カキぴー

春が来た

禁断の酒、アブサン

2010年02月19日 | お酒

アーネスト・へミングウエーの短編に、「白い象に似た山々」 がある。  乗り換えの列車を待つ男女、 ローカル線のホームは、夏の日差しを浴びて暑い。 前方の山並みは、岩が白くて像のように見える。 冷たい飲み物を買うため、男は向い側の駅舎まで、何度か往復する。 飲み物が何かは説明なし、「アニスのような香りがする」 それだけがヒント。 さらに男は、女がこれから受ける治療について、「難しくない、簡単なんだ」 と盛んに繰り返す。 黙って聞いてた女がついにたまりかねて、「やめて、やめて」 とヒステリックに叫ぶ。 男は沈黙。 暫くして、もう一杯飲むかと女に聞く、女は頷き、男はまた飲み物を買いにいく。

ざっとこんなストリーだったが、「治療」 はおおよその想像がつく。 そして、わけありの男女が飲む酒は、どうやら 「アブサン」 ではないかと思う。 理由はヘミングウエーの好きな酒だったからだ。

アブサンが商品化されたのは1797年、19世紀フランスの芸術家たちによって愛飲され、絵画や小説などの題材とされた。 薬草系リキュールの一つで、ニガヨモギ、アニス、ウイキョウなど、数種のハーブ、スパイスが主成分である。 アルコールは60~75度と強く、水を加えると白濁する。 この酒には幻覚、向精神などの中毒作用があるとされ、20世紀初頭には発売禁止となる。 この酒の中毒で身を滅ぼした有名人としては、 詩人ヴェルレーヌや、画家のゴッホ、ロートレックなどがいる。

この、いわくつきの酒の飲み方に、「アブサンカクテル・ボヘミアンスタイル」 がある。 簡単なので試してみるといい。 1、小振りで背の低いグラスに氷を入れる 2、グラスの上にスプーンを置き、その上に角砂糖を乗せる 3、角砂糖にアブサンを垂らすように注ぎ、火をつける 4、燃え尽きるころ、砂糖の上に水を注いで火を消し、グラスに落としてかき混ぜれば、出来上がり。

アブサンが禁制となり、まがい物として 「パステス」 が作られる。 ベストセラーとなったピーター・メイルの 「南仏プロヴァンスの12ヶ月」 で紹介され、日本でも一躍有名になったのがこの酒。 パステストして知られるものに、リカールやぺルノーがあり、本の中では、確かシャンパンとのカクテルで飲んでたように思う。

日本では太宰治が 「人間失格」で、アブサンを登場させている。 しかし太宰が成人した頃、アブサンは日本でも禁制品となっていたから、常連だった銀座のバー「ルパン」あたりで、秘蔵してたものを、坂口安吾などと、飲んでたのではあるまいか。

ロミオとジュリエットの時代から 禁じられればこそ求めてしまうのが世の常。  「人生には、アブサンの残酷な苦さが混じっている」 セヴィニエ夫人。  多くの人の人生を狂わせ、不幸を生んだ禁断の酒。 一方で芸術や文化に寄与しながらも、 今はその存在さえ忘れらている。

 

 


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