社説 毎日新聞 2021/3/3 東京朝刊
新年度予算案がきのう衆院を通過した。
新型コロナウイルスの対策費などが盛り込まれ、野党は成立を遅らせる国会戦術をとっていない。だが、多くの問題が積み残され、菅義偉政権の機能不全を疑わせる事態も相次いでいる。
新型コロナ対策では、GoToキャンペーンにこだわり、政府の対応が遅れた。
緊急事態宣言の再発令も、年末年始の感染急拡大を受け、知事らに押されて出したものだ。
感染の「第3波」は昨年11月に始まっていたのに、臨時国会を12月初旬に閉じた。今国会では唐突に、罰則を含む新型コロナ関連法の改正案を提出した。
その最中に、与党議員が深夜に東京・銀座のクラブに出かけていたことが相次いで発覚し、政権の危機意識の欠如を露呈した。
総務省幹部らが放送事業会社「東北新社」に勤める首相の長男らから接待を受けていた問題では、首相は「長男は別人格だ」と人ごとのように答弁した。一方で、自身が抜てきした山田真貴子前内閣広報官は続投させようとした。
国民の政治不信を理解できていれば、起こりえなかった対応だ。
首相は人事権で官僚や議員を動かす政治手法を駆使してきた。異論に耳を傾けない強権的な手法が、進言しにくい空気を生み出しているのではないか。
深刻なのは、首相に対して率直にものを言う人物が、官邸や与党に見当たらないことだ。
官房長官には、自身の下で官房副長官を務めた加藤勝信氏を据え、秘書官には官房長官時代の秘書官らを昇格させた。自身に異を唱えることが少ない顔ぶれで周辺を固めている。
新型コロナ対策は正念場を迎え、ワクチン接種のスケジュールも当初の想定より遅れそうだ。東京オリンピック開催問題などの判断も早々に迫られる。
首相は専門家の意見を尊重し、国民の不安に応えながら慎重に判断をしていく必要がある。
野党の提案も立場を超えて柔軟に取り入れるべきだ。
権力は抑制的に行使する必要がある。首相は国民からの信頼を力にして政策を進めるべきだ。それが政権立て直しの第一歩になる。
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