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ITが国を守る時代、準備は万全か!No2

2011年03月03日 14時22分49秒 | 国際情勢、安全保障
4 NCOの課題
 さてNCOが提唱されて10年以上が過ぎ、実際の運用をこなした結果、軍事作戦において新たな世界を照らす輝かしい光のみだけではなく、影もあることが分かってきた。
 
(1) 共同作戦のジレンマ
―― 相互運用性(インターオペラビリティ)の確保の課題 ――
 
国家相互の結びつきが格段に増しグローバル化された今の国際環境下では、多くの場合同盟軍、連合軍、多国籍軍など、複数の国の軍が共同作戦を展開することが常態になっている。
 これまでは、共同作戦の訓練を積み、意思疎通を十分図った同盟国との連合作戦が主体であった。
 ところが最近では同盟関係にある国々のみならず、その地域内の国や、さらには世界中からいろいろな国が手を挙げてアドホックで一時的に連合作戦に参加することが多くなっている。
 軍事作戦のみならず安定・復興作戦や国際緊急援助活動などでも様々な国がともに汗を流す。
 この際、参加国は自分たちのシステムやネットワークを携えてやって来るが、しかしまた互いの意思疎通を図る手段を確保することも意思疎通を十分図り作戦を円滑に進めるためには不可欠の要素である。
 この場合、共通のシステム、共通のネットワークを利用することが必要になり、それによって情報の共有、思想統一が可能になってくる。例えば同一のGPSを利用すれば、位置情報や時刻規制などが相関誤差なく行え、各種偵察情報の交換などもスムーズにいく。
 このためにはシステムインフラ間のインターオペラビリティ を確保することになる。しかし、このインターオペラビリティの確保と維持はそうたやすいことではない。
 例えば構成国の1つがシステムのアップグレードやバージョンの更新をすれば、それへの対応を余儀なくされる。
 旧来のまま、陳腐化したシステムにわざわざ頼ることはないが、新バージョンへの対応経費、システム接続のやり直し、兵員の訓練・慣熟、初期段階で当然に発生するバグへの対応など常にリスクが存在する。
 さらには各国、各企業の技術保全(テクノロジーセキュリティー)や技術公開制限の壁が立ちふさがることもしばしばである。このような状態では、運用するシステム内にブラックボックスが多く、兵器として使いづらい、壊れても修理できない状態になりかねない。
 このため、共同作戦を取るであろう国々とは、平素から共通的なネットワーク構成やインターオペラビリティ確保に関する調整など様々な工夫が必要になる。そして共通部分に関しては相互の形態管理に係る枠組みをつくり、定期的に調整を図るなどの継続的な努力が求められる。
(2) ネットワークへの新たな脅威
―― サイバー戦等新たな脅威からの脆弱性 ――
 現代の作戦環境では、NCOに大きな影響を与えるいくつかの新しい脅威が出現している。
 例えばその第1は、近年富に発達しているサイバー戦である。情報を統括し、指揮中枢などを構成するコンピューター、そして神経系統とも擬されるネットワークにソフト・ハードにわたる攻撃を仕かけるサイバー攻撃は、そのシステムにマヒ、誤作動、データ改竄、なりすまし、物理的破壊などを引き起こす。
 サイバー戦は、平時有事を問わず絶えず行われており、その攻撃元を特定することが困難なこと、国家などが関与する組織的なものか個人的犯罪なのか判別が難しいことなどから対処が難しい分野である。
 しかも被害を受けた場合、軍事・民生いずれの部門によらず深刻な被害が発生する危険性があり、国家の安全保障上深刻なダメージを受ける。
 第2は、ネットワークセントリック電子戦(NCEW)である。
 コンピューターをはじめとする電子機器がネットワークシステムに限らずあらゆる装備品で中心的かつ重要な役割を果たしている現代、妨害(ジャミング)、欺瞞、なりすましなどを用いて電子機器を麻痺、破壊するネットワークセントリック電子戦(NCEW)は強力な攻撃手段となる。
 このような脅威に対処するには、個々の兵器に組み込まれた電子関連機器はもとより、C4ISRシステム(Command Control Communication Computer Intelligence Surveillance Reconnaissance system)に関するシステムやネットワーク全体の抗たん性や冗長性の強化に常に気を配り、敵の攻撃を回避し、あるいは受けても重大な影響が出ないように配慮されていなければならない。
 効果的な能動及び受動的対策を講じ敵の攻撃の結果受けたいかなる損失も速やかに取り替え、回復することができる能力を維持する必要がある。
 とはいえ、これらに完全に対処しきることは難しい。
 まず何を防護しなければならないのか、それはなぜなのかを検討し、優先度をつけることが求められる。そしてシステムの物理的分散、ノードレスのネットワーク、攻防にわたるサイバー戦能力、暗号化されたデジタル通信などの手段を尽くすべきである。
 併せてこの分野は技術革新が激しく、半年もすれば陳腐化し、レガシーな方策となってしまい、常に新たな対策が求められる分野である。このような状況に追随するためには、何にも増して感性鋭い優秀な人材の登用に意を配る必要がある。
(3) 情報の飽和
―― 便利さゆえの新たな課題 ――
 情報の流れがネットワーク化されると、軍の組織では恒常的に行われる指揮と報告という縦関係での流れのみならず、すべての情報ユーザーが自分の任務遂行に必要な要求を出し、必要な情報を取得できるという、いわば横方向の流れも加わるようになる。
 このように縦横に膨大な情報の流れができる結果、情報量が過多になり、それはシステムに負担をかけるとともに、指揮官から一兵士に至る情報ユーザーに混乱を与える恐れが大きい。
このいわば「情報の飽和」状態の中では、第1に上級指揮官による下級指揮官への過干渉や下級指揮官による上級指揮官への過依存といった状態が生じやすい。
 それぞれが判断するに十分以上の情報を与えられるため、各レベルの責任範囲を超えた干渉や依存が可能となり、やってしまいがちになる。
 第2に、戦場の最前線にある兵士たちは、「情報の洪水」の中から自分たちの任務遂行に真に必要な情報を選択して拾い上げなければならない。
 苛酷な作戦環境の中で個々の兵士にこれまで以上の責任が付与され、適切な判断をしかも短時間の中で求められることになり、彼らの負担は倍増する。最近戦場に出た兵士が心理的な傷を負うケースが多いのも、この辺に一因があるとも考えられる。
 NCOに付随して発生するこのような問題を解決するには、根本的には、NCO環境下で求められる新しい指揮のスタイルや軍事組織を追求することが必要になる。
 しかしそのような体制の変革は一朝一夕でできるものでもなく、それよりも技術革新によってシステムや装備の方が先行しているのが現状である。当面、このような状況に対応するには、情報管理をしっかりした方針の下に厳密に行うことが重要である。
 クリティカルな情報に関して、何の情報を、いつどのような頻度で、誰に、どのような形で提供するのかをよく整理し、規定することである。そして絶えずレビューし、更新し、試行錯誤を繰り返し、いわゆる「システムを育てる」という考え方を持つ必要がある。
 
5 まとめに代えて
 
ネットワークを運用すると、相反する要求に立ち竦むことが多い。
 すべての関係者にアクセスを許容すべきか、あるいは一定の枠をはめアクセスを制限すべきであろうか?
 自由なアクセスにより情報の共有は万遍なく行き渡りネットワーク化のメリットを高めるものの、時には混乱が生じ、あるいは敵にさえ門戸を開いてしまう。
 ネットに載せるデータも、処理しない生のままのデータがいいのか、あるいは一定の処理を施したデータが好ましいのか?
 生データは客観的で何より事実を物語ってはいるものの、そこに含まれる意味を見落とす恐れがあり、また受け取る人により判断が異なる可能性もある。処理されたデータは分かりやすいものの、緊要な情報を切り捨ててしまっていたり視点を固定させる恐れがある。
 あるいは、柔軟な運用ができるであろうことを期待して極力多くのデータを提供するのか、あるいは情報保全を重視して「ニーズ・ツー・ノウ」、すなわち必要な人のところに限って必要な情報を届けることを原則とするのかで対立する。
 技術的には、軍事面の基準を適用すべきか、あるいは最近の民生技術を反映して民需基準を当てはめるべきかという問題もある。
 インターオペラビリティを確保しようという課題についても同様のことが言える。インターオペラビリティを完璧に確保するためには多くのマイナス面に目をつぶらねばならず、また独自のシステムだけでは円滑な共同作戦は期待できない。
 これらには決して正解はない。いろいろな要素が絡んで常に変化している。我々は自らの基準をしっかり持ち、現状で最適のバランス点を見つけていかねばならない。
 この際に肝要なことは、NCOの基本である運用の柔軟性と速度の優越、そしてその結果として主動の確保を得ることがどの程度できるかの見極めである。
 バランスが崩れるとトラブルが生じ、危機に陥りかねない。これをネットワークの構成などシステムのせいにすることはたやすいが、その真因は多くの場合システムにはなく、その運用、そしてバランスの取り方にある。
 大海原で大波に逆らうことなく、うまく波に乗り、むしろそれを利用するように、事態に柔軟に対応し、適切なバランスを確保してこそNCOの目指すメリットを存分に生かすことができる。
 過去の基準などに固執することなく、先を読み柔軟に対応すること、むしろNCOでは「変化こそ基本」とも言えるであろう。
 NCOには大きなメリットとともに、無視できないデメリットや課題も明らかになってきている。さらにはNCOを活用する作戦の場の変化も激しい。
 このような問題に眼をそむけることなく、柔軟な発想を持って適切に対応し、課題をクリアしていく絶え間ない努力が必要になってくる。
 最後に我が国の防衛分野に関して付言すると、現状はNCOを行うための体制整備を統合レベルでスタートさせた段階であり、まだまだ整備途上にある。そしてその動きはあまりにも遅い。
 年々縮減される防衛予算のありようでは、このような整備にまで手が回らないのが実態である。ここで指摘したような課題に対処する以前に、諸外国の流れにはるかに取り残されつつあるのが懸念される。

ITが国を守る時代、準備は万全か!

2011年03月03日 14時22分10秒 | 国際情勢、安全保障

急速に進歩しているNCO、対応遅れは致命傷に

2011.03.03(Thu) JBプレス 小川剛義
 
1 はじめに
昨今の軍事作戦において、ネットワーク中心の作戦(NCO:Network Centric Operation)の重要性が叫ばれ始めて久しい。
 
 NCOとは、端的に表現するならば、多くの兵器システムを通信ネットワークで結び、連係させることにより、部隊の作戦能力を高め、敵に対して自分の意図通りにできる主動の地位を得ようとするものである。
 冷戦後期、まだNCOという言葉もネットワークという概念すら十分に確立していたとは言えない時代に、既にソ連では来るべき新しい時代の予兆に脅えていたことを、ジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)教授で戦略学の大家エリオット・コーエンは次のように述べている。
 「冷戦時代も後期、1980年代に入り、ソ連の軍事専門家たちは軍事技術、特にコンピューターや通信技術の発達によって、ソ連自慢の装甲部隊の移動が数百マイルも離れた地点から探知され、探知後30分もたたぬうちに自動制御装置を備えた対戦車ミサイルに次々と襲いかかられることになると懸念し始めていた」
 「このことは当時、ソ連が西ヨーロッパで戦争が起きた場合に考えていた戦略、つまり大規模な装甲部隊を西ヨーロッパに押し出していく戦略の破滅を意味していた。さらにソ連は当時満足のいくパソコンを国内で製造する技術を持っておらず、情報技術に先導される米国との軍拡レースについていけなくなると考えていた」
 
冷戦の崩壊は、ソ連の経済的破綻、グラスノスチに代表される情報の自由化政策による情報化社会の浸透、米国の戦略防衛構想(SDI)、西側諸国の結束など多くの要因に基づくが、やがてNCOにたどり着くこのようなソ連の懸念も一因と考えられている。
 そしてこの軍事情報技術の革新的発達に基づく作戦形態の変化は、1990年代の幾多の構想や議論を経てNCOと呼ばれるに至った。
 それは、今では単に技術革新による兵器体系への影響にとどまらず作戦形態を大きく変化させ、軍の戦力構造や組織編成、運用ドクトリンや作戦構想、兵員の教育や訓練も変えていくものとの認識が一般的である。
 
2 NCOの意義
 
NCOは、工業化社会から情報化社会に推移していった結果の産物であるとも言えよう。
 工業化社会の時代、力の源は「量」であった。大量生産によって生み出された量が相手を圧倒してきた。
 ところが、情報化社会となった現代における力は「速度」である。変化への適応の早さ、いち早く情報を把握して競争相手より先に対応すること、などにより主動の地位を確保し競争相手より優位に立つ。
 つまり、工業化社会から情報化社会へのドラマティックなシフトに伴い、量や質が優位性を左右した時代から、速度や変化への適応力が力として認識される時代に移行した。
 軍事分野でも同様で、個々の兵器の量や質を問うプラットフォーム中心の世界から、プラットフォームをネットワークで連接するネットワーク重視の世界に移行することにより、情報の幅と量を拡大し、伝達速度を高め、アクセス可能な範囲を増やせるようになった。
 それによって力がフィードバックされ、各プラットフォームの能力を高めることができるようになった。
 NCOでは情報がこれまでのように指揮官と部隊の間で組織の「タテ」方向に流れるのみならず、網の目のように「ヨコ」方向にも行き渡るため、分散した部隊間で情報が共有され、あらゆる部隊が斉一でタイムリーに作戦行動に加わることができるようになる。
 さらに、タイムセンシティブな情報を素早く共有することができるため、指揮がスピードアップし、作戦テンポが速まり、作戦の有効性を速やかに修正しながら迅速にかつ敵に先行して多様な対応を採ることができる。
 その結果、孫子の昔から強調されていた戦いの原則である「要時・要点に戦力を迅速に集中」させ、あるいは「敵の動きの機先を制して先行的に行動し、主動の地位を確保」して、戦いで優位な地位を占めることができる。
 
3 NCOの有効性
 
 例えば、ある戦域に敵と味方の戦力が向き合っているとしよう。双方とも偵察を繰り返し、我の戦力を集中したり分散させて戦機を狙い、自分に有利な態勢に持ち込もうとしている。
 この際、NCOの概念を取り込んでいる側は、あらゆるセンサーを動員して広く戦域を監視、偵察するとともに、それぞれが得た情報を直ちに網の目状に張り巡らされた通信ネットワークを活用して全部隊に提供して共有する。
 また、全地球測位システム(GPS)などを活用して味方の位置を正確に把握し、迅速かつ効率的に部隊の集中ができる態勢を取る。指揮官の意図が末端の組織・兵士まで速やかに徹底する態勢が取られている。
 こうなれば、どちらが敵に先んじて有利な立場にあるかは自明であろう。
 また、仮に部隊が敵に囲まれて孤立したとしても、救援の味方がすぐそばまで来ていることを認識している部隊は踏ん張りが利くが、状況が五里霧中で自分が孤立し援軍も期待できないと思い込めば、たとえすぐ近くまで友軍が救援に来ていても戦意を喪失し、敗れ去ってしまう。
 情報力の強さは戦力を何倍にも強化することができる。それをお膳立てするのがNCOである。
 世界各国はこのNCOの有効性に目をつけ、様々な形で作戦の中に取り込む努力を始めている。
 米軍は2003年のイラクの自由作戦(Operation Iraqi Freedom)で、衛星などの機能を存分に活用し、広範で確実な指揮通信ネットワークを戦域内及び米本土と戦域との間に構築して、「戦場監視、目標標定、味方の戦力指向、戦果確認、戦果分析評価」の一連のサイクルを間断なくかつ迅速に実施し、イラク軍を撃破していった。
 また戦略攻撃においても、各種センサーから得た情報を基にした的確な目標標定とこれを受けての間断を置かない精密な攻撃は、NCOの特徴を存分に活かしたものであった。
 
このような動きは、決して米軍のような先進国の軍の専売特許ではない。例えばスリランカでは、永年悩まされ続けてきた、スリランカからの分離独立を狙ったタミル人の過激派テロ組織「タミルの虎」を2009年に制圧し終えた。
 この際、スリランカ軍は無人機を使ってゲリラ組織の行動を監視し、ゲリラ軍を発見すると速やかにネットワークを経由して友軍の攻撃ヘリコプターなどの攻撃部隊に目標情報を提供し、迅速かつ正確にゲリラ軍の動きを制圧することを繰り返した。
 このような活動がスリランカ政府軍の勝利に大きな効果を上げた。これもまさにNCOの一形態である。
 また、最近では作戦様相が変化し、本格的な軍事行動が主体の在来型の戦いのみならず、非正規戦といわれるテロや暴動が同時に発生することが予期されている。いわゆるハイブリッド戦争である。
 例えば、ミサイルを用いた軍事攻撃と合わせて、社会の混乱を誘発させる社会インフラに対するサイバー攻撃(交通機関の麻痺、金融機能の停止、電力機能の破壊、通信障害など)、そしてテロやサボタージュ、宣伝戦などが同時に仕かけられ、国民を物理的にも心理的にも不安と恐怖に陥れる。
 このような戦争ではNCOが有効に機能する。重層的なネットワークを形成して的確な情報共有ができれば、複雑・不確実な環境下でも柔軟な運用や迅速な決心と対処が可能になる。
 NCOならば、いちいち中央で判断しその指示に基づいて現場が作戦を実行することに固執することなく、あらかじめ与えられている方針に基づき、事態が発生した個々の現場で速やかに判断・決心して迅速に対処するディセントラライズド・デシジョンが無理なく実施できる。