循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

時局傍観者の原発ブログ(3)

2011年04月17日 | ハイテク技術
20年も前、タイのバンコクで不思議な光景をみた。何人もの物乞いが駅や街頭に立っている。彼ら、彼女らが持つ容器(山頭火風にいえば鉄鉢)に通行人が金を入れても黙って立っているだけである。絶対に頭は下げない。施しに対する感謝はないのか。
 現地に住みついて我々のガイドをしてくれた日本の染色家が解説してくれた。「人にモノを施す人間はそれだけで幸せなのです。もらう側がお辞儀をするいわれはありません。施す側にいい思いをさせてやったのですから」。
 いま東北の被災地にモノを送り、義捐金を出す人々は十分「施す側の愉悦」に浸っている。それにとどまる限りはいくらでもやさしくなれる。その上で「日本は強い国、長い道のりになるかも知れないけど、みんなで頑張れば絶対に乗り越えられる。そう思う」と叫んでいればいい。
だがいったん「被災地」が自分たちの生活圏に入り込んできた途端、手のひらを返したように彼らを拒絶する。川崎市民が「放射能ごみを運んでくるな」と市長を追及した事件がそれだ。
もうひとつ、見過ごすわけにいかない出来事が起きていた。次の新聞記事がそれを伝えている。

◆素早く隠した
【原発学ぶ副読本の内容見直し、文科相が表明・読売新聞 2011年4月15日】
《高木文部科学相は15日午前の閣議後の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、文科省と資源エネルギー庁が2010年に作成し、全国の小中学校に1冊ずつ配布した副読本の内容を見直す考えを示した。副読本は原発の安全性について、「大きな地震や津波にも耐えられるように設計されている」(中学校向け)、「地震が起きたとしても、放射性物質がもれないよう、5つの壁で頑丈に守られている」(小学校向け)などと記述しており、高木氏は「当然、見直す具体的な記述の一つだ」と指摘した》。
 早速その副読本(「わくわく原子力ランド」)を見たいと思って検索をかけたが、すでに事故発生後、文科省のホームページから削除されていた。こんな時だけ役人の行動は素早い。だが原発を推進してきた勢力が如何に嘘をついてきたかの歴史的証言として、これらの資料は満天下に曝すべきものである。日中戦争以来、「臭いものに蓋」は大本営のお家芸でもあった。
 だがネットを探っているうち、ピッタリのブログに出会った。「きっこのブログ」なる傑作である。その中に「わくわく原子力ランド」という昨年(2010年)4月1日付けの作品があり、問題の副読本の中身をひとつひとつ吟味して徹底批判を加えていたのである。3・11以後起きた災厄を予言するかのような鋭さがそこにある。
 きっこ、とはヘアメークアーチストを自称する女性ブロガーで、常に人気ブログランキングの50位前後を維持しているという。

◆おいおいおいおいおーーーい!
「きっこのブログ」をまるごと紹介したいのだけれど著作権にひっかかるので、ここではそのあらましを紹介するにとどめたい。
まずハトポッポ(鳩山前首相)による「原子力発電は地球温暖化の優等生なので積極推進する」宣言で彼の選挙区である室蘭市と資源エネルギー庁が活気づき、「人類が生み出した史上最悪の大量殺人兵器である原発を推進するためには『子供らの洗脳から』ってことになった」と副読本登場の背景を語る。「あたしたちの血税1億5,200万円も使って文科省につくらせたトンデモ洗脳本は小学生の『わくわく原子力ランド』中学生向けの『チャレンジ!原子力ワールド』っていうんだけど~」。
 文章はあくまで軽妙かつ辛辣、まこと人気ブログの上位に推される由縁だ。
原子力発電が如何に優れた電源であるかを強調するため、これら副読本が火力、水力、自然エネルギーの短所ばかりをあげつらっていること、スリーマイル島事故はあくまで「人為的ミスによる放射性物質の漏洩事故」であり、チェルノブイリ事故については31人の死者が出たことに触れないわけにはいかなかったものの、「日本ではこの事故を教訓に原子力発電施設での事故を防ぐしくみを見直し、前にも増して安全を確保するしくみとなっています。運転員の訓練を増やし、また万一運転員のミスが起きても安全機能が働くしくみと、つまり事故が起きないように、また起こったとしても人体や環境に悪影響をおよぼさないよう、何重にも対策がとられています」と副読本が書いていることに、きっこ氏は以下のように突っ込む。
「おいおいおいおいおーーーい!全国の原発で毎週のように事故が連発して、その多くが人的ミスで過去の事故なんて1ピコグラムも教訓になっていないのに、よくもまあこんな大ウソを子供たちに吹き込もうとしてるもんだ!」(きっこさん、この程度の引用はお見逃しください!裁判の被告だけにはなりたくないので)。
 こんな痛烈な文章を東京電力福島原発事故の1年前に書いていたきっこ氏を尊敬することしきりだが、あとは原典(「きっこのブログ」)に当たっていただきたい。

◆5つの壁はどうなった
小中学生向けの「トンデモ洗脳本」は隠しおおせても、一般社会人向けの洗脳サイトは健在である。本ブログ(1)で紹介した東芝原子力事業部監修の「原子力を考える」サイトもそのひとつだ。
 冒頭、まず登場するのは古代ギリシャの哲学者アルキメデスである。その彼がアゴに手をやって「どんな未来を子供たちに残してやるかだ、うーん」と呻く。またアルキメデスはプルトニウムの活用でウランの利用効率が2倍になると聞いて「これぞ現代の錬金術じゃ、すばらしい」と絶賛する。 東芝がいまなおこのサイトを削除していない度胸を称賛したい。
小中学生向け副読本も東芝のサイトも共通して二つの安全PRが行われている。ひとつは「原発を守る五重の壁」、もうひとつは「事故を防ぐ三つのオペレーション」である。
 まず「五重の壁」はあまりにも有名なので、いまさら解説もおこがましいが、概要は以下のとおり。
第1の壁:(燃料)ペレット
 ペレットは低濃縮の二酸化ウラン(UO2)を粉末状にした上で成型し、陶磁器のように
高温で焼き固めたもの。核分裂によってできる放射性物質(核分裂生成物)の大部分をペレット内部に閉じ込める。融点は2,700~2,800℃。
第2の壁:燃料被覆管
 被覆管はジルコニウム合金(ジルカロイ)製で、内部にペレットとバネを入れた後、ヘリウムガスを注入。上下に端栓を溶接し、燃料棒とする。この被覆管はペレットの外部へ出てきた少量の放射性物質(希ガス)も被覆管の中に閉じ込め、被覆管に損傷がなければ放射性物質を外へ放出しないようにする。
第3の壁:原子炉圧力容器
 圧力容器は鋼鉄製(厚さ約15cm)で、核燃料全体を収納する。何らかの原因で被覆管が破損し、相当量の放射性物質が漏れた場合には弁を閉じることにより、冷却材中に漏れた放射性物質を圧力容器とそれにつながる配管内に閉じ込め、外部へ出さないようにする。
第4の壁:原子炉格納容器
 圧力容器の外側には、さらに鋼鉄製の原子炉格納容器(厚さ約4cm)があり、主要な原子炉機器をスッポリと包んでいる。これは原子炉で最悪の事態が発生した場合でも、原子炉から出てきた放射性物質を閉じ込めておくとともに、周辺における放射線の影響を低く抑えるためのものである。
第5の壁:原子炉建屋
 原子炉建屋は約1mの分厚いコンクリートで造られ、格納容器の外側を原子炉格納施設として覆っている。建屋は施設の設置要領で「厚い壁を多く、基礎面積を広く、重心を下げる」ことになっているが、津波の翌日(3月12日)15時36分、水素爆発で建屋上部が吹き飛んだ。同日14時過ぎには圧力容器の圧力が異常上昇し、核燃料の一部が露出している。それ以後の惨状は連日、多くのメディアが報じたとおりである。

◆果たして想定外なのか
また原発事故に対処する三つのオペレーションとは原子力発電の運転を「止める」、炉心の過熱を「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」の三つだという。炉心とは原子炉の核分裂連鎖反応でエネルギーが発生する部分のことである。
 今回、三つの機能はどう発揮されたのか。
 東京電力福島第1原発では1~3号機が地震と津波で自動停止し、制御棒(ブレーキ)が挿入されたためまず「止める」は成功した。だが手放しで評価はできない。制御棒の脱落や誤挿入事故は78年から2005年までに15回起きていたという。まさに事故はハイテク部分ではなくもっと基本的な、いわば低レベルのところで起きているのだ。「福島原発の仕様は制御棒を下から入れるタイプのため、(重力で)落ちやすいのです。これが脱落すれば原発は勝手に運転を始める」(元東芝の原子力プラント設計者・後藤政志工学博士)。
次の「冷やす」だが、元原子炉設計技術者で、福島第1原発4号機の設計にも携わったライターの田中三彦さんによると、「地震や津波の影響で非常用電源が動かせなくなったため、炉心に冷却水が注入できなくなった。その結果、圧力容器内の水位が低下し、炉心にある核燃料の集合体が水中から露出し始めた」という。
 この状態が続いた結果、水による冷却ができず、燃料集合体の温度が急上昇。核燃料を覆うジルコニウム合金が溶け始めた。いわゆる「炉心溶融」である。1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故はこれであった。
非常用電源が故障したのは津波が原因。さらに炉内では、燃料棒を冷やす筈の水の水位が予想に反して下がり続けた。経済産業省原子力安全・保安院は3月12日の会見で「炉心溶融が発生したとみられる」と、最悪の事態を認めた。 田中さんは「原子炉圧力容器が最後のとりでだが、1号機の場合は営業運転開始(1971年)から 40年が経っており、耐久性が落ちている可能性もある」と懸念する。 そして経年劣化は事実だった。
 さらに放射性物質は「封じ込め」どころかザザ漏れであり、日々のメディアが伝えるように絶望的状況が進行中である。
 現実は教科書通りには動かない。技術者たちは想定外といいたいだろうが―――。
                   (以下次回)













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