百醜千拙草

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ナノテクとステムセルとベンチャービジネス

2008-03-21 | Weblog
一昔前、ナノテクノロジーが鳴り物入りで生物の世界に入ってきて、大勢の人々が、ミクロのレベルを超えたレベルでの生物のスーパーマイクロマニピュレーションの可能性に多大なる期待を寄せたわけですが、現時点では残念ながらその期待に十分答えられているとはいえません。勝手に過大な期待を寄せる方が悪いといえば悪いのですが、そんな世間の期待とは無関係にナノテクノロジーの研究は現在も進行中です。生物技術の分野で、最近有望視されているナノテクノロジーといえば、カーボンナノチューブを使ってのデリバリーシステムの開発ではないかと思います。炭素はいろいろな立体、平面構造を取り得ます。もっとも多く生活上で利用されているいるのはグラファイトで、これは炭素のシートが何層にも重なったものです。グラファイトについては、以前からこのグラファイトのシートをばらして、薄い一層の炭素シート(Graphene)を取り出し、超高速のトランジスタの作成などの目的に使用しようと何十年来、試みられていますが、なかなか困難なようです。カーボンナノチューブは、その名の通り、カーボンシートでできたチューブですが、このナノチューブを薬剤などのキャリアに使用して生体に利用しようと大勢の人々が研究を重ねています。最近Natureのゴシップ欄でとりあげられた、カリフォルニアのPrimeGenというバイオテクカンパニーは、カーボンナノチューブを利用して、iPS細胞をつくろうとしています。iPS細胞の問題はレトロウイルスを使っての遺伝子強制発現を行うことで、レトロウイルスがホストの細胞のゲノムDNAへの組み込まれるため、長期的な安全性という点で問題視されています。そこで、ウイルス経由ではなく、直接iPSをつくるのに必要な転写因子を蛋白の形で細胞内へ導入することができれば、ゲノムのウイルス挿入変異を避けつつ、iPSを作成することが理論的には可能と考えられます。PrimeGenはカーボンナノチューブにiPS化で使われた4つの遺伝子産物ともう一つのES遺伝子であるNanogを含む蛋白の複合体をくっつけて、細胞内へのデリバリーを試みたらしいです。人の精巣細胞と網膜細胞を使用した実験の結果、ナノチューブ複合体は80%の細胞に取り込まれ、3日目ぐらいからES様形質を示すようになったとのことです。しかし効果は2週間ぐらいしか持続しなかったと述べています。この細胞を実際に目にした人は少なく、勿論論文にもなっていません。この発表には二三、うさんくさいところがあって、特にPrimeGenがこの結果を科学雑誌や学会ではなく、株主集会で最初に発表したという事実に対して不審に思う人が多いらしいです。最近はマウスiPSを使ったtranslational researchも手がけているMITのJaenischはその発表の翌日、PrimGenのboardをやめたそうです。二年前にもPrimeGenは精巣細胞からES様細胞を作り出したと発表しながらも、科学論文として発表されていないという事実をNatureは指摘しています。興味深いのは、この会社のテクノロジーの基盤になっているのがStanford大学のDr. Daiの研究成果という点です。彼のグループは最近PNASに単層の炭素シートからなるカーボンナノチューブをマウスに投与したところ、二ヶ月で体内から排出され、非常に安全性が高かったという論文を発表していますが、一方、その他の研究者は、ナノチューブは毒性がありデリバリー効率が悪いと考えているようです。最近の日本のグループからの発表では、多層のカーボンナノチューブを使用したマウスの実験で、アスベスト同様に高い効率でmesotheliomaが発生したという報告もあります。これはチューブの大きさに依存するようですし、日本の研究では多層のチューブを使っていますから、必ずしもPrimeGenの結果と相反するとはいえないと思いますが、PrimeGenがStanfordのグループの研究に依存しているという点、そして成果を正当な論文出版という型で発表しないという態度にやはり怪しげなものを感じてしまいます。いずれにせよ、ナノテクノロジーとiPSというホットな題材を扱っている以上、世間はフォローするでしょうから、額面通りの発見なのか、ベンチャーキャピタルから金をせびりとるためのものなのかは、そのうちはっきりするであろうと思います。
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1 コメント

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フリクションDX (パイロット・サムライ)
2023-08-28 16:56:35
ルパン三世のマモーの正体。それはプロテリアル安来工場で開発されたSLD-MAGICという高性能特殊鋼と関係している。ゴエモンが最近グリーン新斬鉄剣と称してハイテン製のボディーの自動車をフルスピードでバッサリ切り刻んで、またつまらぬものを斬ってしまったと定番のセリフ言いまくっているようだ。話をもとにもどそう、ものづくりの人工知能の解析などを通じて得た摩耗の正体は、レジリエンス性も考慮された炭素結晶の競合モデル/CCSCモデルとして各学協会で講演されているようだ。

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