弁護士辻孝司オフィシャルブログ

京都の弁護士辻孝司のブログです
弁護士の活動、日々感じたことを弁護士目線でレポートします
弁護士をもっと身近に・・・

弁護士夏期研修~近畿地区~に参加しました。

2012-08-03 14:54:09 | インポート

8月2日、大阪弁護士会館で行われた弁護士夏期研修

「市民が刑事裁判に関わる意義~裁判員制度と刑罰の目的~」
(浜井浩一龍谷大学大学院法務研究科教授)

「裁判員裁判、法施行3年を振り返って~運用の改善に向けて~」
(遠藤邦彦大阪地裁判事、鈴木眞理子大阪地検検事、後藤貞人弁護士)

に参加してきました。

Img_0409_2

    

午前の浜井教授の講演では、少子高齢化とともに日本の犯罪は減少傾向にあり、殺人などの凶悪事件も減少していること、刑務所に行くのは犯罪者(被疑者)のうちのわずか2%にすぎず、刑務所に行く人の罪名の多くは窃盗と無銭飲食。

示談できる経済力、反省の態度を示すコミュニケーション能力、家族などの身元引受人の3つの条件を満たせない人が刑務所送りになっているそうです。
現実の刑務所は、高齢者、障がい者が多く、本来であれば、福祉によって救済されるべきなのに、刑務所が受け皿となってしまっているとのことでした。

世界的に見ても、福祉予算の低い国ほど刑罰が重く、刑務所人口も多いとのこと。
ノルウェーには、高齢犯罪者が増加するような傾向はなく、イタリアでも高齢受刑者というのはほとんどいないということです。

浜井教授の言葉 「反省は一人でもできるが、更生は一人ではできない」

刑務所しか障がい者の受け皿がない・・・・ 先日の大阪地裁の裁判員裁判も同じことです。犯罪者を社会全体で受入れ、包摂していく仕組みが必要だと感じました。

    

午後は、法曹三者の代表による裁判員裁判の運用状況についてのパネルディスカッション。

遠藤裁判官からは、冒頭陳述は、これからの審理に期待をさせるようなワクワクする冒頭陳述であって欲しいとのリクエストがあり、強く共感しました。

裁判のはじめに行われる冒頭陳述では、まず、注意を惹きつけ、興味を持ってもらうことが何よりも肝心。この段階で、理解してもらおうとか、同意してもらおうと思うと失敗する。私たちの著書「入門・法廷戦略」(現代人文社)で書いていたとおりです。

   

鈴木検察官は、以前に京都地検におられたときに、何度か法廷で対峙しています。

この日の研修でも、私が弁護人を務めた事件での反対尋問や弁論を紹介して、褒めて?下さいました。鈴木検事が褒めてくれた反対尋問と弁論はだいたい以下のようなものです。
ご紹介しておきます。  

  

【反対尋問】

(殺人事件の現場マンション近くで清掃の仕事をしていた女性が、マンションに不審者が出入りすることはなかったと証言したことに対する反対尋問)

「清掃の仕事は大変でしたね。」

「どういうことを心がけて仕事をされていましたか。」

「掃除できていない箇所があるとクレームが来たりしますね。」

「クレームを受けないように慎重に仕事をしていましたね。」

「事件の日、掃除機をかけていましたね。」

「床を見て、残っているゴミがないか探しながら掃除機をかけましたね。」

「窓ガラスも拭きましたね。」

「室外側のガラス拭きは大変でしたね。」

「汚れが残っていないかガラスをよく見ましたね。」

「室外側のガラス拭きをしているとき、あなたの顔は室内側を向いていますね。」

「草むしりもしたのですね。」

「しゃがんで草むしりしたのですね。」

「草をよく見て、草むしりをしましたね。」

というような尋問です。

清掃を仕事とする証人は、当然、熱心に一生懸命に掃除をしていたと証言したいわけです。
その気持ちを汲んで、熱心に掃除をしていた、そうであれば、犯行現場を見ていないかも知れないという結論に結びつく事実を積み上げていきました。

  

【最終弁論】

(被害者宅で行われた殺人事件。室内での事件であるため、目撃者は誰もいない。被告人はすべて自白しており、有罪であることには争いがなく、情状(量刑)が問題となった裁判。)

「裁判員のみなさん、私たちは今、被害者がどのようにして亡くなったのかをとてもよく知っています。どうして、知っているのでしょうか?それは、被告人が、自分に不利になるかも知れないことも、すべてを正直に打ち明けて話したからです。」

この弁論の部分は、判決では、「自己の犯行の態様について、多くの不利な事実も含めて洗いざらい正直に話している。」として、有利な情状として評価してもらえました。

   

Benron1