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精神疾患を抱える人たちと合唱

2018年06月21日 13時33分44秒 | 医科・歯科・介護
さいたま市の社会福祉法人シナプス埼玉精神神経センターの精神科デイケアでは、合唱クラブ「つばさ」が10年以上、活動を続けてきた。
精神障害者の社会参加や相互交流を目指した「ココロのあおぞら音楽祭」(県精神保健福祉協会)。

元気にする。仲間と歌えばなおさらだ。「合唱」が今、病院の精神科デイケア(通所リハビリテーション)で注目されている。東京と埼玉の病院で1年間、精神疾患を抱える人たちとハーモニーをつくることで、合唱の力が見えてきた。毎日新聞


●一緒だから歌える
 
♪人はただ 風の中を迷いながら歩き続ける……ここは東京都渋谷区の代々木病院精神科のデイケア。
今日も練習が始まった。歌うのは混声3部の合唱曲「遠い日の歌」。
みんなで1年かけて練習してきた。歌詞が人生と重なるからだろう。
思いが自然と歌声に乗る。

 通所者で作る合唱団「ハートビートコーラス」は今年で創設16年。
7月に1年遅れで15周年コンサートを開く。

 約20人のメンバーの多くは統合失調症や、うつ病など気分障害を抱える。練習中に「私なんか死んだほうが……」とうめく人もいる。でも似た病気を抱えた同士、深刻になりすぎず「そんなことないよ」と優しく声を掛け、時には手を握り合い、一緒に歌う。

 精神科のデイケアは、生活リズムの維持や生活能力の向上、ソーシャルスキルの習得などを目的に、精神疾患を抱えたメンバーが日々通う居場所だ。部屋に張られた標語は<歌うことは生きること>。

なぜ自分たちは歌うのかを話し合えば「歌ってみんなで元気になりたい」「歌うことで苦しみを楽しみに変えたい」という声が上がる。

 ここで15年歌ってきた浜中利夫さん(70)。30代で統合失調症を発病し、55歳で合唱と出合った。「今や合唱をするためにデイケアに通っているようなもんだよ。歌は好きだけど、1人じゃ歌えない。みんなと一緒だから歌えるんだ。歌えない歌が段々と歌えるようになるのが一番うれしいね」。普段は眠るように座っているのに、ピアノが鳴ると優しい響きで歌い出す。「浜中さん、雨の日も風の日も15年間、ほとんど練習を休んだことがないんですよ」と担当スタッフが教えてくれた。

 合唱団を指導しているのは、音楽療法士の金巻彩花さん(25)。
音大生時代にここを実習先に選んで以来の付き合いだ。「私も歌う仲間のつもりで参加しています。うつむいていた人が、いつの間にか顔を上げて生き生きと歌い出す瞬間や、はっとするようなすてきなハーモニーが生まれた時は、みんなで元気になります」と魅力を語る。

 ●集団療法の側面も

 一方、さいたま市の社会福祉法人シナプス埼玉精神神経センターの精神科デイケアでは、合唱クラブ「つばさ」が10年以上、活動を続けてきた。精神障害者の社会参加や相互交流を目指した「ココロのあおぞら音楽祭」(県精神保健福祉協会主催)では3回連続で優勝している。

 指導する精神保健福祉士、松浦彰久さん(38)はある日、メンバーに語りかけた。「なぜ精神科デイケアで合唱?と思われるかもしれません。治療やリハビリになるのか、と。でも合唱
を通して仲間とチームになること、みんなでやり遂げることはとても大切です。1人で頑張って歌おうとせず、肩の力を抜いて、隣の人や他パート(声部)の声を聞きながら歌ってみてください。他のパートの音につられちゃってもいいですから」

 その瞬間、ふっと空気が緩む。歌声が柔らかく、温かくなる。それがうれしくて「やったね!」と、仲間と手を取り合って喜び合う。

 大事にしているのは曲選びだ。事前に片っ端から音源を聴き、「皆で歌いたい!」と思える歌を探す。
心から共感できる歌を選んだ時は、多少難しい曲でもいい響きになるからだ。<理屈ではないところで僕ら 通じ合える力を持ってるハズ><あなたがいつも笑えていますように>。
そんな歌詞に思わず、涙ぐむ人もいる。

 クラブは数カ月に1度、病院内で合唱を披露している。
重い病を抱えた入院患者を前に、懸命に歌う。本番前に尻込みするメンバーがいれば、松浦さんや仲間はこんなふうに励ます。
「歌えなくても、あなたがそこに居てくれるだけで仲間の勇気がわくよ」

 松浦さんは、合唱には集団療法的な効果があると感じている。
合唱を通して自信をつけ、ソーシャルスキルを学んだメンバーはその後、復学や職場復帰がスムーズにいく傾向があるという。「僕らは治療効果を狙って歌っているというよりは、スタッフもメンバーも立場を超えて、一緒に歌い、すてきな音楽を目指しています。真剣に合唱することで得られるポジティブな経験が人生に与える影響は、治療という概念を超えるほど大きく深いこともあるんです」

 ●仲間と回復を実感

 複数のパートでハーモニーを奏でる合唱は、ユニゾン(斉唱、同じメロディーを歌うこと)より難易度が高い。

 音楽療法の第一人者、国立音楽大の阪上正巳教授は「日本の高齢者施設や精神科の音楽療法で多いのは、唱歌や歌謡曲などを斉唱する集団歌唱です。一方、ヨーロッパでは音楽療法士と患者の1対1、もしくは少人数のグループによる楽器を使った即興演奏が主流です。声部に分かれた合唱は、世界的にも珍しい取り組みだと思います」と語る。合唱の持つ力については「仲間と継続して協力し、美しいハーモニーを生み出す活動を通して、まずは音楽の喜び、そして他者との関わりや互いの信頼感、達成感、自信など多くを得られるのでしょう」と分析する。

 不安障害や、そうとうつを繰り返す双極性障害を抱えながら、代々木病院で合唱委員としてコンサート準備に打ち込む梅津敬一郎さん(43)は、合唱活動を通して自分が変わったと感じている。「以前は自分がちゃんと歌えるかどうかばかり気になっていた。でも今は仲間の声の変化が分かる。一緒にうまくなって美しいハーモニーを奏でたい。そう思えるようになった。これこそが僕の“回復”だと思うんです」【小国綾子】

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