「中国の武力侵攻は台湾建国のメシア」という論説(「台湾の声」)を読んだ。
いささか皮肉な表現だが、現在台湾が置かれている状況がわかりやすく描かれている。
【論説】中国の武力侵攻は台湾建国のメシア
王 紹英
台湾と中国は今までなかった平和ムードに包まれている。上海に百万の台湾人が
住んで中国経済に貢献している。一方、台湾各地に中国人観光客グループが痰を
吐きながら闊歩している。人民解放軍が槍を磨いているのに中華民国軍はもとも
と少ない自分の牙を抜いている。戦争の気配はまったく感じられない。
しかし平和のように見えながらも「平和統一さもなければ武力行使」は中国の台
湾政策一貫したスタンスは、今も全く変わっていない。これは中国の「強硬派」
のみならず、ごくごく一般「良識」ある中国国民もそのように思っているのが驚
きである。さすがの全体主義で中華意識の国家と改めて感嘆したくなる。
中国には千枚以上のミサイルが台湾に照準を定めている。海軍も空軍の戦力は一
段と増強されている。台湾に武力を行使することは脅かしではない。中国人は武
力を行使するに何の躊躇のないのが歴史の教訓である。
中国人との会話に、職業、男女問わず、一旦台湾独立の話が課題に上るとほとん
ど顔色が豹変して、全く同じ脅かしの言葉を吐き出すようだ。
――「お前台湾人は独立を堅持するなら、われわれが武力を行使する」
これはようするに「俺のものにならなければ殺すぞ」という盗賊の発想である。
良識ある人間が口にするような言葉ではなさそうだが、中国人の良識はやはり違
うものがあると諦めるしかない。こんな理不尽なキャッチフレーズを耳にした台
湾人は恐怖よりも怒りと嫌悪感を覚えるのが通常の反応のようだ。わたしも一度
このような話に遭遇して腸を煮る思いをした。
しかし、歳の功であろうか、最近になって考えを改めた。わたしは中国人の脅威
、威圧、武力行使はすべて台湾にとっていいことになると考えるようになった。
中国の武力行使は台湾を滅びるところか、台湾を救う最大の助っ人になると私は
思うようになった。
かつて台湾独立派の指導層は中華民国が民主化したらすんなりと台湾国に脱皮し
ていくと考えていた。そう期待していた。中華民国はすなわち中国国民党の「国
家」である、中国国民党はあまりにも腐敗していたので、民主化になれば台湾人
は永遠に中国国民党・中華民国と決別することを選択すると思っていた。
ところが、独立派の期待を裏切って、中華民国の民主化は結局中華民国・台湾に
化けて延命した。中華民国の民主化で台湾独立運動が失速した。台湾人の手によ
る中華民国の民主化で反体制派が弱体化した。独立運動の目標がぼやけた。つい
に台湾独立運動は、中華民国民主化の潮流に飲みこまれた。民主化は人権的であ
り、近代的であり、文明的である。その明るさと美しさは独立運動よりもより多
くの台湾人の心を捉えた。中華民国の民主化で台湾が一夜にして文明「国家」に
変身したようになったが、台湾人は中華民国の民主化は外来政権の民主化にすぎ
ないことをすっかり見落とした。否、見ようとしなかった。
外来政権の民主化と新国家の建設はそもそも違うものである。両者の手段、心持
に共通点は少なく、むしろ大きな差異があると言うべきである。民主化はどっち
かといえば喜劇的でプリティー、独立はどっちかといえば悲劇的でアグリーと言
える。中華民国の民主化はもちろん人類史上までに見る政治的な偉業であったが
、しかし、もし台湾独立派指導層が中華民国の民主化に満足していたら、真の独
立派は最初から存在しなかったとわれわれは号泣しなければならない。いな、独
立派指導層はひたすらしかるべき時機、熟した環境が来るのを体制維持派に化け
て忍耐強く待っていると私は信じている。
中華民国の民主化が進みにつれ台湾国家が自然にできると考えるのはもはや天真
爛漫と嘲笑いされる。民主を勝ち取った台湾人はすっかり天狗になり、民主ぼけ
になった。中華民国を自分の国家と信じ込んだ。中華意識を排除し、中華民国を
スクラップする時機を逸した。中華民国の政権交代こそが台湾民主の極意と錯覚
した。かつての民主化運動、独立派の闘士が中華民国体制を維持するのを腐心し
、内紛に明け暮れた。あげくの果て、中国人が再び中華民国総統に選ばれ、台湾
化は後退し、民主化も風前の灯になった。外来政権の民主化は所詮蜃気楼にすぎ
なかった。
20年前、李登輝総統の鋭気を挫けるために台湾沖に打ち込んだ二発のミサイルで
反中感情が沸騰した。おかげで李登輝総統の人気が絶好調になった。白色テロ時
代、蒋政権の独裁と横暴に立ちあがるだけで英雄と崇められた。国民党の腐敗を
公に批判できたら、難なく国会に入れた。62年前の228事件で台湾人の反体制運動
の激流が始まった。清郷運動の反体制エリート狩りとで台湾人は中国歓迎ム
ードから目覚めた。建国運動が芽生えた。台湾の近代史を見れば、中国人の悪が
台湾人意識の源という結論に簡単に辿りつくのだ。中国人の残虐、非情行為は軟
弱の台湾人を奮起させ、団結させる最高なカンフル剤のようなものと思われる。
しかし、もはや中華民国から圧迫も、迫害も得られなくなった。民主化した中華
民国がすっかり中国人と同様に台湾人も可愛がるようになった。台湾人総統はも
ちろん台湾人を迫害しない、中国人が中華民国総統になっても恐らくかつてのよ
うな迫害を施すことはしない。この聡明な中国人総統は台湾人総統よりも腰が低
く見せるような仕草に長けている。彼は台湾人の特性を見透かしている。台湾人
は迫害されればされるほど、生き生きと反発的となっていく。懐柔してあげれば
あげるほど従順になることを心得ている。聡明な中国人総統は、前政権の要人を
苛めても台湾人には「法治」「民主」の偽りの看板を掲げ続ける。彼は決して台
湾人を目覚めさせない。彼は台湾人が「平和」「民主」の夢から目を醒めないう
ちに台湾を中国に引き渡すと企んでいると簡単に推測できる。
台湾人の民主ぼけから目を覚ませるような中国人の悪行はどこにあるのでしょう
か。どう考えても唯一の希望は中国の武力行使である。
他民族を好んで迫害する中国人と、その一方に圧迫されると生き生きと伸びる台
湾人――神様から賜った時間と空間の偶然と思われる。中国が台湾に侵攻したら
中国国民は大きな犠牲を払うのみならず、中華民国民主化に埋もれた台湾の建国
意識が蘇られ、気運が衝天の勢いで高まっていくと確信している。歴史が再び大
転換していくのだ。
中国の武力行使こそが台湾建国のメシア。天佑台湾、それは中国の侵攻から始ま
る。