浅井秀樹2021.8.5 07:00週刊朝日#新型コロナウイルス
「安全・安心な大会」のかけ声が、いかに空虚だったことか。東京五輪の開幕と軌を一にするかのように、新型コロナウイルスの感染者数が再び急拡大している。感染爆発がどこまで広がるかは見通せず、医療現場のひっ迫度は日に日に深刻さを増しつつある。
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東京の新規感染者数は、7月半ばからほぼ毎日、1千人台で推移していた。それが五輪開会式のあった4連休(22~25日)を経た27日には2848人にはね上がり、それまで最多だった2520人(今年1月7日)を超えた。翌28、29日には3177人、3865人と急増し、31日には初の4千人台に。全国でも29日に、1日あたりの感染者数が初めて1万人を突破した。
怖いのは、これから先どこまで増えるか、天井が見えないことだ。
京都大学の西浦博教授が厚生労働省に助言する専門家会議に提出した試算では、新たな感染者が前週比1.4倍のペースで増え続けると仮定した場合、8月末には東京で1日の感染者数が1万人を超すという。
感染者が急増した背景には、高齢者を中心にワクチン接種が進む一方、若い世代への接種が思うように進んでいない現実がある。感染力が従来型より強い変異株(デルタ株)が主流になってきているのも大きい。首都圏では、新規感染者の75%を変異株が占めると推定されている。
第3波に比べ現時点では重症者や死者が少ないが、感染者が増えるにつれ、重症者も増えるとみられる。一般の医療提供体制も圧迫することが懸念されている。
日本医療労働組合連合会は6月10日の時点で、五輪を開催しようとする政府に抗議する声明を発表。「医療現場のひっ迫度は改善されることなく、いのちの選別が行われる『医療崩壊』が現実となっている」と指摘していた。まさに、恐れていたことが起きつつある。
「コロナ対応で確保していたベッドの6~7割がもう埋まっている」「都からはベッドを増やしてと要請が来ているが、一般病床のベッドからの切り替えは手間がかかり、スタッフをそろえるのがさらに大変だ」など、現場からは悲鳴に近い声が相次ぎ届いているという。
怖いのは、これから先どこまで増えるか、天井が見えないことだ。
京都大学の西浦博教授が厚生労働省に助言する専門家会議に提出した試算では、新たな感染者が前週比1.4倍のペースで増え続けると仮定した場合、8月末には東京で1日の感染者数が1万人を超すという。
感染者が急増した背景には、高齢者を中心にワクチン接種が進む一方、若い世代への接種が思うように進んでいない現実がある。感染力が従来型より強い変異株(デルタ株)が主流になってきているのも大きい。首都圏では、新規感染者の75%を変異株が占めると推定されている。
第3波に比べ現時点では重症者や死者が少ないが、感染者が増えるにつれ、重症者も増えるとみられる。一般の医療提供体制も圧迫することが懸念されている。
日本医療労働組合連合会は6月10日の時点で、五輪を開催しようとする政府に抗議する声明を発表。「医療現場のひっ迫度は改善されることなく、いのちの選別が行われる『医療崩壊』が現実となっている」と指摘していた。まさに、恐れていたことが起きつつある。
「コロナ対応で確保していたベッドの6~7割がもう埋まっている」「都からはベッドを増やしてと要請が来ているが、一般病床のベッドからの切り替えは手間がかかり、スタッフをそろえるのがさらに大変だ」など、現場からは悲鳴に近い声が相次ぎ届いているという。
感染状況が緊迫化するなか、ワクチンの早期接種への期待は高まるばかりだが、供給の限界もあり、迅速に進んでいるとは言えない。
ワクチン調達の制約から、特別の接種対応をとってきたのが英国だ。
日本でも主流のファイザー製ワクチンは2回接種が基本で、1回目と2回目の接種間隔は3週間程度が推奨されている。これに対し英国は、1回目のワクチンをできるだけ幅広い人に接種してもらうため、昨年末に間隔を最大12週間とする方針を示した。変異株の拡大を受け、今年7月には40歳未満で12週間の間隔を8週間に短縮した。
英オックスフォード大学の研究者らは、ファイザー製ワクチンの2回目の接種間隔を10週間にすると、異物(抗原)への中和作用がある中和抗体の産生が、3週間の場合より多かったと発表した。BBCが7月にこの結果を報じ、「英国の状況からは(接種間隔は)8週間が最適かもしれない」とする研究者の声も紹介している。
「日本でも、まずファイザー製ワクチンの1回接種を優先的に進めることは検討の余地がある」
こう話すのは医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。
「1回では接種効果が弱く、発症を予防する効果は3、4割ですが、まったく接種を受けていない無防備な人が国内に数千万人いるリスクを減らしたほうがいい」
厚労省はファイザー製ワクチン接種の1回目と2回目の間隔の標準は「3週間」としており、それを超えた場合、できるだけ早く2回目を接種するよう勧めている。日本でも接種間隔を広げる考えはないか聞くと、担当者は「英国の研究発表については、一つの治験(臨床試験)だけで判断するものではない。こだわりがなければ3週間で打ってもらいたい。3週間を超えたら、できるだけ早く打ってもらえばいい」と従来の方針を繰り返した。
新たな治療薬や国産ワクチンの開発にも期待がかかる。
治療薬で注目されるのは、中外製薬の「ロナプリーブ」。厚労省が7月19日に特例承認した。「ウイルスそのものを攻撃する治療薬」(室井さん)で、人工の抗体を二つ組み合わせて直接注入する「抗体カクテル療法」と呼ばれるものだ。抗体カクテル療法は、米国のトランプ前大統領がコロナに感染した際に使われたことでも知られる。
中外製薬によると、軽度から中等度の治療や予防に効果があると期待されている。厚労省の発表資料では、ロナプリーブが入院や死亡リスクを70.4%減少させたとある。
菅義偉首相も会見で「これから徹底して使用していく」と強調したが、ネックは現状では供給量が限られること。
厚労省は、必要とする患者に公平に配分するため、供給が安定するまでは国が買い上げて医療機関に無償提供するとしており、目下の感染爆発を抑えるのにどこまで効果があるかは不透明だ。
国産ワクチンでは、バイオ製薬ベンチャーのアンジェス(大阪府)が追加の治験を始めると発表。ただ、実用化の見通しはたっていない。第一三共は年内にも最終治験を開始し、来年の実用化を目指す。また塩野義製薬も年内に最終治験を始め、年内実用化も視野に入れており、いずれも早期の実現が待たれる。
世界に目を向ければ、デルタ株が猛威を振るっているのは、日本に限った話ではない。
米国では最近、疾病対策センター(CDC)がマスク着用の指針を見直し、感染が多い地域は、ワクチン接種を済ませていても屋内ではマスクを着用するよう求めた。
CDCは5月、ワクチン接種を済ませていれば、屋外および屋内の大半の場所でマスク着用は不要との見解を発表していたが、その後、デルタ株の流行が深刻化。ワクチン接種を終えていても感染する「ブレークスルー感染」などが増えたことから、方針を見直した。日本でも、2回接種が済んでいても要注意だ。
前述の室井さんは「マスク着用、手洗い、うがいがウイルス量を確実に減らすので、地道にしていくことが大切だ」と強調する。決定打がないなかでは、愚直にやれることをやり続けるほかない。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2021年8月13日号
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