今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・池口岳

2009年07月23日 | 山登りの記録 2009
平成21年7月20日(月)
 利検沢の頭1,902m 池口岳2,392m(北峰)

 3連休に1日夏休みを+して4連休になった。昨年登れなかった南アの蝙蝠岳へ行こうと計画していた。ところが前日になって地元大鹿村のHPを確認したところ、コースとして予定していた鳥倉林道が工事で不通とのこと、三伏峠に登るクラシックルートの塩川からの道だととても日帰りは不可能なので、延期にするしかない。残念だが仕方ない。それでは何処にしようか?候補はいくらでもあるが…。方面としては南ア周辺かな?

 池口岳が浮かんだ。数年来候補に入れていた山の一つで、昨年登った奥茶臼山や中央アルプスの稜線からもキレイな双耳峰が目を惹いた。さて、池口岳の登山口は旧南信濃村(現飯田市)で家から300㌔もある。6時間近くかかるから、前日の夕方には家を出ないと…。直前の天気予報が変わって、月曜だけしか晴れ間はないという。日曜は曇りがちで蒸し暑かった。

 日曜の夕方5時に家を出た。連休中と言うことで、道は混んでいた。内山峠を越えて佐久で夕食を食べ、麦草・杖突と峠を越え、通い慣れた高遠・長谷と進んで大鹿に向かうと分杭峠の手前に通行止めの看板があり、落石で上村には行けないとある(ええーっ)。大回りになってしまうが仕方ない、駒ヶ根に出てR153を経由して飯田から矢筈トンネルを抜けるしかない。こういう時はナビが役立つ。

 矢筈トンネル(三遠南信自動車道:これっていつ開通するんだろう?)を抜けて旧上村から旧南信濃村に入り、南信濃の中心和田集落手前で『池口岳登山口』の標識に従って左折、ジグザグに上ると最後の池口から、開いたゲートを通過して案内に従い池口岳登山道の開設者遠山さんのやや路面が荒れた私設林道を上り詰め、大きくカーブするところにあった仮設トイレの所が登山口であった。午前0時を回ってしまった。

 池口岳は故遠山要氏が個人的に登山道を開削し、加加森山までの道を開いたのであるが、開設当初は官と一悶着あったそうだ。しかし、今ではガイドブックにも掲載され、遠山氏の偉業を称える文章まで載っている。自然保護と開発は難しい問題も多いが、実際に今回登った感想としては、道が拓かれたとはいえこれだけの健脚コースで、その上ルート上に避難小屋すらない現状で、登山者もそう多くはないから影響は少ないと思う。200名山になっているらしいということのみが、懸念材料か?何とか名山は、そうしたお飾りだけを目的に登ろうと思う人がいるわけで、「池口岳に登りたい」という人ばかりじゃないというのが少し問題だろうが…。

 仮設トイレの先にベンチと手書きの案内看板があり、直ぐ上に指さす形で指し示す登山口が林道から上っていた。仮設トイレ前の駐車スペースに車を停めて直ぐ仮眠することにした。加加森山までピストンすることにしていたので、4時には出発したい。アラームは3時半にセットした。空は天の川がくっきり見える程の星空!

 3時半にアラームで目覚める。ちょっと暑くて寝苦しく、シュラフをはいでいたら今度は寒くなって一度目が覚めた。少し寝たりないが、支度をはじめた。パンを食べていたら、車が一台やってきた。やはり、200名山ということで、休日に全く人がいないことは無いのだろうが…。4時丁度にヘッドランプを点けて出発する。何となく空は明るくなり始めているが、まだ暗い。指で指し示す丸太階段から登山道に入る。『熊出没注意』の看板がある。鈴を鳴らすようにと書いてある。もちろん鈴は鳴らしているが、その音よりむしろヘッデンの明かりの方が熊よけになるだろう。

 緩く植林された道を上っていく。時々草が被ったところもあるが、良く踏まれて歩きやすい。しばらくすると、植林された木々に食害防止用かテープがぐるぐる巻かれたものが目に付く。このぐるぐるは鳥倉口三伏峠登山道の豊口山付近でも目に付いた。先週登った白峰南嶺辺りもシカによるシラビソの『樹皮むき』が目立った。下草が伸びないくらいシカの生息密度が高いのは、南アルプスのほぼ全域だろう。南アルプスのみならず、どこの山もシカだらけ…ですが。

 緩い上下をして、ややきつい登りを終えると『面切平』というやや平坦な落葉松の植林帯を4時56分に通過。少し明るくなって足元も良く見えるようになったのでヘッデンをしまう。その後は次第に登りがきつくなってくる。何度か平坦地を過ぎて明るくなったすがすがしい登山道を上り続ける。樹間から恵那山が見え、対岸の尾根に下栗の高地集落が見えた。

 黒薙と名付けられた南に大きく浸食された崩壊斜面手前に1,837.5mの三角点があった。後続の麦わら帽子のおじさん(朝やってきた車の主)が快調に飛ばしてきて道を譲る。この方はおそろしく健脚で、ぼくが上部の岩場を通過しているときに、もう南峰まで往復して引き返してこられた。歳は上だけど…カモシカみたいなおじさんでした。
 6時29分に黒薙通過。黒薙からは、すっくと立ち上がった池口岳の双耳峰が姿を現し、南には鶏冠山など池口岳以南の深南部の山並みが見える。池口岳はまだ遙かに高い。

 黒薙から上り下りをして、7時21分に利検沢の頭という看板がある1,902m標高点を通過する。やや尾根は南に折れ、ザラ薙の頭まではきつい登りが続く。木の間越に聖岳や兎岳など南ア主稜線の山々がシルエットになって見えてくる。奥茶臼やしらびそ高原方面も間近に望まれる。この頃になると朝の割には気温が高くて風も無く、汗が吹き出してくる。この先流れる汗をぬぐいぬぐいのスローペースになってしまった。

 ザラ薙の頭からは、また展望が開ける。池口岳は近づくが、ますます高く聳えて見える。ザラ薙の崩壊斜面の縁を慎重に進んで、シラビソに囲まれた平坦な草地がザラナギ平の幕営地で7時59分に通過。ザラ薙の北側急斜面を下った下に水場があるらしいが、相当に下ったところだろう。登山口の手書き看板には下り15分、上り30分とあったが、ガイドブックには往復1時間半!!を要するとある。

 1983m標高点付近から池口岳と鶏冠山の鞍部にあたる笹の平が良く見える。その上に丸い鶏冠山北峰が直ぐそこという近さ。9時2分になった。汗をぬぐいぬぐい、きつい登りに息が切れ、ペースは遅い。登りだしてから5時間を過ぎた。小さな薙が時々現れ、登り口の池口集落辺りが遙か下に見えている。2156m標高点からは、岩場の混じるコメツガ林の上り下りになる。トラロープが付けてあるが、無くても問題ない程度。最初の岩場を下ったら、麦わら帽子のおじさんがもう下ってきた…(南峰の方が眺めが良いとのことでした)。次の岩場にも白く退色したトラロープが垂れていたが、こっちはもっと要らない程度。エゾハルゼミが鳴いている。まだいるんだね。

 北の樹間から手の届く近さで、ずんぐりと丸っこい加加森山が見えてきた。加加森山は日光方面から見た皇海山にそっくり。その左手には聖岳や兎岳の主稜線が高い。もう池口岳は見えない。あえぎあえぎ、ふと見ると、目の前の木に真新しい丸い木製プレート。『加々森←→池口岳 ジャンクション』の文字が…ああ。9時33分になっている。ガイドブックでは、登山口からここまでのコースタイムは6時間20分とある。5時間33分掛かったのは決して遅くはないのだろうが、ネットで見る記録は5時間前後で池口北峰まで行っているものを見るから、決して早くはない。まして、むぎわらのおじさんは4時間くらいで南峰まで登ったようだ。いるんだねこういう人が…ふー。

 当然、当初の予定時間をオーバーしているとはいえ、まだ加加森山は諦めていない。登っている尾根から眺めた加加森山は、池口岳よりもむしろ手の届く近さに見えた。そのままジャンクションから加加森山へのルートに進む。しっかり踏まれて問題なさそうだ。しばらく行くと、下りになって、目の前にパノラマが広がった。ここからが今日一番の眺めだった。(もし、これを見て池口岳のみ登ろうという人がいたら、展望が一番なのはこのポイントだから、ぜひ加加森方面に少し進んで見ることをオススメします)しかし、ここから加加森山を見て…。今日は無理だと座り込んでしまった。

 稜線は加加森山に弧を描くように向かっている。鞍部まで相当下るようだ。その上、登っている尾根から眺めたのとは違って、それはそれは遠く見えたのだった。あそこまで1時間半は掛かるだろう。往復で3時間。池口岳南峰往復が1時間で、下りが4時間として…あと8時間は見ておかないとダメだろう。休まないで歩いても、5時近くに下山。登りで相当に暑くてへばったので、こりゃだめだと思った。
暑さに弱いのは冬の生まれの所為?そんなことはどーでもいいけど。持ってきた水はあと半分しかない。まあ、池口岳はガイドブックではテント持参で1泊2日が基本らしい。日帰りピストンでは池口南峰まで登り7時間半、下り5時間25分というのがコースタイムだから、日帰りで池口岳という自体が健脚向きなのだが…。

 なんと素晴らしい眺めだろう。目の前に皇海山そっくりの加加森山が横たわり、その右手にはやや高く光岳とイザルガ岳がどっしりと大きい。有名な光石が黒々とした鯨の巨体に白い目を二つ付けた様に見えている。加加森山の左手には一段と高い聖岳・兎岳などの南ア主稜線の山々がうっすらと青かった。光岳の東には、池口岳と競う整った双耳峰信濃俣も近かった。これらの山々はぼくにとって憧れの、南ア最南部、そして深南部の山々なのだった。そこに座って、何となくこれで満足の気分。

 パノラマを楽しみながら、無理して加加森山まで行かなくても、今日は池口南峰まででいいやと思った。カレーパンを食べて、写真を撮って少しのんびり。

 加加森は諦めたので、一休みのあと、池口岳に向かう。ジャンクションからしばらく急な登りで、一度草付きの平坦地を経由し更に上に道は上る。振り向けば、登ってきた池口集落からの長大な尾根が延々と伸びて見える。随分遠いアプローチなのだ。光岳とイザルガ岳を真横から見られる良いポイントもあった。V字の凄絶なルンゼをのぞき込んで、池口岳の西面は総じて薙ぎや急峻な岩場が多い。2段目の草付き平坦地から、気持ちの良い下草のある登りを少しで『大井川源流部原生自然環境保全地域』という地図付きの大きな看板が立つ北峰に10時25分に遅ればせながら到着した。御料局三角点と『池口岳』の小さな山名板があった。

 北峰はそのまま素通りし、南峰に向かう。北峰の方がやや高いが、南峰には地理院の三角点がある。北峰と南峰の鞍部は西側に大きな崩壊薙ぎがあり、薙ぎの縁を絡めて下って上り返す。信濃俣が間近、その右に大根沢山と大無間山が見える。先週登った青笹山方面の反対側から見ているわけだ。見る見る、池口岳北峰はそそり立つ鋭峰になる。南峰の山頂部は低いササの下生えに疎らにシラビソがあり、枯れた木々も目立つ。二重山稜の窪を登って、11時6分にようやく池口岳南峰に着いた。木々の間から少し眺めがあるくらいで、山頂は樹林に囲まれている。展望は途中の鞍部付近の方が良かった。山頂の南側のシラビソは枯れているものが多い。その枯れた木の一つに池口岳(南峰2,375.6m)の木製プレートが付いていた。三等三角点がササの中に頭を出している。

 今日はここまで、今ここには誰もいない。連休の晴れ日でも人の少ない山なのだった。静かな山頂を独り占めして、湯を沸かしカップラーメンとパンを食べた。晴れたり曇ったりだが、雨が降りそうな気配は今のところ無い。朝方暑かったが、曇りがちになるにつれ暑さは少し内場になった。ホシガラスが枝から枝に飛び移りながらガーガー鳴いている。ぼくの縄張りだよ、とでも言ってるのかな?と思ったら。すぐそこにシカの親子連れが現れた。母ジカは、じっとしているぼくに全く気がつかなかった様で、ほんの4,5㍍の所まで来た。そして、急に気づいたのだが、そこにはしばし葛藤があったのか、何事も無いようなそぶりでスキップをするようにゆっくり跳ねて下の方のササに消えた。後を追うようにスキップしていった一頭の鹿の子まだらが目立つ仔ジカは作り物のぬいぐるみの様でかわいらしかった。あーあ行っちゃった。

 時折吹く風は心地よい。しばし、静寂な山頂で憩うのだった。がつがつせかせか登るばかりじゃつまらない。こうして真に解放された時間こそ、ぼくが求めている山登りの楽しさだもの。随分のんびり休憩し、11時49分に引き返す。少しガスが去来するようになったが、その雲の固まりが行きすぎてしまうと、また晴れ間が広がる。

 やや眺めが悪くなったが、その分暑さが和らいだ。北峰に上り返すと、山頂に1人ハイカーが休んでいた。この方と、下りにもう1人会ったから、むぎわらのおじさんを入れて3人、ぼくを混ぜてこの日に池口岳に登ったのは4人だけだった。

 ジャンクションもそのまま通過し、後はひたすら下りに下る。と言いたいところだが、ザラ薙以降は上ったり下ったり、延々と長いアプローチはいつ果てるともしれない…非常に下りも長く感じた。行きには気づかなかったが、ギンリョウソウがそこいら中に見られた。

 下るにつれてますます暑さが戻ってくる。1500㍍以下になると、下りなのに汗びっしょりになって、へろへろになった。へろへろになりながらも、何故か脚はハイペースでずんずん下って下った。

 4時13分にようやく登山口に降りたつ。当然むぎわらのおじさんの車はなく、ぼくの車の他には途中であった2人が乗ってきた2台の車が停まっていた。登山口付近は蒸し暑さが満ちて、ニイニイゼミの鳴き声がむしろ涼しげに感じた。車で着替えていると雨が降り出してきた。幸い雨に濡れずにすんだ。

 車で和田集落に出て、光岳の時以来の『かぐらの湯』で汗を流し疲れを癒した。かぐらの湯は日帰り温泉としては上等の部類だろう。ここなら何回来ても良いかなと思う。ほんのり硫黄の臭いがする温泉なのだった。

 明日も休みだが、お天気は良く無さそうだし、ゆっくり帰ることにした。駒ヶ根で名物のソースカツ丼を食べ(ぼくは地元群馬のソースカツ丼の方が断然美味しいと思います)、300㌔を戻ったのだった。何故か道は空いていて、一般道でも11時過ぎに家に着いた。加加森山は残念だったが、池口岳だけでも充分満足の山だった。

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2 コメント

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南アの南部って遠い山が多いですね (ノラ)
2009-07-23 21:58:03
あさぎまだらさん こんばんは。先週の青笹山といい,池口岳といい,ほんとに遠いですね。途中に避難小屋が欲しいですね。でも小屋がないから,来る人も少ないんでしょうね。眺めはよさそうな尾根のようです。南アの南部って山屋の究極の憧れの場所じゃないでしょうか?北アのような小屋がないし,ちょっとやそっとで行けるところでないですね。あさぎまだらさんの記録を読んで楽しむことにします。
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深い山 (あさぎまだら)
2009-07-23 22:28:42
ノラさんこんばんは。
おっしゃるとおり、南アルプスの南部は今でも深い山々ですね。南アでも北部は北アに近いくらい小屋もあって取り付きやすいですが、塩見以南はまだ別世界です。昔は食事付きの小屋なんてありませんでしたが、今では食事付きが普通になっています。それが少し違うでしょうか?深南部は入りやすくなったとはいえ、遙かな山であることには変わりませんね。大無間とか今回の池口岳はまだ入り口です。今後は日帰り不可能エリアになりますね。
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