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サリン後遺症で廃人となった人

2025年03月22日 23時35分45秒 | 事件・事故

地下鉄サリン事件 PTSDや後遺症 30年になる今も…【NHK分析】

およそ6300人が被害に遭ったオウム真理教による「地下鉄サリン事件」から30年になる中、1000人余りの被害者が健康状態について答えたアンケートをNHKが専門家とともに分析したところ、PTSD=心的外傷後ストレス障害の症状を訴えている人はそうではない人より、2倍余り高い割合でサリンの後遺症の症状もあると回答していることがわかりました。

30年前の1995年3月20日にオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件では、都内を走る3つの路線に猛毒のサリンがまかれ、14人が死亡し、およそ6300人が被害に遭いました。

被害者の支援団体、NPO法人「リカバリー・サポート・センター」は、健康状態を把握するため、2000年からおととしまで、毎年、アンケート調査を実施し、のべ7610人、被害者全体のおよそ6分の1にあたる1017人が回答してきました。

PTSDとみられる症状を訴えている人の割合は、2000年には32%で、その後、増減を繰り返しながら20%から35%で推移し、おととしの時点で24%と、大きくは減っていません。

NHKは今回、回答者が特定されない形でアンケートのデータの提供を受け、専門家の助言を得ながら、被害者の健康状態がどのように変化しているのか、分析しました。

サリンの後遺症のうち「からだのだるさ」や「疲れやすさ」といった長く続く症状については、PTSDの症状を訴えている人の方が、そうではない人より2倍余り高い割合で「症状がある」と答えていることがわかりました。

事件から30年になるいまもPTSDのような精神面の不調が身体に現れる症状に影響している可能性があります。

被害女性 “およそ5年後から後遺症に…”

22歳の時に「地下鉄サリン事件」の被害に遭った女性に話を聞くことができました。

PTSDや後遺症の影響に長年、悩まされてきたとした上で「事件から30年がたち、被害者を支援してきてくれた人たちの高齢化が進んで今後、誰を頼ったらいいのかわからず、とても不安に感じている」といまの心境を語りました。

都内に住む森瀬郁乃さん(52)は、30年前、通勤の途中に日比谷線の小伝馬町駅で被害に遭いました。

液体状のサリンでぬれたホームを歩いて地上の出口に出たところ、息が苦しくなって病院に運ばれ「サリン中毒」と診断されて4日間、入院しました。

事件のおよそ5年後からは、ひどい頭痛や平衡感覚を失うほどのめまいなど、サリン中毒の後遺症に悩まされるようになり、正社員としてフルタイムで働くことも難しくなりました。

「時々、満員電車に乗ってしまうと、手に汗をかいてしまい、どうしても車両の真ん中の方に行けない。出口近くにいたいという心理が働いてしまう。めまいは、ひどい時には朝起きた時に、天井と床がどっちなのか分からず、ベッドから転がり落ちてやっと床が分かるという状態だった」

森瀬さんは、後遺症の状況をブログに書き残していて「めまいがしてバイトを休んだ」とか「サリン中毒になってから抗生物質などの薬が効かなくなった」などと記していました。

2010年に医師の診察を受けた際、PTSDで電車に乗れない恐怖感などから就労できない状態になっていると診断されました。

さらに、そのころ、急に手の指の骨が痛み始め、リューマチなどを疑ったものの違うと診断され、サリンの後遺症かわからず、誰にも相談できずに悩んでいたといいます。

次第に痛みが増して自分で洋服のボタンを留めたり、字を書いたりすることもできなくなり、被害者の支援を行っていた「リカバリー・サポート・センター」に相談しました。

長年、被害者の診察にあたってきた医師からサリンの後遺症の可能性があるとされ、筋肉の硬直化を防ぐ薬を処方されて飲んでからは痛みが和らぎ、これまでどおりの生活を送れるようになったということです。

森瀬さんは「手の痛みが生じたとき『何でもサリンの後遺症に結びつけるな』という第三者の目がとても気になってしまった。医療機関に相談しても『そんなの分からない』と伝えられた被害者もいて、後遺症かどうか相談しづらいと感じている被害者は多いと思う」と話します。

“できる範囲で人生を楽しみたい”

毎年、健康診断を受けたり、被害者どうしで交流したりしてきた「リカバリー・サポート・センター」が今月末で解散することになりました。

森瀬さんは「事件から30年がたち、被害者を支援してきてくれた医師やNPO職員の高齢化も進んでいて、今後、誰を頼ったらいいのかわからず、とても不安に感じている」と話しています。

後遺症に悩まされ続けてきた森瀬さんには、大切にしてきた出来事があります。

2009年に親友と三重県伊勢市の神社にお参りに行った際、大吉のおみくじを引き「二度ない人生を楽しめ」と書かれていたということです。

「この言葉は今の私にぴったりだと思った。後遺症に悩まされているけど、できる範囲で人生を楽しみたいと考えるようになった」

その後、憧れていたフォトグラファーの活動をより精力的に行うようになり、大好きなハワイで撮影した風景写真は現地の情報発信などを手がけていた会社のコンテストでグランプリに選ばれ、絶景を集めた手帳にも掲載されました。

今は、15歳になる愛犬のレオくんのため、老犬介護士の資格を取得し、介護に専念しながら悔いの無い人生を送りたいと考えています。

改めて森瀬さんに事件後の30年間を振り返りどのような心境か、聞きました。

「『1人で生きているわけではない』とよく言うが、本当にこの言葉を実感しながら生きてきた。30年たっても周りの人が支えてくれている。事件の被害に遭ったことは不運だったが、それがあっての今の私なので、よかったと思えることの方が多くなるような生き方をしてきた。そんな30年だったと思う」

被害者には“心身両面のケア必要”

 

長年、被害者の診察にあたり、アンケートの分析について助言を行った聖路加国際病院の石松伸一 院長は、被害に遭った人たちの近年の状況について「実際に診察しても検査で病名がはっきりするようないわゆる客観的な異常は非常に少ない。精神的な不調から来る身体的な症状は、サリンの後遺症への不安が解決できていないということではないか。被害者にとっては、医療機関を受診しても、対応した医師から『サリンのことは分からない』と断られることが最もつらい。医師から『こういう病気の可能性がありますよ』とか、『事件との関係は低いと思いますよ』と言ってもらうだけでも安心につながる」と述べ、心身両面のケアの必要性を指摘しています。

石松院長は、サリンの被害にあった人の6分の1にあたるおよそ1000人分のアンケート調査の結果が保存されていたことで、被害の一端が把握できたとする一方「アンケートに回答している人だけでも、これだけの割合で不調を訴えている。回答していない残りの人の中にも、かなり具合が悪く、社会生活に影響をきたしている人がいるかもしれない」と懸念を示しています。

また、サリン事件の被害者全員のカルテが保存されず、国による追跡調査が行われなかったとした上で「事件から30年がたつとさすがに当時の症状がわからず、サリンの影響なのか断定することは難しい。早い時期から国が被害者の救済やケアに取り組んでいれば、アンケートの結果のような症状を持つ人は減ったのではないか。多くの方は体の不調を抱えたままずっと社会で生きていかなければならない。このつらさを国や社会に理解していただき、被害に遭った人を確実にケアしていくことに結びつけていってほしい」と話していました。

【分析】8つの“目に関する質問”

サリンの被害者には▽「縮瞳」と呼ばれる瞳の大きさが針のように小さくなる症状のほか▽目が疲れやすくなったり▽物がかすんで見えたりといった目に関する症状が出ることがわかっています。

こうした症状の変化を調べるため、アンケートには、目に関する質問が8つ設定されていて、NHKは今回、これらの項目についても分析しました。

このうち、目の疲れやすさについての回答を年代別に見ると、事件当時、20代以下だった若い世代では、2000年には61%が「自覚症状あり」と回答しましたが、おととしには71%に増えました。

また、目のかすみについては2000年には34%が「自覚症状あり」と回答しましたが、その後、増え続け、おととしには67%の人が症状を訴えていました。

いずれの症状も30代以上の人と比べて上回っていました。

こうした結果について長年、サリン被害者の目の診察に関わってきた、東京・千代田区の井上眼科病院の若倉雅登 名誉院長は「時間の経過とともに治る人が増えてくることを期待していたが、症状を訴える人が少しも減っていない。サリンの被害によって耐性が弱くなったと考えられる。サリン後遺症による症状に加え、加齢やスマホなど光を直接見る過酷な環境に置かれるなど、悪条件の重ね合わせが影響している」と分析しています。

また、若倉名誉院長は「サリンの後遺症の治療は初めてのことで、教科書にも書かれていないし、文献もない。初期の症状が治っても、後から別の症状が起きたり、軽い症状が残ったりすることはあまり医師が研究しておらず、弱点だった。30年もあれば対応法や治療法などが開発されていた可能性もあるのに、チャンスを逃した」と述べ、国や医療機関による被害の追跡調査などが行われなかったことに苦言を呈しました。

その上で、今後の被害者へのケアのあり方について「『異常なし』と切り捨てるのではなく、一緒に考えてあげるという姿勢を持ってあたってもらいたい」と話していました。

 


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