手足を切るような”大リストラ”が始まる 城繁幸

2013-02-02 15:11:02 | 経済

手足を切るような”大リストラ”が始まる 城繁幸

――今回の「グローバルエリートは見た!」は、人事コンサルタントの城繁幸さんを特別ゲストにお迎えして、対談形式で進めていきます。
 
テーマは、不況が続く日本の中で、国内だけに依存しないキャリアをどう築くか、です。ムーギーさんには、シンガポールなど海外の視点から、城さんには国内の視点から、幸せなキャリアを築くために大事なことについて、語っていただきたいと思います。
 
外資金融、コンサルの撤退組が急増
 
ムーギー:外資金融やコンサルで働く、私の周りの人たちを見ていると、私と同じ35~36歳くらいの年齢で、業界からの撤退を余儀なくされる人が最近ものすごく多いんですよ。
 
たとえば、日本のゴールドマン・サックスとかヘッジファンドとかでブイブイ言わして、家賃が月200万円ぐらいするところに住んでいる人たちが、コスト高と日本のマーケット縮小を理由に、クビになっている。この人たちは、今まで日本の市場ばかりを見てきて、中国株やアジアの市場に詳しいわけではないので、40前とかで海外に行こうと思っても難しいんですよ。
 
日本のマーケットがいいときには、よかったんだけれども、マーケット自体がなくなってくると、こういう人たちは会社にとってコスト高になってしまう。
 
ただ、クビになった人でも、タイプは主に2つに分かれている。会社にいる間に、お客さんとしっかり信頼関係を築いている人および、実力があっても政治的理由でクビになるリスクが多いことを知っていて“高い自分の給料を見てはいつか来る解雇に備えてる人”は、そのお客をスポンサーとして、新しいファンドを自分で立ち上げたりしている。一方、そういうコネのない人は、今さら他の会社にもいけないので、独立も転職もできていない。リーマンショックでクビになって、その後ずっと、ズルズルと貯金を食いつぶして生きている人もいる。
 
――後者のタイプの人たちは、もう仕事はしていないんですか?
 
ムーギー:働いていない人も多いんだけど、それは長年業界にいたラッキーな人たち。まだ古きよき金融の時代を20年くらい謳歌した人は、過去何回かあったバブルでしこたま貯め込み、また勤続年数も長いので退職時にもらえるパッケージもいまだに億を超えたりする(参考に言うと今は月収の3~6ヵ月分程度)。
 
また投資銀行で長らくマネージングディレクター(MD)レベルで個人的ネットワークを築いている人の場合、在職時に築いたネットワークを活かして、アルバイト的にディールの仲介をすることで、紹介料をもらっている人もいる。

ムーギー:これに対し悲惨なのが、ここ数年業界を経験しただけで特に業界内外に個人の名前でも相手にしてくれる人脈も、特定の業界での突き抜けた知見も持たない、賢いんだけど中途半端な名ばかりバイスプレジデント(VP)の皆さん。まだ自力で客を、つまり収益を金融機関にもたらすマーケティングができないため、マーケットが落ちれば最大のコストセンターに早変わりしてしまう。
 
外資金融業界はある程度出世して給料が高くなってしまうと、実力にかかわらず市況が悪化すればクビになる。昔は市場が回復するまでとか、比較的高い年齢まで会社が我慢してくれたんだけれども、今は20代、30代でもどんどん放り出されるんですよ。
 
だから、独立してもビジネスができるような準備を必死にやっておかないと、エリート企業に入れたとしても、そこでぬくぬく過ごしていたら、将来のリスクに対応できないな、と最近思いますね。こういう悲惨な目に遭っているエリートの先輩を見て、就職活動のリスク選好性が下がっている。最近は日系企業、ことのほか総合商社に人材が回帰しています。
 
ルネサス、エルピーダはパイオニア
 
――城さん、日本企業の場合はどうでしょうか? たとえば、シャープやルネサスエレクトロニクスを筆頭に、リストラが加速していますが、30代、40代で突然キャリアが断絶してしまうリスクは、日本でも高まっているのでしょうか。
 
城:半導体、システムLSIの分野は、リストラの波がドカドカっと一気に来ている感じですね。20〜40代のときに、自分の属する市場や産業がなくなったとして、どうするのかという答えは、誰も持っていないのかもしれない。
 
ムーギー:そうですよね。
 
城:海を渡って台湾などのメーカーに転職できればいいんだろうけど、全員が行けるわけじゃないですから。ルネサスやエルピーダメモリというのは、1つのパイオニアであって、たぶん同じような状況に陥る企業は、これから5〜10年でもっと広がると思いますよ。

それは他の業種にも広がるという意味ですか?
 
城:具体的に言うと、シャープ、パナソニックまで広がりますね。あと最終的にはNECあたりまでいくんじゃないかな。そうなると、会社の看板を外すぐらいの大きなリストラがこれから起こるはず。それは、2000年ぐらいに起きた総合電機業界のリストラとは質が違う。本当に手足を切るようなリストラが起こると思うんですよね。
 
――2000年前後のリストラとどこが違うんですか?
 
城:当時とはレベルが違う。まず、2000年前後のリストラって、ほとんどが製造ラインを畳むという話で、ホワイトカラーはほとんど手を付けていないんです。
 
だから、よく言われる「良い大学を出て、大企業に入る」という昭和的価値観は、実は完全に壊れたとは言い切れない側面もあった。それに運悪く事業部がリストラ対象となった人でも、早期退職しても転職先が国内にあったんです。どこかに景気がいいところがあって、潰しが結構効いたんですよ。
 
電機でいうと、当時は、システムエンジニア(SE)がたくさんいればいるほど、儲かった時代なんです。だから、多少畑違いでも、プログラミングができる人は、他の企業に採用してもらえたし、ずっとハードの設計とか製造ラインで働いていた人でも、本人にやる気さえあれば、一定期間の研修後に、そういった職が見つけられた。
 
だから、逆に言うと、もっとも変わらなきゃいけなかった日本型雇用のコアの部分にいる人たちは、安心しちゃったんじゃないかな。製造ラインはダメだったけど、自分たち高付加価値のホワイトカラーはこれまで通りでいいんだって。
 
でも、今はクラウドなどの進化で、SEがいらなくなってきてしまって、SE自体もリストラしないといけないという話になっている。たとえば富士通も、数万人レベルでSEの余剰を抱えているんではないかと思う。それが今すごく大きな問題になっている。
 
よく「終身雇用は欧米企業に比べてより長期的な視野に立った判断ができる」なんて言われますけど、アレは全然間違いなんです。各社のトップはサラリーマンマラソンで40キロ既に走っちゃってて、残りはあと2、3キロ。在任期間は数年なので、自分がいる間は何もせず逃げ切ろうという感じでずっとやっている。でも、いよいよもう逃げ切れなくなって、煮詰まってきている感じがする。おそらく、日本人が初めて、仕事を失うということに直面しないといけない時代が来ると思いますよ。

ムーギー:私からすると、結構ずっと前から日本は仕事を失い続けているという印象ですけれど、その深刻度が高まっているんでしょうね。
 
最近、外資系投資銀行では、1年目の社員を全員クビにしたり、部門ごと閉鎖したりするという例が相次いでいるんですよ。部門ごと香港やシンガポールの本部に移転するというケースが多い中で、日本にあった仕事が海外に出て行ってしまっている。
 
その流れで、日本オフィスの採用も昔とは変わってきている。一昔前は、日本オフィスの採用は、日本方式で日本の大学から採っていたわけですが、ここ数年は、ずっと海外に行っていた人や、中国人、インド人を採用する例が増えている。
 
最近、話を聞いた投資銀行の人は、新卒採用の7人のうち、4人はボストンキャリアフォーラム(米ボストンで開かれる日英バイリンガル向けの就職イベント)で採用した、と言っていましたよ。つまり、日本から仕事が出ていくのみならず、日本のオフィスで雇っている人たちも、半分ぐらいが帰国子女や外国人でないと、やっていけなくなってしまっている。
 
その意味で、日本国内だけでキャリアを築くことのリスクは非常に大きい。P&Gはアジアの本部を神戸からシンガポールに移しましたし、三菱商事も金属販売部門の本社をシンガポールに移管することを決めましたよね。
 
花形部門がどんどん減っていく中で、日本の経営者は、結構社会主義的というか、お国のためみたいなところがあって、「できれば日本の中で雇用を持ちたい」という思いが強い。ただ、最近はちょっと円安傾向ではありますが、昨年のような為替水準が今後戻り継続するなら、いくらお国のためでも、工場は日本から海外に流出していかざるをえない。日本の中だけでやってきた人たちにとっては、ますます将来が厳しいですよね。
 
本当のブラック企業とは?
 
城:何ていうのかな、これは全年代にいえるんだろうけど、とくに30代後半ぐらいの間で、いい波に乗れた人と、取り残されてしまった人の二極化が、今すごく出てきている気がしますよね。
 
先ほど、SEの話をしましたけど、バブル世代だけでなく、30代後半の世代もリストラのターゲットになり始めている。20代はまだ社内で潰しが効くのでいいんだけれども、35歳を越えてしまうと、やっぱりちょっと苦しい。
 
この対談では、ムーギーさんがグローバルな話をして、僕が国内の話をするという分担だと思うんだけど、グローバルに働くのも、日本国内で新しいエリートとして生きていくのも、たぶん本質的な違いはないと思う。むしろ、違いがあったら、おかしいんですよ。
 
これからの時代を考えるときに、何が一番大事かというと、答えはすごくシンプル。昔から言われていることなんだけど、「自分でやる」ということに尽きると思うんですよね。
 
たとえば今、ユニクロが一部ですごくたたかれている。ユニクロはブラック企業(編集部注:一般的に、労働環境が悪く、若者を使い捨てる企業を意味する)だと言う人もいるんだけれども、僕はブラックではないと思っている。ユニクロはたぶんグローバル企業なんですよ。
 
グローバル企業は、ユニクロに限らず、どこもハードに働かされるんですよ。社員が責任取らなくてよくて、高度成長期にできた法律を全部守ってもらえて、おまけにマイホーム買えるくらいの給料に自動的に上がっていくような会社は、たぶん下請けと外注で相当泣いてる奴がいると思う(笑)。そっちの方が本当のブラックだと思いますよ。

ムーギー:というか、資本主義である以上、そうならざるを得ないですよね。つまり、資本のリターンを高めるためには、いい商品を安い価格で提供して、消費者を満足させるしかない。そのためには、労働者は限界まで絞られることになってしまう。
 
この文脈で、貧富の差を拡大した象徴的存在のようにユニクロが誤解されてしまうことが多いです。ユニクロがなかった時代は、京都の片田舎でも、衣服は近所の小さいパパママショップで買っていたわけです。ちょっと高かったり、品質が悪かったりしても、ほかに行くところないからそこで買うしかないわけですよね。
 
でも、ユニクロが全国にできちゃうと、そういうパパママショップが全部マーケットから駆逐されてしまう。それは、安くていいものが気軽に買えるのだから、消費者にとってはありがたいですよね。ただ、マーケットが非効率なおかげで食ってきたパパママショップの人たちは、先祖代々50年くらい衣服を売ってきたのに、仕事がなくなってしまう。今さら職業訓練所に行ってトレーニングを受けても、現実として、新しい仕事なんてできるわけがない。
 
こうした話は、消費者にとってはありがたいんですけど、仕事という意味では、どうしても特定の層の失業者を増加させてしまいますよね。市場の非効率さが担ってきた所得分配機能が失われていくのは確かです。
 
ただしこれは、ユニクロがなければ市場を開放したときに外国のリテールチェーンに同じことをされるだけなので、世界のアパレル市場に新たなスタンダードを打ち立て、ジャパンブランドとして活躍しているユニクロは、仕事を失う人が一部いても、他方、大量の雇用機会を若者に提供してくれているので、全体的には日本にとってありがたい存在なのは間違いないと思いますけどね。海外にも積極に出て行って、日本の若者にグローバルに働く機会も提供してくれていますし。
 

 

城:ユニクロがブラックと言っている人たちに対して、いつも疑問に思うんだけども、彼らは突き詰めると、「使い捨てられる」ということを問題視するわけです。でも、労働者って全部使い捨てですよ。これは、政治家から、首相から、銀行員から、メーカーまで、みんなそうですよ。
 
すべての労働者には2種類しかいない。使い捨てられることを分かっている労働者と、使い捨てられることに気付いていない労働者。大企業で幸せな定年を迎えられたオジサンも、僕に言わせれば、使い捨てられたことに気付いていないだけ。ただね、これは労働者の側から見て凄いメリットでもある。会社もやっぱり使い捨てってことですよ。なら個人の側もドライに、いかに成長できるかを考えればいい。

グローバルエリートからの講評
 
今回、私が尊敬する城繁幸さんをお迎えし、約6年ぶりに対談させていただけたことをうれしく思う。ここだけの話、対談当日、東洋経済本社の場所がわかりづらくて、雨が降っていることもあり立ち往生して30分も遅れてしまい、新米編集長と城さんの怒りがあふれる中での対談となってしまった。結局、三越前の駅まで編集長に迎えに来てもらい、「大物の先生相手でも私、駅まで迎えに来たことないですよ、、、」と嫌味を食らいながらも、駆け足で対談させてもらった。
 
違った意味での緊張感あふれる対談になったわけだが、問題意識はグローバル市場を見ている私と、国内市場で若者のキャリア問題で第一人者であられる城さんとは本質的に共通点が多かった。
 
まずグローバル金融にしても国内電機産業などのメーカーにしても、2000年代初頭と異なり解雇されても国内で行く場所がない。国内に雇用の受け皿がない時代に突入していることに、十分な備えがなく緊張感の足りない若者がいまだに多いということである。
 
死にもの狂いで努力しなくても、父母や祖父母の貯金や社会福祉で食べるのに困らない、と書くと“本当に困っている人の生活を知らない”と怒られるのだが、少なくとも世界で困っている人のスタンダードに比べれば果てしなく恵まれている。
 
ただ真意を誤解してほしくないのだが、これでもって生活保護がなければ子供を学校にも病院にもやれない母子家庭のお母さんから、生活保護を打ち切れなどとけしからんことを言っているわけではない。あくまで、まだやれるのにインドや中国、東南アジアと競争するうえで相応の努力をしていないのに従来どおりの賃金水準を企業に求め、日本にとどまってビジネスをしてくれている企業をブラック企業呼ばわりして文句を言っている人たちに、世界的な視点でビッグピクチャーを見てほしいのだ。
 
こんな警鐘を鳴らすとまた、ようやくプロレスファンの怒りが収まった直後なのに、今度は若年失業者の皆さんからお叱りを受けそうだが、危機感を持って生産能力を高め、好きな仕事を得るために死にもの狂いの努力をしてくれる人が少しでも増えれば望外の喜びである。
 
城さんとの対談後編では引き続き、企業の役割と労働者が企業に何を期待すべきなのか、さらには、日本企業が国際的企業と競争して最高の人材を引き付けるにはどうしたらいいのか、皆様と一緒に考えたいと思う。
 
※ 対談の後編は、2月6日(水)に掲載します
http://toyokeizai.net/articles/-/12745?page=6