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生きることの意味を問う哲学: 森岡正博対談集

2023年08月07日 16時55分49秒 | 社会・文化・政治・経済
 
 森岡正博 (著)
 
「生まれてこないほうが良かった」と言われたとき、 あなたは何を語ることができるだろうか
反出生主義はほんとうに自殺を導かないのか?
加害者であることは引き受けられるのか?
日本語で哲学することは可能か?
対話によって開かれる哲学とはどういうものか?
――戸谷洋志、小松原織香、山口尚、永井玲衣とともに、生きることの深淵を覗き込む。
現代における重要テーマをめぐって重ねてきた言葉たちを結晶化した対談集。

森岡 正博

1958年高知県生まれ。東京大学大学院、国際日本文化研究センター、大阪府立大学現代システム科学域を経て、現在、早稲田大学人間科学部教授。

哲学、倫理学、生命学を中心に、学術書からエッセイまで幅広い執筆活動を行なう。

代表作はいまのところ『無痛文明論』だが、そのほかに、男性セクシュアリティ論の話題作『感じない男』、草食系男子ブームの火付け役となった『草食系男子の恋愛学』、オウム真理教事件から哲学する『宗教なき時代を生きるために』、脳死論の古典『脳死の人』、生命倫理の重要作『生命学に何ができるか』、絶版になってしまったメディア論『意識通信』などがある。

日本語サイトは、http://www.lifestudies.org/jp/ 新刊『まんが 哲学入門』(講談社現代新書)は私自身がまんがの原画を描いた問題作。鉛筆描き原画はhttp://www.lifestudies.org/jp/manga/で見られます。反出生主義の克服を考察した『生まれてこないほうが良かったのか?』(筑摩選書)。

 

 

 

 
森岡氏はアカデミズムと一線を画した異色の哲学者である。
本書が対談形式であることも森岡節を一層際立たせているといえる。

そもそも「哲学」という言葉が哲学を一般人から遠ざけている。
日本語の「哲学」は明治の知識人西周が漢字を当てはめて翻訳したものだが、もとはギリシア語に由来する“philosophy”、すなわち「知を愛する」ことにほかならない。
それゆえ、プラトンの対話編ではソクラテスが弟子やソフィストたちと様々な論題を日常用語で対話しつつ問題を発展させていく。
本書では永井氏との対談で触れられる「哲学対話」がまさにそうした試みである。

こうした誰にもわかる言葉で問いを発して議論をし、考えを深めていく姿勢は好ましいし、欧米の輸入哲学だけで自分の哲学を語らないという森岡氏のアカデミズム批判も頷ける。

反面、森岡氏のそうした姿勢の根っこにある自己の内面への執着がどこまで普遍的な学問へと開かれているのか?
例えば、本書の最初の対談では「反出生主義」が取り上げられる。

「生まれてこないほうがよかった」という論題がまともに提起され、しかも、それを徹底しようとした「反出生主義者」が自死してしまう事件まであったというから驚くが、これに対して森岡氏は「誕生肯定の哲学」をめざすとしつつ、人類が絶滅する可能性は「肯定的に確保しておくべきだ」という。

しかし、ソクラテスのいう「死の訓練」はより善く生きることと同義のはずだ。

私のような凡俗には自己保存本能は与件であり、もはや神の領域としか思えない。
「生まれてこないほうがよかった」という言葉で私が想起するのは、マタイ福音書のイエスの言葉である。

これは最後の晩餐でユダの裏切りを予見していう言葉だが、子どもの頃に聖書を読んだとき、その救いのない厳しさに衝撃を受けた。もちろん、これは裏切りという行為に対して発せられた言葉であり、上記のような人間存在自体を否定するような問いかけにはやはり疑問が残る。
森岡氏は自らの「加害者性」にも強いこだわりを示し(「血塗られた」とまでいう加害体験は具体的に語られないのだが)、日本人の戦争加害責任や男性のジェンダー的加害者性ゆえに、被害者と「連帯」できるはずがないとまで断言する。

結局、「加害者としての私が私自身に向かって何を言えるか」という哲学的内省に向かうのだが、それでは被害者への償いも謝罪も何もしないだけだ。これについては、対談者の小松原氏から「本来の加害から逃げているのではないか」「自分以外の被害については、あくまで第三者として考えるべきだ」と反論されるが、そのとおりだろう。
このように自己の個人的体験への強いこだわりに今ひとつ理解できないところが多いのだが、「誕生肯定の哲学」や、アカデミズムのみを志向するのではなく「よりよい社会をつくる」ことをめざすというポジティブな思考は評価したい。

 
 
 
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