米国「ミレニアル現象」

2014-02-25 10:40:55 | 経済


格差の次は“姥捨て山”か、日本の未来映す米国「ミレニアル現象」


先週に引き続き、今週ご紹介するエンターテインメントも本コラム初となる“衣・食・住”のうちの“住”のお話です。

  日本では、4月から消費税率が5%から8%に引き上がる前の駆け込み需要でマンションの売れ行きが好調ですが、とりわけ人気が集中するのが、都心部の拠点となる鉄道の駅の近くに建つ「駅近物件」です。

  高齢化社会の進展で、最近は郊外の大きな庭付き一戸建てを売却し、何かと徒歩圏内で便利な「駅近物件」に住み替えるお年寄り夫婦が激増しています。

  そしてお年寄りだけでなく、若者の間でも車離れが急速に進んでいることから、郊外の一戸建てよりこうした「駅近物件」が人気を集めています。確かに、車に乗らなくても自転車で買い物に行けるし、通勤にも便利ですしね。

  とはいえ国土の広い米国では、ハリウッド・セレブに代表されるように、やっぱりお金持ちは郊外の庭付き・プール付き・ベッドルーム10室、といったような無駄に大きい豪邸に住んでいるイメージが強いのも事実です。まさに成功者の証(あかし)ですね。

  ところがそんな米国でも、最近は何と日本のように、車を運転したくないという若者層が急増。彼らがどんどん郊外から都市部に移り住んでいるというのです

  1月24日付フランス通信(AFP)が「アメリカン・ドリームは郊外ではなく、ますます都心部で見いだされるようになっている」と題した興味深い記事を配信していました。

  ワシントンDCから車で約20分という郊外の街、フォールズ・チャーチに住む女性、ジャステイン・ポスルーズニー・ベロさん(30)は、第一子の妊娠を機に、DCの都心部に引っ越すことを決意しました。自分たちの母親の世代とは真逆の選択です。

  都心部への引っ越しを決めた理由について彼女はAFPにこう説明しました。

  「都心部という環境で子育てしたかったこともありますが、最大の理由は何をするにも車の存在が不可欠というのが嫌だったからです。家族生活を始めるにあたり、自家用車を運転しないで図書館や食料品店に行きたいと思ったんです」

  彼女は新居となる都心部の古いビルのリフォームに取り組んでいますが、彼女のように米国で1980年代~90年代に生まれた「ミレニアル世代」と呼ばれる若い世代の間ではここ数年、郊外を捨て、都心部をめざす傾向が顕著になっています

  2011年の統計調査結果(12年発表)によると、全米の大都市51のうち、27都市で人口が対前年比で1・1%増加していました。一方、郊外の人口増加率は0・9%でした。米国でガソリン自動車が発明されて以来、約100年。初めて都心部の人口増加率が郊外を上回ったのです。

  郊外に住む人々が都心部をめざす理由についてAFPは、ガソリン代の高騰、交通渋滞による(精神的・体力的な)疲弊、離婚率の上昇、そして低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)の大規模な貸し倒れといった住宅危機問題を挙げています。

  また、こうした状況を列挙した1冊「郊外の終わり」(13年)の著者で、米経済誌フォーチュンの編集者兼女流作家のライ・ギャラガー氏は「1950年代~60年代、(米国では)中流階級の出現とともに、われわれは、大きな庭がある邸宅、2人の子供、マイカーというアメリカン・ドリームを描いた。長い間、これが米国の都市計画の唯一のモデルだったが、こうした考え方が袋小路に入り込んでしまった」と説明。その結果、都市部をめざす人々が増え始めたと分析しています。

  そして、こうした動きの顕著化により、貴重な納税者である「ミレニアル世代」が都心部に逃げることを食い止めようとする動きも当然ながら出ています。

  ワシントンDCの北西、メリーランド州のモンゴメリー郡では11年の調査で、全人口に占める20歳~34歳の世代の割合が19%と、ワシントンDCの約30%を大きく下回りました。

  そこで郡当局は「ミレニアル世代」にとってより魅力的な“夜間経済”の活性化を目的とした対策委員会を設置したのです。

  委員長のヘザー・ドゥルホポルスキー氏はAFPに「モンゴメリー郡は、将来的な財務の健全性を熟考するにあたり(「ミレニアル世代」の都市部への移動という)重要問題に対応せねばならないということに気付いたのだ」と説明。

  さらに「『ミレニアル世代』はワシントンDCといった都心部に移り、そこで賃金への課税や余暇の出費を通して税金を納めている。そんな『ミレニアル世代』の多くはモンゴメリー郡に住むこともできるのに、そうしない。彼らは郡が何十億ドルもの予算をつぎ込んだ米国トップ級の公立学校で教育を受けた人たちなのに」と困惑を隠しません。

  委員の1人で、モンゴメリー郡南部の街、ベセスダでレストランを経営するアラン・ポーリレスさんも、仕事後のナイトライフを拡充させることが地域活性化のカギだと確信しています。

  ポーリレスさんは「『ミレニアル世代』の人たちに、住みたい場所や仕事をしたい場所について尋ねると、多くの人は、クールな雰囲気の場所や、自宅から徒歩圏内にある感じの良いバーがあるような地域だと答える。それらはほとんど映画に出てくるようなシーンだ」と話します。

  そうした点を踏まえ、モンゴメリー郡の対策委員会では、くつろぎの場の創出をめざし、夜の11時過ぎでもライブ演奏ができる“ノイズ・ゾーン”を設置したり、歩道の拡張や噴水の設置などで多くの人々が集える場を作り出すといったアイデアを推奨しています。

  ポーリレスさんによると「ミレニアル世代」の若者たちにとって郊外のナイトライフを魅力的なものに変貌させるための最大のポイントは、飲食店の売り上げは食事代とアルコール飲料代で均等でなければならないと制限している郡の許可法の改革にかかっているといいます。

  「ディナーが終わったら、その後にはやることが大してない。ダンスクラブもナイトクラブもない。(私が住む)ベセスダは夜遊びが好きな人々のための場所ではないんだ」(ポーリレスさん)。

  一方「郊外の終わり」の著者、ライ・ギャラガー氏は「(郊外に住む)全員が突然、都心部の高層マンションに住むようになるとは思っていないが、今のアメリカン・ドリームにはさまざまな形があり、1人1人がさまざまな夢を思い描いている。(誰もが)目標とする一つの夢というのは、もはや存在しない」と述べ、アメリカン・ドリームの概念自体が大きく変貌しているとの考えを示しました。

  そして“超格差社会”の米国では、アメリカン・ドリームの概念だけでなく、それ自体を疑問視する人々も増えています。均等に与えられた機会を活かし、勤勉と努力によってアメリカン・ドリームを勝ち取れると信じている人が急減しているのです。

  米ニューヨークのマリスト大学と米マクラッチー紙が2月14日に発表した共同世論調査の結果がそれを如実に物語っています。

  調査は2月4日~9日にかけて、全米の成人1197人に実施しましたが、全体の約8割が、昔より今の方が成功するのが難しく、次世代が今より成功するのはさらに難しいと考えていました。

  自分たちを中流階級だと答えた人は50%、中流上位は14%、中流下位は22%でしたが、全体の半数以上にあたる55%の人々は、今後、こうした中流層の人々が政府の施策から取り残されると考えていました。

  実際、米国勢調査局によると、12年の米国の世帯年収(中央値)は5万1017ドル(約510万円)で、67年の調査開始以来、最高だった99年の5万6080ドル(約560万円)と比べると約9%も下落していました。

  そして年収5万ドル(約500万円)未満の人々の72%は、懸命に働いても暮らしが良くならないと感じていると答え、75%の人々は、米企業は社員より株主のことを最優先で考えていると指摘しました。

  そのうえ、米消費者金融保護局によると、国が負担する学資ローンの債務残高の総額は何と1兆2000億ドル(約120兆円)。この数字は、学資ローンという多額の借金を抱えたまま大学を卒業し、就職後、その借金を国に返済しながらの生活を強いられる人々が想像以上に多いことを物語っています。

  こうした悲観的な回答や状況の数々を受け、この共同世論調査では、アメリカン・ドリームが多くの米国人にとって既に手の届かないものと化しており、それを手にしたいという希望すら失われていると断定付けています。悲しいことですね。

  そういえば日本でも、アベノミクスで恩恵を受けているのは今のところ、大量の株式といった金融資産や不動産を保有している富裕層ばかりです。一般庶民にまで恩恵が行き渡っていないのが現状で、結局、資産格差がさらに拡大しただけのような気がします。

  独立宣言にもうたわれているアメリカン・ドリームの実現を多くの人々が既に諦めてしまった米国のように、格差がこれ以上拡大しないよう安倍政権には何とかしてもらいたいものですね。(岡田敏一)



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