登記もろもろ覚え書

司法書士の覚え書き

公正証書遺言のすすめ

2011-08-18 | Weblog
Ⅰ 遺言の趣旨目的 (私見)

遺言者自らが自分の残した財産の帰属等をあらかじめ決めておくことにより、
死後の法律関係を支配し、また後に起こりうる相続を巡る争いを防止しようとする。
ただし 遺留分の制限がある


Ⅱ 遺言がない場合の相続

民法の規定に従って、相続の権利のある者が権利義務を承継する

民法は相続分の割合を定めているが(民900)
実際は実情に即して推定相続人全員で遺産分割の協議をして分け方を決定するのが大半。
ここでの遺産分割協議は、不在者、失踪者等を含め全員の参加が必要である。

協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てる。

調停が不成立に終わったときは、自動的に審判手続きが開始され
家事審判官が諸々の事情を考慮して審判をする。


Ⅲ 遺言の必要性

以上のように、遺産分割協議が円満に行われないであろうと推測される場合や
推定相続人以外の人に財産を譲ろうとした場合などに、遺言書の作成が特に必要になってくる。



日本公証人連合会(http://www.koshonin.gr.jp/yu.html)によると

①夫婦に子供がいない場合

夫婦に子供がいない(親もいない)場合は、配偶者と兄弟が共同相続人になる。
遺言をしておけば、兄弟には遺留分がないので確実に配偶者に遺産を残せる。



②再婚をしたため先妻の子がいる場合

③長男の嫁に財産を分けてあげたい場合

長男が既に死亡している場合、長男の嫁には相続権はない。
したがっていくら同居していたり生活の面倒をみたという事実があっても
遺言がなければ嫁が遺産を承継することはできない。


④内縁の妻に財産を残してあげたい

婚姻届を提出していないいわゆる内縁の妻は配偶者とは認められないので
遺言がなければ夫の財産を承継することができない。


⑤事業等の財産的基礎を特定の人に承継させたい


⑥遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて,具体的妥当性のある形で財産承継をさせたい場合
・不動産は妻に相続させ、現金は長男に相続させる・・
・かわいい孫に遺贈したい・・
・世話になっている親孝行の子に多く相続させたい・・

⑦相続人が全くいない場合

相続人がいない場合は原則として遺産は国庫に帰属する



Ⅳ 遺言の方式

一般に利用されている方式として自筆証遺言と公正証書遺言がある。

【自筆証書遺言】

遺言者が,紙に,自ら,遺言の内容の全文を書き,かつ,日付,氏名を書いて,署名の下に押印することにより作成する遺言(民968Ⅰ)


誰にも知られずにいつでも自由に作成できる反面、以下のデメリットがある。

・内容に不備があると遺言を執行できない
・方式に不備があると無効である
・不利益相続人による破棄、改ざんの危険
・遺言書の紛失
・家庭裁判所の検認の必要性



【公正証書遺言】

遺言者が,公証人の面前で,遺言の内容を口授し,それに基づいて,公証人が,遺言者の真意を正確に文章にまとめ,公正証書遺言として作成する(民969)


公正証書遺言は自筆証書遺言のデメリットを補う。

・内容は公証人がチェック
・方式の不備により遺言が無効になることは少ない
・原本は公証人役場に保管されるので、破棄や改ざん、紛失の心配はない
・家庭裁判所による検認の手続は不要


一方で、最低公証人と証人二人の関与は必要になる点で秘匿性が失われ、
またその遺言書の作成に費用がかかるということがデメリットとなる。




Ⅴ 公正証書遺言のすすめ

遺言書の作成が、相続発生後の相続人間の争いを防止する目的でなされるとするならば、その遺言書そのものが原因となる争いが起きないように配慮することも必要である。その意味で、公正証書遺言は自筆証書遺言に対して大きなアドバンテージがあるといえる。

遺言の有効性を巡る争いについては、①遺言書の作成者を争うものと、②遺言者の遺言能力を争うものが多いという。
まず遺言書の作成者は誰か(遺言の自書性)、という問題については、遺言者が他の誰にも関与されずに自由に作成することのできる自筆証書遺言において生じる。遺言の無効を裁判によって主張する側が、遺言書が本人の自書により作成されたものではないと主張すれば、有効を主張する側はそれが本人の自筆によるものであることを立証しなければならない。自筆証書の秘匿性から、基本的には作成者を直接証明する証拠はないのであるから、筆跡鑑定などから間接証拠を積み重ねていかなければならないことになる。
遺言能力を争う訴訟については、自筆証書遺言にも公正証書遺言にもあてはまる。ただし、遺言能力がなかったという事実は、無効を主張する側が立証しなければならないために、訴訟に踏み切るべきか判断を要する。さらにそれが公正証書遺言であれば、公証人や証人は遺言能力を肯定する有力な証拠方法でもあるわけであるから、それをも覆す有力な証拠が必要となる。