Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ハクビシンのこと

2005-11-19 00:08:09 | 自然から学ぶ
 ハクビシンの生息域が長野県内で広がっているという新聞記事があった。長野市でも住宅侵入による被害が増えているという。ハクビシンはジャコウネコ科の動物で、体長が50~65cm、尾長が60cmほどのもので、白鼻芯と漢字が当てられているように、白い鼻筋と目の下の白い斑紋が特徴的である。分布域は、インドのカシミール地方、中国、台湾、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島、日本であって、山地や丘陵地帯の雑木林 に住む。夜行性であって、単独で木の上などで過ごし、果実・昆虫等が主食という。鋭い爪は、猫の爪のごとく出し入れができ、後足の第3指と第4指の一部がくっついていて、物をつかむ力が強く、木登りが上手という。日本古来の動物なのか、外国からの移入によるものなのかは、よくわかっていないが、移入種であるという説の方が有力である。日本では昭和18年に静岡県浜名郡で捕獲されたのが最初の記録といわれるが、それ以前からハクモクテンとかタイワンタヌキ、あるいはライジュウなどといって飼育されていたともいう。
 実は長野県でも天龍村など県境に近い地域で確認され、たいへん珍しい動物とされていたため、昭和50年に県の天然記念物に指定された。山梨県でも昭和23年に県天然記念物に指定されたという。その後農作物への被害が相次ぎ、害獣として扱われるようになり、生息数の増加ということもあって、平成7年に天然記念物から除外された。昭和50年に指定が始まって、平成7年に解除ということは、約20年間で解除に至るほど生息数が増えていったということになる。そして、今では北部の長野市で被害が出るまでに至った。
 平成15年に伊那谷でわたしがかかわった生態系調査において、聞き取りを行なった際にも、たくさんのハクビシンに関する言葉を聞くことができた。すべて下伊那郡高森町山吹で聞いた話であるが、次のようなものがあった。

①キビを食べにハクビシンがよく来るが今年はこなかった。50年ほど前ニワトリを飼っていたら、ハクビシンに捕られたことがあった。(下町)
②今年は作らなかったが、トウモロコシを作るとハクビシンに食べられた。
③ハクビシンが入母屋の隙間から入って住んでいた。ハクビシンは15、6年前から増えてきた。30年くらい前には平岡あたりにいた。ここらにはいなかった。広域農道で去年二頭死体を見た。ハクビシンは電線を伝っていく。ビニールハウスのてっぺんに糞があった。春先の夜つがいでいたハクビシンが枝を伝って屋根に入ってしまった。7月ころ追っ払ったら枝から伝って逃げていってしまった。(中島)
④トウモロコシを明日とろうとしているとハクビシンに食べられてしまう。(中島)
⑤最近豚小屋を壊したらハクビシンの死体があった。(中島)
⑥以前は学校の脇にある桃をハクビシンに食べられたが、巨峰をまわりで作るようになったら、あまり食べられなくなった。(駒場)

 トウモロコシを作るとハクビシンに採られるという言葉は、上記以外でもたくさん聞くことができた。ニワトリをハクビシンが採るという話は、わたしの実家でも聞いたことがあった。また、電線を渡って家に入るという話もこのほかにも聞いた。そして、天井裏に住み着き、長期になると糞がたまり、天上が落ちるという話もあった。上記の中で面白い話は、桃のときは食べられたが、巨峰が増えてきたらあまり食べられなくなったという話である。人が美味しいと思うものは、意外に動物たちも美味しいと思うもので、時には憎らしいこともある。今年妻の実家でサツマイモが何者かに盗られた。それも芋干し用のおいしくない芋には手をつけず、普通の食用の芋だけを盗っていくのである。そんな見方をすると、桃と巨峰、どちらが美味しいのか、好みはあるが、巨峰にはハクビシンが嫌う何かがあるのだろうか。そういえば中国ではハクビシンが食用とされるという。SARSウイルスの感染源などといわれたが、その後ハクビシンも昔のように、あまり知られない動物に戻ったように思う。なにしろ夜行性であるということから、身近でたくさん被害の話を聞いても、実際その姿を見るということは意外に少ない。
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