれにこだわるわけではありません。日本の一般的な総合式場と、富裕層向けのゲストハウス・ウェディングを、両方展開していけたらと思います。
今後は現地のトップ人材を採用し、
日本で「おもてなしの心」を学ばせる
――人材戦略については、中国で現地社員の採用も始めたと聞きますが。
浅田 よく言われるように、中国ではサービスに対する意識が、あまり高くありません。しかし、中国展開を考えるなら、現地の事情をよく知る中国人の社員を増やしたほうがよい。今年度は優秀な社員を2人採用しましたが、今後も毎年2~3人くらいのペースで採用していくつもりです。
採用した中国人の社員には、まず日本に来て働いてもらいます。日本語や日本のサービス、日本の経営を学んでもらい、2~3年後に中国に戻って活躍して欲しいと思っています。
いわゆる「良い」サービスを受けたことがないのに、始めから質の高いサービスを提供しろと言っても難しい。だから、日本式のサービスを身をもって体感し、磨いていくしかありません。
今後、日本型のサービスが普及すれば、中国のお客様の目はどんどん厳しくなってくるでしょう。そのときこそ、サービスレベルを極限まで追求するノバレーゼの強みを発揮し、競合他社と差別化をするチャンスになるはずです。
――日本では、少子化や非婚化の影響で、ウェディング産業が伸び悩むのではないかと言われています。日本や中国を含むグローバルな視野から、ウェディング産業の長期的なトレンドをどう見ていますか?
浅田 日本では、現在の事業でさらなるニーズを掘り起こすことに加えて、ギフト、パーティ、旅行、花など、ブライダル関連のアニバーサリー事業にも力を入れたいです。また、うちの強みである接客ノウハウを、法人向けに販売することも考えています。
日本の高度経済成長時代に当たる中国についても、一人っ子政策の影響などにより、数十年後には人口動態がかなりいびつになることが予想されます。現在も、結婚できない独身者がたくさんいます。ただし、長期にわたって大きな可能性を秘めた有望市場であることは、間違いありません。
また、中国展開を中心に、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムといった、華僑経済が根付いたアジア諸国にも、進出してみたいですね。
中国での物件探しは骨が折れる
信頼できるナビゲーターと組もう
――今後中国へ進出する日本企業に対して、何かアドバイスをお願いします。
浅田 現地事情がよくわからず、当初は色々苦労しましたね。とりわけ困ったのは、法律や契約が曖昧だということです。
たとえば、出店しようとテナントを探しているとき、現地の不動産業者に「日本企業にぜひ借りて欲しい」と言われ、実際に言ってみると、すでにテナントが埋まっていたということがありました。
そのとき驚いたのは、「高い賃料で借りてくれるなら、今入っている会社をすぐどかすから」と言われたこと。日本のように法律や契約がちゃんとしていないため、よりよい条件で借りてくれる相手が現れれば「また貸しする」ことが、まかり通っています。
店の消防基準などについて役所の審査を受けたときには、役人から認可をもらう代わりに、袖の下を求められたこともありました。
そんな中国でビジネスを始めるには、信頼できる中国のナビゲーターと組み、根回しや交渉をやってもらうことが重要です。徒手空拳で臨むのではなく、まずはコンサル的な役割を担ってくれるパートナーを探すべきだと思います。