今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

岩菅山・烏帽子岳

2006年10月25日 | 山登りの記録 2006
平成18年10月22日
岩菅山2295.0m 裏岩菅山2341.0m 烏帽子岳2230.4m

烏帽子岳という名前の山は全国に数ある。ネットで検索しても沢山の烏帽子岳がヒットするし、ウィキペディアによれば85座あるそうだ。遠目に見た山の形が烏帽子(やや偏芯して尖っている)に似ているから付いた非常に即物的で分かり易い名前だ。群馬県にも西上州の烏帽子岳や榛名の烏帽子が岳、谷川連峰の朝日岳から巻機山に繋がる県境上に大烏帽子山、裏妙義の烏帽子岩等いくつも上げられるが、やはりある方角から見ると烏帽子型をしているのが名前の由来なのだろう。

去年、佐武流山に登ろうと林道を延々と歩いていた時、落葉松林の上にその烏帽子型の高峰が回りに見えるどの山よりも崇高な雰囲気で聳えていた。岩菅山から北に続く高く遠目に軍艦を思わせる岩菅連峰の北端が、その烏帽子岳だった。軍艦と言ったのは、この山を真横から見られる白砂山辺りからの形が正に軍艦の様だからだ。巨船にたとえられる山の筆頭、荒船山は空母で、岩菅連峰はその厳つさからどう見ても軍艦以外にはないだろう。

先週、その烏帽子岳は苗場山の山頂から、今度は東に佐武流・西に烏帽子の2大高峰となって湿原の向こうに浮いていた。正確に言えば、烏帽子の上にちょこんと裏岩菅が角を出していたのだけれど…。それを見たらやはり無性にその山の頂に立ちたくなった。
この烏帽子は、でもそう簡単に登れる山じゃなかった。岩菅山から切明まで抜けるコースは、一昔前は野反湖から大高山を経て赤石山に抜けるコースと並び、秘境の山を泊まりで縦走する難易度の高いルートだった。ぼくが今年登った「ダン沢の頭・大高山」も、笹の刈り払いでコースが整備された結果、日帰りハイキングが可能になったエリアだ。岩菅から切明までのコースも同じように笹が刈り払われ、昔日の薮深い奥山では無くなり近年は辿る人も多くなっているらしい。とはいえ、泊まりでは無理だから、日帰りピストンをすることにした。標高差は大したこと無いが、やや距離があるから、やはり少しきついとは思う。奥志賀一の瀬、岩菅山登山口から烏帽子岳まで往復30㌔くらいある。ハッキリ言って、烏帽子までピストンするのなら一日で切明まで抜ける方が楽かも知れない(烏帽子から先は下りだから)。「車で日帰り登山」しか、今のぼくには選択肢が無いから、これもやむを得まい。

土曜の夜に家を出た。これで3週連続の山登り。運良く何の予定もなく、天気にも恵まれた事を感謝しよう。
紅葉のハイシーズン、草津白根や志賀高原といった観光エリアに向かうのだから行きはともかく、帰りの渋滞や岩菅山という人気の山を経由するから山そのものに人出が多いことが一番の懸念材料だった。今春から人並みに週末しか山に行けない身分になった。平日に人の居ない山ばかり登っていたぼくには、実はこれが一番のネックなのだ。

草津まで来たら雨がぽつぽつ。草津白根ルートを上っていくと、濃いガスで視界は10㍍がやっと。カーブが連続するから、速度は急に遅くなった。しかし、横手山を越えたら満天の星空で、今更ながら天気の分かれ目を実感する(ここ数年気候が変わったのか群馬は曇りや雨、長野や新潟に抜けると晴れていることが多くなった様に感じる)。

志賀高原一ノ瀬が今回の登山口。一ノ瀬のスキーロッジ街の先アライタ沢に向かう岩菅山登山口を探すが見つからない。何度も行ったり来たりしてしまった。結局いぶかしさを憶えつつも、「それらしい木の階段がある」入口の前の駐車スペースに車を停めて仮眠することにした。他に車は全くないし、登山口の標識もない?空は満天の星空で天の川が横切り、それこそ降るような星空だった。携帯のアラームを5時半にセットしてシュラフにくるまった。

少し寒くて目が覚めたらアラームが鳴り出す直前だった。まだほんのり明るくなったくらい。相変わらずこの駐車スペースに車は皆無。本当にここが登山口なのかなあ?22年前に岩菅山から裏岩菅まで行ったことがある。この辺りを車で走った記憶はあったが、あの時は一ノ瀬の駐車場に車を止めて東館山・寺小屋峰経由で登ったのだった。
冷たくてぽそぽそするパンを紅茶で流し込んで支度をし、出発する。入口に鳥居とお地蔵さん?があった。真新しい木の階段をしばらく急登すると、小さな社があって、そこでぷっつり道は消えていた。えっ…。どこにも道は無かった。ここは登山口では無かった。いきなりの大失敗。
車に戻り、もしやと思いながら昨夜通過した、路肩に看板が立っていた地点まで戻る。そこには志賀高原自然探勝路の看板と、少し薮っぽい道があった。岩菅山登山口の標識はここにも無い。看板の説明では岩菅山に向かってルートが描かれていなかった。違うのかなここも?

一ノ瀬まで登山口らしい入口を探しながら再度車で下ったが、ここ以外にそれらしい所は無いようだった。で、また急な木の階段をぐんぐん上っていくと、どんどん見えている岩菅山は背後に遠ざかって行くのだった。これもやっぱり違う、このままでは向こうのスキー場に行ってしまうよ。
そんなわけで、とんでもない間違いを2回もして、6時出発の筈がすでに6時半になってしまった。車で三度一ノ瀬まで引き返す。あろうことか…。間違えた地点から一ノ瀬側に500㍍ほど下った所に車が一台停まっていたので、よくよく見るとそこに木々の枝が隠し気味に「岩菅山登山口」のりっぱな標柱があるのだった。ということで、今回は2回も大失敗をしてしまった。この時間ロスは痛い…。

6時40分に登山口に入る。笹の切り開きをしばらく登ると一ノ瀬から用水沿いに上ってきている道に合流した。この掘割の様な用水路沿いの道には見覚えがあった。22年前岩菅から下ってきて、この用水沿いにたんたんと一ノ瀬の旅館街(当時は旅館だったなあ、今はスキーロッジ)まで辿った記憶は鮮明だった。この用水はアライタ沢の取水口から下の一ノ瀬まで延びて水道水になっているのだ。用水沿いの道の周囲は「水源のため立ち入り禁止」の看板があって柵が巡らされていた。しばらく用水沿いを進み、行く手高く岩菅山が見えてきた。背後にはスキー場が放射状に傷を作った焼額山が見え、小さな沢を横切って少し進むとアライタ沢に出た。

用水の取水口脇を木橋で渡り、いよいよここからが登りになる。『やんごとないお方が登山された遺構』の丸太階段が、ここから延々と「のっきり」まで続くのだった。右手に東館山のロープウェイ駅の建物が見えてくると間もなく「のっきり(岩菅鞍部)」なのだが、ここで後発の白髪交じりのハイカーさんが背後からずんずん迫ってきたので道を譲った。この方は軽装で足取りも軽く、ぼくがのっきりから岩菅の急坂をあえいでいたら、もう下ってきたのだ。明らかに「ハシゴハイカー」なのだった。「何とか名山巡りの巡礼者」か?風のように次の山に向かったようだ。

のっきりから岩菅への登りは急だが、上信国境の山々が朝日を背後にしてシルエットで浮かび上がっていた。やはり、群馬県側は雲に埋まり、雲海が赤石山に迫って鞍部から滝雲が下っている。抜けるような青空に笹と岩のコントラストを見せる岩菅山は美しく、崇高だった。8時40分に岩菅山頂着。おそらく登山口に停めてあった車の主と思われる仲の良さそうな熟年ご夫婦だけが山頂にいた。昔登ったときと同じ様に頂上小屋がそこにあった。10月下旬としては今日も暑いくらいの陽射しがここには満ちていた。ご夫婦は先に出発し、裏岩菅に向かっていった。

岩菅山頂からは、東に広闊な眺めがあった。西側は焼額山の背後に灰色の雲の薄いベールが広がり、その向こうにあるはずの北信五岳や北アルプスの眺めを隠していた。
これから向かう裏岩菅はシラビソのわい樹に隠れてここから良く見えないが、それに続く今日の目的地「烏帽子」は緑と赤茶のだんだら模様で幾つものコブを見せている。明るい緑は笹、濃い緑はシラビソ、そして赤茶は多雪山地にいつまでも残る雪田跡の草地が枯れた色合いだった。
岩菅から烏帽子に続く山並みは東側に豪快な断崖がある。西側はびっしりとシラビソに覆われて、なだらかに志賀高原に繋がっている典型的な非対称山地だ。雪崩に削られた山肌は急峻で、青みがかった岩壁は帯状に繋がっていた。だから東面の景観が軍艦なのだった。

おむすびを食べてしばし休憩。日曜日なのに、200名山なのに、こんなに良い天気なのに、今のここは静かだった。小春日和というよりも少し暑い、晩秋の山頂には風もなく贅沢な静寂が満ちている。

8時59分に一等三角点の頭をなでて出発。熟年ご夫婦が点になって見えている裏岩菅に続く稜線を進む。一旦急な草地を下り、後は快適な緩いプロムナードコースでそのまま裏岩菅まで幅広に刈り払われた笹の切り開き道が続いている。6月に登った「ダン沢の頭・大高山」辺りと同じで、一ノ瀬の旅館組合がこのルートを整備しているようだが、頭が下がる思いだ。秘境の山だけに、なるべく困難な薮山のままにしておいて欲しいという、別の気持も多少はあるが、この切り開きがなければ到底ぼくが日帰りピストンなんかできる山ではないのだから…素直にありがたいと思う。それにしても先週登った苗場山や、鳥甲山が向かいに浮かび、内緒にしておきたいような素晴らしさ。そういった気持は裏岩菅から先、烏帽子付近に至ってクライマックスだった。烏帽子の稜線は本当に秘密にしておきたい場所。ここから眺めた裏岩菅山のダイナミックな山容も忘れられないだろう。

9時41分に裏岩菅到着。写真を撮るのが忙しく、歩くペースは落ちるばかり。予定の時間を大分オーバーしている。先行した熟年ご夫婦は山頂の少し先で休んでいた。結局、このご夫婦もここまでで、これから烏帽子までは全く独り占めの山になった。

9時57分裏岩菅から、いよいよ念願の烏帽子に向けて転げ落ちるような下りを一気に進む。裏岩菅から烏帽子までは、一度急に下ってからなだらかな稜線が続くが、そこはシラビソの樹林帯になっている、シラビソに囲まれた小さな湿原もあった。縞枯山や奥日光の念仏平辺りと同じ、枯れたシラビソが白骨の様にアクセントを付けて、深山の雰囲気があるが、時々見える志賀高原側は案外近くスキー場の建物等が目に入ってやや興を削ぐのだった。

烏帽子までの間には幾つかの小さなコブがある。中岳と名付けられた岩峰は周囲とは異質な雰囲気。前衛の峻峰は直登だが、次の本峰は東側の岩壁(階段状で容易)を攀じる、そこには黄ペンキで「切明↑」の文字があった。これがなければしばしルートを失う所。中岳山頂にもダン沢の頭辺りにあった路程標識があり、岩菅や切明までの距離とコースタイムが記されていた。「ココハ中岳」の古い標識もある。振り返る裏岩菅は釣り鐘を伏せた様な形で急峻な東岩壁には滝も懸かり、想像以上の豪快な山容には目を見張る。

中岳を下ると、後はもう緩い上下でシラビソに囲まれた眺めのない一番高い地点の少し先が笹原になって、そこが三等三角点のある山頂だった。念願だった烏帽子岳山頂に11時26分に到着。人の気配もない奥深い静寂な別天地だった。直ぐ向かいに鳥甲山と頂上の湿原もそれと分かる平頂の苗場山があった。魚野川を挟んだ向かいに大高山が大きく、白砂山がラクダのコブ状に高い。佐武流山は大きな山容をもたげ、その向こうに谷川連峰が延びていた。風もないぽかぽか陽気で、ぼくだけの最高の休み場だった。早速湯を沸かし、ラーメンを食べる。見飽きない眺めを楽しみ、大休止。

12時14分、烏帽子山頂を後に引き返す。裏岩菅の登り返しはややきつかったが、2時に裏岩菅まで戻ってきた。帰りものんびり写真を撮りながらの歩きで時間が掛かってしまった。裏岩菅山頂で一人のハイカーに会うが、登山口に下るまでに会った人はそれだけ。日曜としては意外なほど人が少ないのだった。
午後遅くから曇りになる予報だったが、山を下るまで晴れていた。のっきりからアライタ沢に下る途中から振り返る岩菅山は、青空を背景に伸びやかに天を突いていた。

4時30分に登山口に戻ってくる。予定の時間を大分オーバーしてしまったから、志賀高原で温泉に入るのは諦めた。そのまま草津白根ルートを下って草津を経由し、吾妻町の岩櫃城温泉(建物がお城だ!)に寄って汗を流した。入浴料が400円と安くて、なかなか良い温泉でした。夕飯を食べ、グッドタイミングに小雨が降り出した帰路についた。


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2 コメント

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Unknown (Toraron)
2006-10-25 20:34:10
こんばんは。お久しぶりです。

私もこの烏帽子岳はとても気になる山でして、その理由はあさぎまだらさんと同様、佐武流山へ向かう途中の林道から見上げた姿があまりにも魅力的だったからです。いつかは登ってみたいと思っていましたが、ネットで検索してもなかなかこの烏帽子岳は見つからず、藪がヒドイのかな?と思って何となく先延ばしにしていたところ、先を越されてしまいました。(笑)

私も是非登ってみたい!そして裏岩菅の豪快な眺めを楽しみたいです。
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秘密にしておきたい… (あさぎまだら)
2006-10-26 00:08:53
Toraronさんお久しぶりです。

そうです。佐武流に向かう林道から仰ぐ烏帽子は、誰が見ても畏敬を憶えるような見事な山ですよね。



ところが、登ってみたらその山頂は天上の別天地みたいな所でした。烏帽子から見る裏岩菅はちょっと日本の山では無いような雰囲気だし、ヨーロッパアルプスの前衛峰みたい…。近世ヨーロッパの風景画で良く見るような光景です。



ホントニ秘密にしておきたいトコロダナ。

日帰りピストンで充分楽しめますから、ぜひ行ってみて下さい。
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