
何よりも感銘したのは、人の晩年は、こんなにもエネルギッシュで豊かなものか、ということでした。
92歳の時に胆管がんの手術を受けるなど、いくつかの危機を乗り越えてきました。
苦境を前向きに捉える精神のみずみずしさは、人生の<晩年>になってこそ、ますます発揮されるのではないでしょうか。
人生は年を重ねるごとに、よりいっそう命を愛(いと)おしむようになるといいます。
己の命を愛おしみ、他者の命を愛おしむ。
人間も動物も草花も同じ生命を持つ仲間同士なのだから。
それを兜太は「生きもの感覚」と呼びました。
故郷の秩父の作品が心に残ります。
山影情念狼も人も俯伏(うつむ)き
<絶滅したニホンオオカミに心を寄せる>
科(しな)の花かくも小さき寝息かな
<小さな花の呼吸に耳を傾けること>
人生の<晩年>だからこそ、詠むことのできる世界観が、この句集には籠(こ)められているようです。兜太最後の直弟子の田中亜美さん
「古き良きものに現代を生かす」 兜太の言葉
商品の説明
2018年2月に、惜しまれつつ他界した俳句界の巨星、金子兜太。
2019年9月に生誕100年を迎えるにあたり、最後の句集(第15句集)がついに刊行。
2008年夏から絶筆句まで、最後の10年間の作品をほぼ収載した渾身の736句。
素っ裸の人間・金子兜太が俳句となってここに居る!
◆『百年』15句抄
昭和通りの梅雨を戦中派が歩く
初富士と浅間(あさま)の間青し両神山(りょうがみ)
裸身の妻の局部まで画き戦死せり
津波のあとに老女生きてあり死なぬ
被曝の人や牛や夏野をただ歩く
雲は秋運命という雲も混じるよ
白寿過ぎねば長寿にあらず初山河
科(しな)の花かくも小さき寝息かな
干柿に頭ぶつけてわれは生く
死と言わず他界と言いて初霞
朝蟬よ若者逝きて何んの国ぞ
戦さあるな人喰い鮫の宴(うたげ)あるな
雪の夜を平和一途の妻抱きいし
秩父の猪よ星影と冬を眠れ
河より掛け声さすらいの終るその日
◆著者紹介
金子兜太(かねこ とうた)
1919年9月23日―2018年2月20日。俳人。
埼玉県の秩父で育つ。18歳より俳句に熱中し、のち加藤楸邨の「寒雷」に所属。
東京帝国大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。
海軍経理学校を経て1944年、海軍主計中尉としてトラック島に赴任した。
1946年に帰国し戦後の社会性俳句、前衛俳句の旗手として活躍、俳句史に残る
多くの俳句と評論を発表した。1962年「海程」創刊。1983年、現代俳句協会会長。
日本詩歌文学館賞、蛇笏賞、菊池寛賞、朝日賞など受賞多数。
生前の句集に第一句集『少年』から第十四句集『日常』、著書に『荒凡夫 一茶』『語る兜太』他多数。
生涯現役で現代俳句を牽引し、晩年は「平和の俳句」など全身全霊で反戦を訴えた。
2018年2月20日、急性呼吸促迫症候群により他界。享年98。
2018年に98歳で他界した作者最後の句集である。
で、どういう作品かというと、ざっと以下の通り。
人のためにこの人あり春怒濤
弱者いたぶる奴等狼に喰わす
胡蝶翔ひらき閉ず被爆なき国を
熊谷の暑さ極わまり美しき
暗闇の大王烏賊と安眠す
鹿の眼に星屑光る秩父かな
谷に猪眠むたいときは眠るのです
放射能売り歩く人夏の鳶
生臭く小さく人間蟬しぐれ
いずれにせよ「プレバト」で行き来する俳句とは、正反対の世界である。
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