出生数、初の70万人割れへ 24年1~11月は66万人、物価高やコロナ禍が影響か
2024年の日本人の出生数が初めて70万人を割る可能性が強まった。
物価高で子育てへの経済的不安が高まったことや、価値観の多様化で未婚傾向が進んだことが響いたほか、新型コロナウイルス禍で結婚する人が大幅に減ったことも背景にあるとみられる。
日本人の出生数は19年に90万人を、22年に80万人を割った。23年は統計のある1899年以降で最少の72万7277人だった。3・8%ほど減少すれば24年は70万人を割り込む計算だ。現時点で公表されている最新の出生数は24年1~8月分で、前年同期比5・9%減だった。
去年の出生数 初めて70万人下回る 出生率も過去最低の1.15
去年1年間に生まれた日本人の子どもの数は68万6000人余りと、前年より4万1000人余り減少し、統計を取り始めて以降、初めて70万人を下回ったことが厚生労働省の調査で分かりました。また、1人の女性が産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は去年1.15となり、これまでで最も低くなっています。
出生数の減少には複合的な理由があるとされていますが、「結婚の減少」も大きな要因の1つと指摘されています。
目次
出生数 全都道府県で減少
出生数 全都道府県で減少

厚生労働省によりますと、去年1年間に国内で生まれた日本人の子どもの数は68万6061人となり、前年より4万1227人減少しました。
出生数が減少するのは9年連続で、1899年に統計を取り始めて以降、初めて70万人を下回りました。出生数はすべての都道府県で減少しています。
国立社会保障・人口問題研究所がおととし公表した将来予測では、日本人の出生数が68万人台になるのは2039年と推計していて、想定より15年ほど早く少子化が進行しています。
日本人の出生数は、最も多かった第1次ベビーブーム期の1949年には269万人余りいましたが、その時と比べると4分の1近くまで減少しています。

また、1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は去年1.15となり、前年から0.05ポイント低下し、統計を取り始めた1947年以降で最も低くなりました。
最も低かったのは東京都の0.96で、宮城県が1.00、北海道が1.01などとなっています。
最も高かったのは沖縄県で1.54、次いで福井県が1.46、鳥取県と島根県、宮崎県が1.43などとなっています。
(※都道府県別の出生率は記事後半に掲載しています)
一方、去年1年間に死亡した人は160万5298人と、前年より2万9282人増えて過去最多となりました。
この結果、亡くなった人の数が生まれた子どもの数を上回る「自然減」は、91万9237人(前年比+7万509人)と過去最大となりました。

このほか、結婚の件数は去年48万5063組と前年より1万322組増加したものの、10年間で15万組余り減少しています。
日本人の出生数が初めて70万人を下回ったことについて、厚生労働省は「若い世代の減少や、晩婚化・晩産化が要因にあると考えている。急激な少子化に歯止めが掛からない危機的な状況にあり、今後も少子化対策に取り組んでいきたい」としています。
少子化進むと財政成り立たなくなる可能性も

少子化の問題に詳しい学習院大学の鈴木亘教授
「想定を上回るペースで少子化が進めば、年金や医療、介護の支え手が減って財政が成り立たなくなる可能性も出てくる。少子化は高齢者の生活にも影響し、全世代の問題として立ち向かわなければならない。若い人は社会保険料などの増加で、子どもを産むのをためらうほどの負担増の中にいるが、それが増えればさらに厳しい状況に陥る。資産を持つ高齢者などにある程度の負担をしてもらうなど、痛み分けをする発想も必要ではないか」
鈴木教授は少子化の大きな要因として、結婚する人の減少を挙げています。
「将来への不安を考えると、“交際や結婚をする心の余裕が生まれない”というのが、いまの若者たちの大きな問題だと思う。また職場などで出会いの機会も減っていて、民間の結婚相談所は、費用が掛かるため利用できる人と出来ない人の格差が生まれる懸念もある。結婚支援こそ、国の少子化対策の肝であり、さまざまなツールを活用して若者たちの望みをかなえていく必要がある」

結婚件数の推移をみてみます。第1次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた世代が20代を迎えると年間100万組を超え、1972年には109万9984組で最多となりました。
その後は減少傾向となり、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年には52万5507組と、前年より7万3500組減りました。
去年は48万5063組と前年より増加しましたが、10年間で15万組余り減少しています。
若者 独身でいる理由は?

「国立社会保障・人口問題研究所」が2021年に行った出生動向基本調査では、25歳から34歳の未婚者に独身でいる理由を複数回答でたずねたところ、男女ともに「適当な相手にまだめぐり会わないから」が最も多く、女性は48.1%、男性は43.3%にのぼっています。
次いで「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」が女性で31%、男性で26.6%、「結婚する必要性をまだ感じないから」が女性で29.3%、男性で25.8%となっています。
かつては「見合い結婚」が主流で、半数以上を占めていましたが、その後は職場での出会いや友人の紹介などの「恋愛結婚」が増加し、1960年代に「見合い結婚」の割合を上回りました。
「恋愛結婚」の割合は2010年の調査で88%とピークとなりますが、その後は減少に転じ、2021年の調査では74.8%となっています。
一方、最近ではSNSやマッチングアプリなどインターネットを利用して知り合うケースが増加し、2021年の調査では15.1%でした。
さらに、「見合い結婚」の割合も2010年の調査で5.3%まで減りましたが、2021年の調査では9.8%となっています。
結婚相談所を選ぶケースも増加
若者が出会いの場として、結婚相談所を選ぶケースも増えています。
東京・港区の結婚相談所では、20代から30代の若者を中心に利用者が増えているといいます。取材をした日も、事務所で面談を受ける人たちの姿がありました。

このうち、都内に住む28歳の女性は、ことし2月から婚活を開始。
国際支援を行うNGOで働き、将来は海外への赴任を希望していて、その前に子どもを産みたいという考えもあって結婚相談所に登録したと言います。
女性は「普段の生活は職場と家の往復で、なかなか出会いがありません。キャリアを優先すると家庭を持つのは難しいという声をよく聞きますが、子どもも産んでキャリアもしっかりと積んでいきたいです」と話していました。

また、都内に住む27歳の男性は、1月に相談所に登録しました。
コンサルティング会社に勤める男性は、年収およそ500万円。以前はマッチングアプリを利用して結婚相手を探していましたが、仕事や生活の価値観などが合う人には、なかなか出会えなかったといいます。
男性は「若いうちに活動した方が良い人に出会えると思い、登録しました。仕事が忙しいので、タイムパフォーマンスも大切にしたいです」と話していました。
この相談所も加盟する婚活サービス大手「IBJ」の報告書によりますと、去年に新規に入会した20代の会員は5年前に比べて男性は3.3倍余り、女性はおよそ1.9倍に増えています。

結婚相談所「ナレソメ予備校」 勝倉千尋取締役
「いまは職場での恋愛も減っていると見られ、30代になってから婚活を始めたけれど苦労している人の話を聞いて、早めに動かなきゃと意識する20代が増えていると感じます」
自治体も婚活支援の動き
各地の自治体でも少子化対策の1つとして、婚活を支援する動きが広がっています。
子ども家庭庁によりますと、去年2月の時点で、全国の47都道府県に少子化対策の実施状況を尋ねたところ、41か所で婚活イベントを実施していたほか、37か所で結婚支援センターを運営していました。
このうち愛媛県は、2008年に県の事業として結婚支援センターを立ち上げ、イベントやお見合いを通じて、これまでに1611組が結婚しています。

出会いの選択肢を増やそうと、10年前に全国の自治体に先駆けて県が導入したのが、AI=人工知能を活用したマッチングシステムです。
ビッグデータの中から、AIがその人に合いそうなより多くの相手を探し出します。
例えば、ある男性が情報を閲覧して自分の好みの女性を見つけ、申し込みしましたが、断られたとします。
通常ならそれで終わりですが、このシステムは続きがあります。
その女性を同じように選んだ別の男性たち、つまり好みの似ている人たちをグループ化し、その男性たちが選んだ別の女性もおすすめしてもらえます。さらに、その人を好んでくれていそうな相手も探し出してくれます。
このように出会いの機会を増やした結果、お見合いの成立率は導入前に比べて2倍以上に増えたといいます。
マッチング以外にも、センターでは出会った男女が交際をうまく進められるよう、ボランティアがフォローする「おせっかい」も行います。
ボランティアはまず、男女が初めて出会うお見合いの席に同席し、話題を提供したり場を和ませたりして2人の距離を縮めます。
その後も2人と定期的に連絡し、それぞれの気持ちを確かめながら交際が順調に進むようアドバイスを送ったりフォローしたりします。

15年にわたってボランティアを続けている山本美枝子さん(73)は、自信をもてない男女に寄り添い、背中を押すことを心がけているといいます。
例えば、交際半年が過ぎたカップルの女性が「お互いの両親にあいさつをしたいが、結婚をせかしていると思われたくないので、彼に伝えられずにいる」と相談がきました。
山本さんは「あまりかしこまらず、軽く、『家に遊びにこない?』と声を掛けるのもよいのでは」とアドバイスを送りました。
一方で、男性には「将来についてお話しはぼちぼちでていますか?」などのメールを送って交際の進展を促し、このカップルを結婚に導いたといいます。
山本さんは「積極的な方は見守るだけで十分ですが、おとなしい方は背中を押すことも必要です。誰かの役に立てるのは、本当にうれしいです」と話していました。
センターの取り組みを通じて出会い、ことし1月に結婚した伊藤大地さん(28)と伊藤千恵さん(31)夫婦は、こうしたボランティアの「おせっかい」も結婚を意識した交際につながったと感じています。
千恵さんは「自治体の取り組みなので安心感があり登録しました。仲人さんがいると何か困ったことがあれば、相談できる安心感があり、ありがたかった。夫という家族ができて、幸せです」と話していました。
合計特殊出生率 世界各国で低下
1人の女性が産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は、世界各国で低下が進んでいます。
OECD=経済協力開発機構のまとめによりますと、2023年の加盟国38か国の合計特殊出生率は平均で1.43と、前年に比べて0.07ポイント低下。10年間では0.25ポイント低下しています。
国別で最も低いのは韓国の0.72で、1970年には4.53でしたが、2018年には1を下回り、その後も低下が続いています。
次いで
▽スペインで1.12
▽ポーランドで1.16
▽チリで1.17
▽リトアニアで1.18
▽日本(※2023年)とイタリアで1.20です。
一方、高かったのは
▽イスラエルで2.89
▽メキシコで1.91
▽フランスで1.66
▽コロンビアで1.65でした。
欧州で合計特殊出生率が比較的高いとされるフランスでは、1995年に1.73まで低下したものの、2019年には1.86まで上昇しました。しかし、その後は再び低下しています。
ドイツの子育て支援策は

ドイツ政府は2000年代に少子化対策などとして、子育て支援策を整備しました。そのひとつが2007年、当時のメルケル政権で導入された「親手当」です。
子育てのために休職したり、勤務時間を減らしたりした親の収入を補うため、子どもが生まれる前の所得の65%が「親手当」として支給されます。最大で14か月分、受け取ることができます。
また、「親時間」と呼ばれる支援策も導入されました。子育てのため最長3年間、休職する権利を保障し、この間、雇用契約は継続され、休職後には元の職場に戻ることができます。
また、3年を複数回に分けて休職することも可能です。さらに政府は、子育て中の女性が働き続けることができる環境を整備しようと、全国で保育所の設置も進めました。
OECDによりますと、ドイツの合計特殊出生率は1990年代に1.24まで落ち込んでいましたが、2000年代から上昇傾向をたどり、2010年代には1.59に回復しました。
専門家からは支援策の効果が現れているとする分析もあります。ただ、2022年以降は低下に転じていて、ロシアのウクライナ侵攻の影響による物価の高騰などで、子育て世代の間で先行きに対する不透明感が強まっているためではないかとの指摘も出ています。
専門家「政策や地域の支援策が雰囲気変えている」
ドイツの家族政策に詳しい城西国際大学国際人文学部の魚住明代教授は、ドイツで2000年代に「親手当」や「親時間」と呼ばれる子育て支援策が導入されたことについて、「それまでは社会が変わらないという状況だったが、新しい家族政策の導入によって父親も子育てをしようということを、社会が強く言うようになってきた。男性も『親時間』をとろうと言ってきたことによって大きく意識が変化した」と述べ、支援策の導入がきっかけとなって社会変化や男性の意識改革につながったと指摘しました。
その上で、ドイツでは政府だけでなく地域も一体となった政策がとられたとして、「とくに30代女性の出生率が上がった」と述べました。
一方、2022年以降、出生率が減少していることについては「ドイツ経済の低迷や、ウクライナの状況をはじめとする近隣諸国の問題などの社会不安が関係している」と指摘しました。
そして、「出生率が高いということがゴールではない。ドイツでは、政府の政策や地域の支援策が雰囲気を変えてきている。家族をつくるということは大変なことではなく、楽しいことだという雰囲気を社会全体でつくることがとても大事で、こうしたメッセージを発信していくことも重要だ」と述べ、政府や地域が連携して若い人たちにも響くメッセージ性のある対策を打ち出すことが大事だと指摘しました。
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