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創作 人生の設計 9)

2021年07月06日 15時51分23秒 | 事件・事故

気付けば、カラス窓の外が明るんでいた。
二人はとうとう一睡もしないで語り明かす。
午前5時洗面所で顔を洗う。
彼女は鏡に向かい昨日の厚化粧を落としていた。
看護現場では、昨夜のような付けまつげはダメだろう。
素顔の彼女に「可愛い」と改めて見つめると、「そんな愛玩するような目は、女の人に誤解されるわ」口角を上げて微笑む。
笑顔が似合う人だった。
「男の人を泊めたことが、大家さんに知れたら困わ。駅で会いましょう。先に部屋を出て、少し歩くけど、多摩川か亀甲山へでも散歩に行ってきたらどう」
「亀の子山ですか?」
「少し家の前の道で待っていてね。私も散歩に行くわ」
15分ほど待つ。
昨日は赤いハイヒールだったが、黒いハイヒールだった。
昨夜は赤のミニスカートだったが、今朝はロングのスカートで黒で、トックリのセーターは白、小さなバックも白。
彼の姿を見て、両手でスカートの端を持ち、膝を曲げて挨拶する。
亀甲山は多摩川沿いの丘陵地であり、うっそうと木々が山全体を覆っていた。
あじさいが満開であった。
「あじさいは、深いブルーが一番ね」彼女は大きな花の房に触れた。
犬を連れた夫婦と想われる人に出会う。
彼女は「犬何歳なの、可愛い」と柴犬の脇にしゃがみこむ。
「2歳よ」と60代と想われる婦人が微笑む。
彼女は唇を子犬の口に寄せるようにした。
子犬は尻尾を振って彼女に身を寄せるので、彼女は抱き締めるようにした。
男の人は「行くぞ」先に歩いて行く。
「私ね。実家に居た時。犬が唯一の慰めだったの」遠ざかる犬の姿をずっと見つめていた。
「眠いのでしょ。死にそうな顔をしている」
だが、彼女は一睡もしていないのに、爽やかな笑顔を絶やさなかったのだ。
電車は早朝なので田園調布駅から座ることができた。
二人は身を寄せるようにして、しばしの時間眠りに陥る。
「あなたの、出勤は何時」
「9時です」
「時間の調整ね。休憩しましょう」
目黒駅で下車して出て、喫茶店でモーニングセットを注文した。
時間を調整してから、彼は地下鉄で赤坂の職場へ。
彼女はお茶の水駅の大学病院へ向かった。


亀甲山古墳について

横から見た形が亀に似ていたことから名づけられた全長107メートルの多摩川流域最大の前方後円墳。4世紀後半に造られたとされ宝莱山古墳についで築造された首長墓として国の史跡に指定されており区内では最大の古墳。
現在多摩川台公園は公園となっている。


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