「あなたのナナ、わたしはナナのまま死にます。永遠に愛するみどりのベッドで、天国で会いましょう。きっとよ。いいわね」みどりのテールの卓上の便箋に記したナナの遺書であった。
その日、みどりは12時過ぎまで銀座のクラブ「愛園」で働いていたが、客の一人に誘われ外泊していた。
その客は40台の女の飲食店経営者であり、みどりをお気に入りであり、女同士の愛を迫っていて、みどりは相手の誘いを断りきれなかったのである。
ナナは大量の睡眠薬を飲み、それが致命的な原因で絶命にいたる。
腕には剃刀による躊躇い傷も残されていたそうだ。
司法解剖で妊娠7か月であることが判明した。
さぞかし、みどりは大きな衝撃を受けたであろう。
足立は、ナナの死をみどりからの電話で知らされる。
「みどりです、足立さんに、大きな悲しみをお伝えします。ナナさんが私の部屋で亡くなりました。わたしは大丈夫です。ナナさんの分も生きていきます。さよなら」悲哀を秘めた声であった。
電話はそれきりで切れてしまう。
足立は受話器を握りしめて茫然自失する。
ナナは自ら死を選んだのであるが「何故なんだ!ナナには、死ぬ必然性があったのか?」「人はなぜ、自ら死を選ぶのか?」足立幸雄は自らに問い続けた。
実は、足立の妹の晶子は17歳の若さで自ら死を絶っていた。
当時、大学生2年生であった足立は、両親の深い悲しみをいつまでも見守っていたのである。
人生には出会いがあり、そこに相性も生まれ、そして別れもあることが実に侘しくもあり、腹立ちでもあった。
結局、足立は競馬にはまり、40歳まで独身を貫くこととなる。
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