澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

「ウェルナー・ミューラーの素晴らしき世界」と彼の政治小説

2012年07月21日 08時37分59秒 | 音楽・映画

 ワーナー・ミュージック・ジャパンから一昨年リリースされたCD集「ウェルナー・ミューラーの素晴らしき世界」(WQCP861-4 101曲収録)を入手、遅ればせながら聴いてみた。



 1957年、リカルド・サントスの名前で「真珠採りのタンゴ」という大ヒットを放ったウェルナー・ミューラー Werner Müller (1920-1998)が、もはや大昔の話。CD4枚組で8,400円という結構なお値段なので、それほど多くの人が購入したとは思えない。それだけに、このCD集はリリースされたこと自体に価値があるのかも知れない。

 http://www.spaceagepop.com/muller.htm

 このCD集には60頁ものブックレットが付いていて、「ウェルナー・ミューラー物語」(Biography)、「フォト・ギャラリー」などの珍しい情報が盛り込まれている。これを編集したのは、ラジオ番組で選曲をしていた大江田信(まこと)。

 「ウェルナー・ミューラー物語」の中に、次のような驚くべき記述を見つけた。

「…(ウェルナー・ミューラーは)1983年には政治スリラー小説を執筆、これが評判を呼んだことから、計4冊の著書を著しました」(p.14)

 執筆した大江田信氏には失礼だったが、私はこの信憑性を疑った。ウェルナー・ミューラーは、ドイツではありふれた名前。同姓同名の小説家と間違えたのではないかと思った。だいたい、一世を風靡した音楽家が、晩年になって「政治スリラー小説」を書くなど、途方もない話だ。

 そこで、私はドイツ人の友人にこのことを尋ねてみた。彼女からの返事は「I too found it unbelievable, but it is true」だった。著作は今や絶版だが、ネット上の中古マーケットでは、今も購入できるという。その「Gold für tausend Jahre」(千年の黄金)という本がこれ。

 
ウェルナー・ミューラー著「Gold für tausend Jahre」

 W.ミューラー本人は、戦時中、ドイツの軍楽隊に所属していて、ベルリンで連合国軍の捕虜となったという。もしかすると、ヒトラーが登場するというこの小説は、そのときの体験をベースにしているのかも知れない。

 さて、肝心の音楽だが、まず音質の良さ。彼のCDは、現在、英国Vocalion盤でリリースされているが、このリマスタリングは原音を相当加工しているので、オリジナルを知る者には、聴くに堪えない。ところが、この日本盤CDは、オリジナルに忠実なところが素晴らしい。
 一方、選曲には賞賛と疑義が混在する。コニー・スチーブンスとの共演で「タラのテーマ」「恋に寒さを忘れ」(I've got my love to keep me warm)の2曲を入れたのは、満塁ホームラン級の快挙。私より彼の音楽に詳しい友人も、この共演盤の存在を知らなかった。よくぞ発掘してくれたという感じ。

 
(コニー・スチーブンスとウェルナー・ミューラー)

 趣味が違うなあと思うのは、大江田信氏のトランペット好き。ウェルナー・ミューラー楽団には、ホルスト・フィッシャーハインツ・シャハトナーなど、腕達者のトランペッターがいて、来日公演では大いに聴衆を盛り上げた。このCD集には、CD4枚に101曲が収録されているが、トランペットをフィーチャーした曲が、20曲も収められている。それは異様なほどの高率。ところが、彼のファンの多くは、ストリングスを主体とした演奏を期待していたはずなので、かなり違和感を覚えるだろう。
 同時に、ウェルナー・ミューラーは、ポリドール専属時代にリカルド・サントス楽団名でアルバム「Holiday in Japan」を大ヒットさせた。本CDの音源となったデッカ=ロンドン(テルデック)時代においても、日本民謡、日本の歌曲などを何度も再録音している。しかし、その音源は、このCD集には全く使われていない。彼が演奏する「南部牛追い唄」を覚えているのは、私だけではないはずだ。
 また、彼が得意としたタンゴは、「真珠採り」と「ジェラシー」しか収録されていない。ラテン音楽集と銘打ったCD3には、代表作とは言えない演奏が何曲も含まれている。「ラテン+タンゴ」集にして、もっとタンゴを入れた方がよかったのかも知れない。

 全体の印象を言えば、ウェルナー・ミューラーの音楽が極めて上質だということに尽きる。ビッグバンド編成のジャズ(ベルリンRIAS放送局のダンスバンドではこのスタイルで演奏していた)は本場ものよりもスウィングしていて、ストリングスを入れた演奏では、聴き飽きることがない。
 彼のアルバムに「Strings Spectacular」「Wild Strings」という傑作がある。私としては、前者から「チゴイネルワイゼン」「熊ん蜂の飛行」、後者から「そよ風と私」を入れて欲しかった。 


「ウェルナー・ミューラーの素晴らしき世界
               (Warner Music Japan WQCP861-4)
 
《収録内容》
CD-1
1. ホリデイ・フォー・ストリングス
2. クァンド・クァンド・クァンド
3. ブルーレディに赤いバラ
4. そりすべり
5. トランペット吹きの子守唄
6. 真珠採りのタンゴ
7. ダウン・バイ・ザ・リバーサイド
8. ジェラシー
9. アリベデルチ・ローマ
10. 世界は日の出を待っている
11. あなた無しでは
12. マック・ザ・ナイフ
13. 懐かしのリスボン~リスボア・ノーヴァ
14. ラ・メール
15. トランペット・ブルース
16. グリーンスリーヴス
17. スペインの姫君
18. ローレライ
19. 美しきロスマリン
20. 恋のアランフェス
21. 黒い瞳
22. 美しく青きドナウ
23. ラデツキー行進曲
24. 愛よ永遠に
25. 喜びのシンフォニー

【演奏】
14:ホルスト・フィッシャーとウェルナー・ミューラー・オーケストラ
16:ボブ・パウエルとウェルナー・ミューラー・オーケストラ


CD-2
1. ビートでジャンプ
2. 恋は水色
3. 想い出のグリーングラス
4. アル・ディ・ラ
5. バナナ・ボート・ソング
6. バタフライ
7. タラのテーマ
8. コングラチュレーションズ
9. 愛の花咲く時
10. 恋のひとこと
11. 君の瞳に恋してる
12. クレア
13. イエスタデイ
14. ペニー・レイン
15. デイドリーム・ビリーバー
16. バラは憧れ
17. ヒット・パレード
18. 夕焼けの戦場
19. 夜空のトランペット
20. マッチメイカー
21. ジャワの夜は更けて
22. 恋に寒さを忘れ
23. オー・マイ・パパ
24. スパニッシュ・フリー
25. ラスト・ワルツ
26. この素晴らしき世界

【演奏】
1~3,5,8,11,15,16,18,25,26 ホルスト・フィッシャーとウェルナー・ミューラー・オーケストラ
6,21 ボブ・パウエルとウェルナー・ミューラー・オーケストラ
7,22 コニー・スティーヴンスとウェルナー・ミューラー・オーケストラ

CD-3
1. ペピート
2. フレネシー
3. マンボ・ジャンボ
4. 小さなスペインの街で
5. グラナダ
6. そよ風と私
7. スパニッシュ・ハーレム
8. マニャーナ
9. ポインシアナ
10. デサフィナード
11. ブラジル
12. キサス・キサス・キサス
13. デリカード
14. エル・クンバンチェロ
15. クマーナ
16. アマポーラ
17. パーフィディア
18. アモール・アモール・アモール
19. アディオス
20. 南京豆売り
21. カチート
22. ビギン・ザ・ビギン
23. キエレメ・ムーチョ
24. ソラメンテ・ウナ・ベス
25. ア・バンダ

【演奏】
6,9,16,21 カテリーナ・ヴァレンテとウェルナー・ミューラー・オーケストラ

CD-4
1. 第三の男
2. 男と女
3. モア
4. ムーンリバー
5. 見果てぬ夢
6. 運がよけりゃ
7. 星を求めて
8. 俺たちに明日はない
9. チム・チム・チェリー
10. ララのテーマ
11. タミー
12. イン・ザ・ムード
13. 茶色の小瓶
14. ムーンライト・セレナーデ
15. ブルー・ハワイ
16. バリ・ハイ
17. ショウほど素敵な商売はない
18. 紅の翼
19. 風のささやき
20. 愛のセレナーデ
21. 星に願いを
22. ある愛の詩
23. その男ゾルバ
24. 虹の彼方に
25. エーデルワイス

【演奏】
19,22 ボブ・パウエルとウェルナー・ミューラー・オーケストラ



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3 コメント

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選曲に疑問符 (サンドオイル)
2012-07-22 01:00:03
明るい、悪く言えば能天気な演奏が多いように感じます。もう少しストリングスを生かした演奏を収録して欲しかったですね。

それとレーベル越えて音源を集めることが可能なら、ワーナーブラザーズの映画音楽アルバム(VocalionからCD化)とか、カテリーナ・ヴァレンテとのコラボがRCAにもあるので、そういったものも収録してくれると一層価値のあるセットになったと思います。
コメントありがとうございました (torumonty)
2012-07-22 17:03:32
今後リリースされるとは思えない内容なので、少々残念な気がします。RCA録音というのは、1枚だけですか? 部分的には、CD化されているみたいですが。
Unknown (サンドオイル)
2012-07-23 14:35:58
知っているのは1枚だけです。チャイコフスキーのピアノ協奏曲をポップス化した「Tonight We Love」などが入っていました。

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