雑居空間
趣味のあれこれを、やたらめったらフットスタンプ




 先日、創土社から出版されたゲームブック、悪魔に魅せられし者(鈴木直人:著)をクリアしました。
 プレイしてみて、とてもよくできた、良くも悪くも優等生的なゲームブックだったという印象を受けました。この作品が世間で高い評価を受けているのもわかる気がします。
 ただし、個人的な趣味の観点からいえば、ゲームブックとして大絶賛できるものではなかったと思います。以下に私が感じた「悪魔に魅せられし者」の、良かった点と悪かった点を挙げてみます。

これ以降、あんまりネタばれしていないつもりですが、もしかしたら微妙にネタばれしているかもしれません。一応、ご注意ください。


良かった点


・ゲームバランスが良い

 初期能力値をランダムに決定するゲームブックにおいては、キャラクターメイク時のサイコロ運によってゲームの難易度がかなり上下することがあります(FFシリーズなどで顕著ですね)。「悪魔に魅せられし者」も初期能力値はサイコロを振ってランダムに決定しますが、戦闘に関係するパラメータは戦力ポイントと防御力ポイントの2種類があるため、確率的に著しく弱いキャラクターは誕生しにくくなっています。
 初期値だけを言えば攻撃力は1d+2、防御力は1d+5ですので、FFシリーズの技術1d+6よりも乱数のウエイトが高くなっています。しかし、ゲーム初期は最低値でも何とかなる強さの敵しか出てきませんし、ゲームが進んでいけば攻撃力や防御力をアップさせるアイテムも多くあり、経験を積むことで戦闘力もアップしますので、初期値の影響は少なくなっていきます。体力を回復する手段も適度に用意されていますし、裏技的に経験値稼ぎをしてキャラを鍛えることもできます。
 システム的にフォローされている部分もそうですし、敵の配置、罠の配置、各種アイテムの配置もある程度計算されているので、試したわけではありませんが、初期能力値の低いキャラクターでもそれなりにゲームを進めていくことができると思います。


・敵や罠の配置がフェア

 ゲームバランスとも関連しますが、アイテムの入手や罠の回避などについて、多くの場合には事前に情報を得る機会が与えられています。それによって、ゲームブックにありがちなサドンデスなどの理不尽さを感じることはあまりありませんでした。
 FFシリーズに慣れた身としては親切すぎるとも思いましたが、けして悪いことではないと思います。


・塔の内部を探索するのが楽しい

 このゲームブック、というか、2巻以降未プレイなので断言することは憚られますが、鈴木直人のドルアーガ3部作の最大の魅力は、塔の内部を探索する楽しさにあると思います。
 8×8という限定されたエリアが少しずつ埋まっていく様子は、マッピング大好き人間としてはたまらないものがあります。この“ぴったりとマップが埋まる”という感覚は、パラグラフのつながりをフローチャートとして書くことや、たとえば「火吹山の魔法使い」のようにサイズを厳密に求める必要のないマップを描くこととはまた異なり、ジグソーパズルのピースを組み上げる快感に近いかもしれません。
 それだけに、ゲーム的には問題ないのですが、マップをちゃんと描くことのできない階があったのは気に入りません。具体的には16階と18階ですけど、マップをちゃんと描けないなら描けないで、中途半端に部屋のサイズなんか書くなっつーの。


・各フロアがバラエティ豊か

 「悪魔に魅せられし者」は全20階。個人的にはもっとガツガツとしたダンジョンアタックを期待していたので少し拍子抜けした階もあるのですが、アイディアを出しすぎなんじゃないかというくらい、単なる迷宮探索にとどまらず、各階様々な趣向が凝らされています。レストランや宿屋など、塔の住人の生活感が感じられたことや、密閉された塔の内部だけでなく外の風景も織り交ぜられていたことなども良かったです。
 これでまだ全体の1/3でしかないわけですから、2巻以降でどんな仕掛けが飛び出すのか楽しみです。


悪かった点


・戦闘で振るサイコロの回数が多い

 こちらの攻撃でサイコロ2個を2回、相手の攻撃でサイコロ2個を2回、サイコロを振らなくてはいけません。攻撃が外れたら、そのフェイズは何にもなし。出目によってはなかなか勝負がつかずに、ひたすらサイコロを振らなくてはなりません。
 FFシリーズでは攻防一体で技術+2dの比較なので、単純に考えればサイコロを振る回数は半分、しかも引き分け以外ではどちらかに必ずダメージがいくので、勝負はずっと早くつきます。
 ただ、攻撃と防御が分かれていることで戦闘のバランスが取りやすくなっているので、一長一短だとは思います。でも、こちらも相手も外しつづけているときは、大変だったなぁ。


・やり直すのがめんどくさい

 ゲームブックのゲーム性というと定義が難しいのですが、プレイヤーの意思が介在する行動といえば、次にどう行動するのかを選択するということになります。西に行くか東に行くか、戦うか逃げるか話しかけるか、薬を飲むか箱を開けるか部屋から出るか。そういった選択をすることこそ、ゲームブックのキモなわけです。ゲームブックにおける“選択する”という行動のウエイトは、“サイコロを振る”という行動のウエイトよりもずっと重いと思います。自分で行動を選択し、その行動に対して反応がある。そのプロセスこそが、ゲームブックのゲームとしての快楽となるわけです。
 ゲームを進めていくにしたがって、当然のことですが、プレイした箇所については選択の結果どうなるのかがわかってきます。先がわからないからこそゲームなのであり、先がわかればそれはゲームではなくなります。既読のパラグラフが増えていくごとに、ゲームブックからはゲーム的な部分が減少していき、次第にゲームブックからパズルブックへとでも呼ぶべきものに変貌していくわけです。

 「悪魔に魅せられし者」は(例外はあれど)塔を1階ずつ順番に登っていき、双方向移動によって(例外はあれど)1フロアを精査することが可能です。すなわち、どこで何が起こるのかを網羅することは、比較的容易になっています。それ故にゲームの構造を見渡しやすくなり、いわゆる正解ルートの発見も容易です。
 もし1度目のプレイで「悪魔に魅せられし者」をクリアできたとしたら、それはとても幸せなことでしょう。しかし正解のルートが見えやすい分、2度目、3度目の挑戦となったとき、1回目のプレイと比較して面白さが減じる割合というのは、たとえば「バルサスの要塞」などの双方向移動不可のゲームブックよりも大きくなってしまうのではないでしょうか(「バルサスの要塞」のようにルートが多岐に渡りすぎて、何度挑戦してもなかなかクリアできないというのもそれはそれで考え物ではありますが、ここでは置いておきます)。
 双方向移動が可能でほぼ全ての場所を回れるという特性上、再プレイ時の「以前は選ばなかった選択肢を選んでいたらどうなったのだろうか」という部分が、特に弱くなっているような気がします。「これは罠だから無視する」とか、「ここで経験値稼ぎ」とか、効率的なプレイを行うことは可能ですが、“ゲームをプレイして楽しい”という感覚は薄くなっているのではないでしょうか。
  「悪魔に魅せられし者」に挟み込まれている剣社通信 vol.12 のインタビューで、鈴木直人は「500もパラグラフがあって、読んでもらえない部分があるのはいやだ」と発言しています。確かに、なるべく多くのパラグラフを読めた方がお得だとは思います。しかし2回目以降のプレイにおいては、通過した場所ならばどこでどんなイベントが起こるのかがわかっているわけですから、ゲーム的な部分の楽しみは減じられ、既に読んだテキストを再度追うという作業だけが残されてしまうのです。

 これは「悪魔に魅せられし者」に限らず全てのゲームブックに言えることですので、欠点としてあげつらうのはフェアではないかもしれません。双方向移動でないゲームブックであっても、回数をこなしていけば、やがて同じ問題が発生します。しかも、「悪魔に魅せられし者」の場合は難易度がそれほど高くありませんので、実際にはそう何度もやり直すことにはならず、それほどのデメリットでもないと思います。
 なにより私は、本作の最大の魅力は塔の内部を探索することだと思っていますので、その意味では双方向移動は必須であるといえます。つまり、結局は異なる二つの楽しみ方のトレードオフということになるわけです。
 しかし私はあくまでも、ゲームブックのゲームブックらしい楽しみ方というのは、理不尽でも何でも、目前の危機を乗り越えるために、悩みながら行動を選択するという点にあると思っています。したがって、ゲームブックとしての再読性の低さは、ゲームオーバーになる確率にも依るのですが、それほど大きいとは言えないもののマイナスポイントであると思います。

 余談ですが、実は「魔人竜生誕」を1回クリアしただけで放置してしまっているのは、3人分×いくつかのエンディングが用意されているとしても、それらに至るルートに共通部分が多いので、何回もプレイするのがめんどくさいからなんですよね(フラグマトリクスがあるために、最終的な結果にたどり着く因果関係がわかりにくいという点も大きいです。まともにプレイして全てのエンディングを見るなんて、考えられません)。一度読んだパラグラフを何度も読んだからといって、それでゲームブックのコストパフォーマンスが上がるわけではないのです。フラグマトリクスの記入ミスの発生には、既に読んだことのあるパラグラフだから油断しやすいという理由も挙げられるかもしれません。
 ……でも、「魔人竜生誕」をクリアしてからもう1年くらい経ちますから、そろそろ再プレイしてもいい頃合かもしれません。


・2巻以降のことを考えてしまう

 「悪魔に魅せられし者」は1冊のゲームブックではありますが、全3巻のシリーズの第1巻であり、クリアしたとしてもまだまだ先があります。第2巻や第3巻からスタートすることも可能ですが、第1巻をクリアしたキャラクターを引き続き第2巻で用いることも可能です。しかしそのことで、クリアする以外の要素を意識して、ゲームとしての純粋な楽しみが低減してしまった面があります。

 実際に私がこの問題に直面したのは17階あたりからでした。出現する敵の強さやポーションの残り量から考えて、デスパラグラフ以外ではもう死ぬことはないかなと思っていたのですが、「悪魔に魅せられし者」をクリアするだけならどうとでもなるけれど、“第2巻以降にキャラクターを引き継ぐのならば、なるべくロスをなくし、かつ入手できるものは全て入手すべきかなぁ”ということを、ついつい意識してしまったのです。
 クリアすることを目的としたゲームから、最適なルートを通過してクリアすることを目的としたゲームへの変化。しかもどれだけのロスまで許容されるのかは、まだ見ぬ第2巻以降に依存する。そのことを意識しだしてから、少しゲームがつまらなくなってしまったと思います。

 もっと極端に考えれば、事は第2巻以降の有利不利というだけに留まりません。第1巻でのプレイ状況によって、第2巻以降でたどり着けないパラグラフが発生するかもしれません。現に、第1巻をどのような形で終え方によって第2巻でスタートする場所が変わってきますが、他のスタート地点から始めたいからといって第1巻からやり直すというのは非常に面倒です。
 第2巻のスタート地点ならまだマシな方で、これが第3巻のラスト付近になって、第1巻で入手しそこなったアイテムがあるために(もっと意地悪にするなら、アイテムを入手してしまったがために)クリア不可能となったらどうでしょうか。こんな状況に陥ったら、さすがに第1巻からやり直すだけの気力は湧いてこないと思います。
 クリア不可能というのは極端な例で、おそらく実際にはそんな構造にはなっていないでしょう。どんな状態で第1巻を終えたのであれ、第2巻以降がクリアできなくなるということはないと思います。ですが、実際はどうあれ、シリーズものである以上は多かれ少なかれそういった疑惑を抱かせかねないのは事実なのです。

 この点はシリーズ物全般に言えることですが、特にドルアーガ3部作は60階の塔を20階ずつ3巻に分けているということで、シリーズとしての連続性がとりわけ強くなっています。本当は全3巻まとめて一つの巨大なゲームブックであると主張できればいいのでしょうが、そうであれば今度は、前述の再読性の低さが響いてきます。長くなれば長くなるほど、初めに戻るのがめんどくさくなってくるのです。シリーズを通しての連続性を持つことはメリットでもありますが、第1巻を単体として遊ぶということに関しては、マイナス点でもあると言えます。

 ただ、私が作者ならば、まず間違いなく第1巻のプレイの影響が第3巻にまで及ぶような構造のゲームブックを作りたくなると思います。けしてプレイヤーにとって不利な要素にはせず、+α的なものにするでしょうけれど、せっかくのシリーズ物なのですから、連続性を利用しない手はありません。
 自分でもそう思うくらいなのですから、他者がそうするのを批判するのはおかしいのですが、作者としてゲームを作るのと、プレイヤーとしてゲームを遊ぶのとでは、立場が異なってきます。あくまでもプレイヤーとしての意見を言うならば、シリーズ作品におけるキャラの引継ぎには注意が必要で、単純に能力値という量的なパラメータの引継ぎのみにとどめておくか、あるいはせいぜい次巻にしか影響が及ばないくらいにとどめておく方が良いかと思います。

 繰り返し注意しておきますが、ドルアーガ3部作がそういった作りになっていると言っているわけではありませんよ。現時点で、私がそう考えてしまったというだけの話です。私は第2巻以降は未読ですから。
 もっとも、幾つかのアイテムは次巻以降で使用されるのはわかっているのですが。




 悪かった点についてはほとんどが私の趣味に由来していて、良し悪しというよりは、好き嫌いの話になってしまいました。もっと言えば、「悪魔に魅せられし者」固有の問題というわけでもないところまで踏み込んでしまっています。双方向移動型のゲームブックについて、ここ1ヶ月くらい考えていたことが、ちらほら漏れ出してしまったかもしれません。
 しかし、冒頭の繰り返しになりますが、とてもバランスの良い、よくできたゲームブックであることは確かだと思います。そうでなければ、20年も経ってから復刊なんてされません。って言うか、本当につまらなかったらここまで長文を書く気もおきませんしね。
 「悪魔に魅せられし者」はシリーズの第1巻と言うこともありますので、3巻全てやり終えてから総合的に評価しようと思います。だから創土社には、2巻以降も早く出してくれるよう希望します(創元版でプレイするのはやめました。一部違うところもありますし)。


コメント ( 2 )
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コメント
 
 
 
Unknown (メスロン)
2007-07-07 18:17:47
こんにちは.鈴木直人ワールドへようこそ.

「戦闘でふるサイコロが多い」
確かに相手の値は一定でも良いかも知れませんね.ただ暇な子供時代はそれが楽しかったですけれども.

「やりなおすのが面倒くさい」
そうですね.だからサドンデスなどgameoverの確率を低くして少ない回数でクリア出来るようにしてるんでしょうね.でも1回目のプレイ時に,7階で池に戻る気がしましたか?ちょっとした小ネタは繰り返し遊んでこそ!

「2巻以降を考える」
実際,2巻以降でシナリオが変わるほどの変化は生まれません.ただフロアマップを全部書けた人であれば手に入らなかったアイテムは殆どありませんし,逆にとっても急いでクリアした人は第二巻から始める人のための条件で開始したほうが寧ろ有利です.また第一巻から開始した人が第二巻でgameoverとなった場合,第一巻の終了時から初めても良いよという条件が付きますのでご安心下さい.

最後に.
これからフロアマップはどんどん書きにくくなってきます.特に第三巻は作者自身が「数階しかマッピングの必要なし」と言っています.でもだからといって魅力が削がれる事はありませんけどね.明らかに必要の無い60階をマッピングしたマッパーが申し上げるのだから間違いありません.

それでは.ご健闘を祈ります.


 
 
 
Unknown (タワ・タワー)
2007-07-09 22:58:09
 メスロンさん、コメントありがとうございます。返事が遅くて申し訳ありません。
 メスロンさんは鈴木直人マニアの方なのででしょうか? 私は教養文庫で育った人間なので、鈴木直人の作品はある程度所持はしているのですが、実際にプレイしたのはまだ「チョコレートナイト」と「悪魔に魅せられし者」の2冊だけです。
 この記事ではちょっと苦情が多くなってしまっているのですけど、そのほとんどは“ゲームブックをプレイしていてどこが楽しいのか”という、個人の趣味の問題になってしまっているんですよね。そんなわけですので、私が求めるゲームブックの楽しさとは少し異なる方向を向いているにしろ基本的によくできたゲームブックであることは確かですから、2巻以降を楽しみにしたいと思っています。
 まあ問題は、2巻以降がいつ発売されるのかなんですが……。創元版に浮気しちゃおうかなぁ。
 
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