入社3年目、25歳の若い頃の上司に大いに刺激を受け、
「T氏の語録」として記事を書いた。
その中でも好きな言葉が、
・作業はシステム、仕事は心
・クールヘッド、ウォームハート、ストロングボディ
だった。
2つ目の言葉は、ある有名な学者の言葉と聞いていたように思っていたところ、
有名な経済学者の
アルフレッド・マーシャルだということが雑誌を読んでいて判明した。
「ストロングボディ」(頑強な身体)は上司が追加したのだろうか?
従来から弱かった「クールヘッド」要素に加え、
メタボ体型の現在となっては、「ウォームハート」だけは
大事に保ち続けたい。
以下は、参考までに調べたことをメモしておきます。
======================
■冷静さと温かさ――放送大学教授・林 敏彦
【「やさしい経済学―名著と現代」 2007.03.27日経新聞(朝刊)】
近代経済学の形成に大きな影響を与えた英国の巨人、アルフレッド・マーシャル(1842-1924年)を語るには、「クールヘッド」「ウオームハート」という彼の言葉からはじめねばならない。
この言葉はケンブリッジ大教授に選出された彼の、「経済学の現状」と題する就任公開講義(1885年)に登場する。ここでマーシャルは経済学研究の重要性、緊急性を強調したうえで、先人の業績、とくに経験に重きを置くドイツ歴史学派に敬意を払いつつ、自らの経済学者としての姿勢を開示した。
門下のケインズが後年著した『人物評伝』(大野忠男訳)によると、そのむすびでマーシャルは、基本姿勢のひとつとして「ケンブリッジが世の中に送り出す、冷静な頭脳と温かい心情を持ち、彼らを取りまく社会的苦悩と取り組むためにその最善の能力の少なくとも一部を進んで捧(ささ)げようと志し、……そういう人たちの数をいっそう多くしようと、乏しい才能と限られた力とをもって私にできうるだけの事をする」と強調している。
冷静な頭脳と温かい心情の持ち主を育てたい、と述べたわけだが、彼はヴィクトリア朝大英帝国のエリートたるケンブリッジ大生に、いわゆるノブレスオブリージュ(高い身分に伴う義務)を説いたとも言えよう。そして、「社会的苦悩」を語る裏には、理論の現実への適用を重視する彼の哲学と、人々の生活水準の向上にとどまらず、人間と経済社会そのものの進歩に対する彼の切実な希求があり、この主旋律は主著『経済学原理』をも貫いた。
講演におけるこのメッセージは、実は政治経済学への偏見が根強いケンブリッジの学者社会にも向けられていた。哲学など伝統的学問と比べれば歴史も浅く低俗なものとの見方がそこでは支配的だったからだ。新しい理論的発展を当時の貧困問題の克服などに役立てようとするマーシャルの姿勢にも彼らは総じて冷たかった。
ピグーやケインズらを育てのちにケンブリッジ学派(狭義の新古典派)の祖とよばれるマーシャルの闘いは、経済学の地位向上への闘いでもあった。そひて、その基本姿勢もまた、クールヘッド、ウオームハートだったのである。
■1885年2月24日、就任講演「経済学の現状(The present position of economics)」
It will be my most cherished ambition, my highest endeavour to do what with my poor ability and my limited strength I may, to increase the numbers of those, whom Cambridge, the great mother of strong men, sends out into the world with cool heads but warm hearts, willing to give some at least of their best powers to grappling with the social suffering around them; resolved not to rest content till they have done what in them lies to discover how far it is possible to open up to all the material means of a refined and noble life.
(The present position of economics : an inaugural lecture given in the Senate House at Cambridge, 24 February, 1885 / by Alfred Marshall. London : Macmillan and Co., 1885, p.57)
私がもっとも深く心に期しておりますことは、またそのためにもっとも大きな努力を払いたいと思っておりますことは、すぐれた人々の母でありますケンブリッジで学ぶ人々の間から、ますます多くの人々が、私たちの周りの社会的な苦難を打開するために、私たちの持ちます最良の力の少なくとも一部を喜んで提供し、さらにまた、洗練された高貴な生活に必要な物的手段をすべての人が利用できるようにすることがどこまで可能であるかを見出すために、私たちに出来ますことをなし終えるまでは安んずることをしないと決意して、冷静な頭脳をもって、しかし暖かい心情をもって、学窓を出て行きますように、私の才能は貧しく、力も限られてはおりますが、私にできるかぎりのことをしたいという願いに外なりません。
(「経済学の現状」『経済論文集』アルフレッド・マーシャル [著] ; 永沢越郎訳. 東京 : 岩波ブックサービスセンター (製作), 1991.12.10, p.31)