新規公共事業「余裕なし」 インフラ維持 50年で190兆円

2013-01-31 20:33:22 | 政治

新規公共事業「余裕なし」 インフラ維持 50年で190兆円

 中央自動車道笹子トンネル事故を受け、政府は二〇一二年度補正予算の公共事業に約二兆円を投じる方針だ。ただ、国土交通省の予測では、一一年度からの五十年間で必要になる橋や道路などのインフラ維持費は約百九十兆円と巨額。税収が年四十兆円台にとどまり社会保障費が膨らむ中、専門家は「新しい橋や道路は造らず、維持に専念すべきだ」と指摘する。七日から編成作業が本格化する補正予算の公共事業費はその「中身」が問われる。 (木村留美)
 
■緊張
 

 JR浜松駅から北へ約六十キロ。愛知県との県境の山あいを流れる天竜川に、二人の警備員が二十四時間体制で安全を監視する珍しいつり橋が架かる。
 

 橋の名は原田橋。五十七年前に開通した。昨年四月の市の点検で橋をつるケーブルに「破断」(市の担当者)が見つかり新しいケーブルを付け足した。
 

 だが「これは応急措置」と市は説明。架け替えは三年後だ。
 

 費用はかかるが、まずは橋に異常があると音が鳴る警報器を設置。八トン以上の大型車を通行禁止にした。だが、周辺には山あいのつり橋に似合わない緊張感が漂うようになった。笹子トンネル事故で住民の不安は増幅。近くの主婦(30)は「橋の向こうで子どもが習い事をしている。通るしかないが、怖い」と身をすくめた。
 
■削減
 

 浜松市は庁舎や橋などのインフラ施設の維持・管理に必要な費用を「五十年間で二兆円を優に超える」(担当者)と見積もる。年平均で四百億円超の支出が必要な計算だ。だが市の一般会計の歳出は二千八百億円程度で、土木費や災害、雇用対策費など「投資的経費」に充てられるのは年約五百億円。これまでのように新しい橋や道路を造っていては、古い施設の安全が確保できない。
 

 このため市は、庁舎や体育館などのインフラ施設の数を一四年度までに二割削減する方針。鈴木康友市長は「住民の反対はあるが、すべての維持は不可能。『更新時期』を迎える時、残すか廃止かをシビアに見ていく」と話す。
 
■縮図
 

 浜松市の現状はインフラ施設の老朽化に悩む日本の縮図だ。東洋大の根本祐二教授は「公共事業は、新規投資を凍結し100%を施設の維持に充てなければ間に合わない。選択と集中が必要だ」と指摘する。根本教授は分散する住宅を街の中心に集約し、インフラ維持の守備範囲を狭める「コンパクトシティ」の構築も提案する。
 

 総選挙で「国土強靱(きょうじん)化」を約束した自民党。政府は「防災」「暮らしの安心・地域活性化」などを重点項目に掲げ、公共事業も増やす方針だが、東日本大震災の復興予算のような「不適切支出」は許されない。
 

 <2012年度補正予算> 政府は景気回復に向け11日にも緊急経済対策をまとめる。自民党内には裏付けとなる12年度補正予算に、過去最大だった09年度補正予算並み(2兆3000億円)の公共事業費を盛り込むよう求める声がある。これを受け12年度補正の公共事業費は2兆円程度に膨らむ見込み。基礎年金国庫負担分の2兆6000億円も含め、補正予算は10兆円規模になる見通し。



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