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機関設計:ライブドアに見る“執行役員社長”とは?

2006-01-28 | 経営実務
おかげさまで体調は快方に向かっております。早めの投薬が功を奏したようです。

さて、今日は予告どおり「執行役員」について。ライブドアに「執行役員社長」という一見不思議とも感じられる役職が誕生しましたが、これについて見て生きたいと思います。

そもそも執行役員とは?


現在多くの企業で取り入られるようになった「執行役員」ですが、取締役とは異なり商法上に定められたものではなく、会社が任意に設置する機関です。「部長より上、取締役より下」というのが一般的な位置づけではないかと思います。

執行役員は、取締役会の決定にしたがって業務遂行の責任を持ち、必要な業務執行権限を付与されていることが一般的です。また、通常は商法上の業務執行者である代表取締役の指揮命令を受けることとなります。

さて、この執行役員の法律上の地位ですが、前述の通り商法には何の定めもありませんので、会社の内部規程として定めていくことになります。このときの考え方には主に次の2通りの中から考えられます。

(1)商法上の「支配人」に準じる地位
まず第一の考え方が、執行役員を商法上の「支配人」と同様に考えるものです。

商法上の支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者であり、会社の本店又は支店において任意に選任することができます(もちろん、選任しなくてもかまいません)。

この考え方を準用して、特定の事業部門や業務執行範囲に対する業務執行権を与えるものとして「執行役員」を定めることができます。

この場合、執行役員の選任・解任は「重要な使用人の選解任」にあたりますので、商法上で取締役会の決議をもって執行役員の選任・解任を行います。

(2)高級従業員としての地位
もう一つの考え方はすなわち権限と責任が強化された従業員としてとらえるものです。

この場合の執行役員は部長より上位の社内役職とされ、最上級の幹部従業員として職務につくことが一般的です。この場合には、社内での決裁権は広範に与えられるものの、対外的な契約行為等については限定的な権限しか持たない(最終決裁は代表取締役や取締役会が行う)場合が多くみられます。

このため、高級従業員としての執行役員の場合、(議論の余地はありますが)必ずしも取締役会の決議を持って選任することまでは求められません。

なお、会社と執行役員の関係は「委任関係」「雇用関係」のいずれになるのかについて学説が分かれていますが、個人的な見解では(1)の場合は「委任関係」の色彩が強く、(2)の場合には「雇用関係」にあると言えるのではないかと考えております。

「執行役員社長」はどのような地位なのか?


それでは、今回のライブドアで誕生した「執行役員社長」とはどのような地位なのでしょうか? これは「執行役員+社長」と分解して考えることになります。

このうち、執行役員の地位としてはおおむね前述の通りと推測できます。また、もう一方の社長としての地位についてはisologueに寄せられていたコメントの中で、ライブドアの“定款”に書かれている内容が紹介されていました。

第21条 社長は、当会社を代表し、会社の業務を統轄する。

(定款内容については、EDINETを利用し、有価証券報告書の添付書類として添付されていた「定款」にて記載内容を確認しました。)

これを考えると、「執行役員社長」は「会社の業務執行全般に関する責任と権限を有する執行社員であり、かつ、会社を代表する者」という形になるのではないか?と考えられます(いまいち判然としませんが・・・)

「執行役員社長」は可能なのか?


さて、ここで問題となるのが、商法との兼ね合いで「執行役員社長」は問題ないのかどうかということです。

まず、単純に商法のみの話からいえば、「執行役員社長」という名称のポストを社内に設けても差し支えはありません。ただし、商法上では、株式会社の代表者を「代表取締役」という機関におくよう定めており、また社長は一般的に「会社を代表する者」とみなされますので、代表取締役でない(執行役員)社長が為した行為は「代表取締役の権限を持った者が行った行為」とみなされることになります(商法第262条:表見代表取締役)。

しかし、ライブドアの場合には定款の中で
(役付取締役)
第20 条 取締役会の決議を以て、取締役の中から、社長1 名を選任し、必要に応じて、副社長、専務取締役、常務取締役各若干名を選任することができる。
(代表取締役)
第21 条 社長は、当会社を代表し、会社の業務を統轄する。
2 取締役会の決議を以て、前条の役付取締役の中から会社を代表する取締役を定めることができる。

との定めを置いてしまっているとのことです。

こうなると、今回のライブドアの場合には、取締役ではない人を社長として選任してしまっており、定款第20条に違反した状態となってしまっています。(なお、「役付取締役でないものを代表取締役に選任している」点も同様に定款第21条に違反しています。)

このような取締役会の決議内容が定款に違反した場合について、商法では特段の規定を置いていません。ただ、過去の判例では「会社の利益と第三者の利益を衡量して判断」する取り扱いが為されており、その多くは「相手方が善意・無重過失なら対抗できない」としています。したがって、このような決議が直ちに無効とはいえないかもしれませんが、通常では望ましいとは言いがたい状況です。

この状況の回避策はあるか?


とはいえ、“非常事態”の渦中にあるライブドアにとっては、社内の指揮命令系統の一刻も早い建て直しが急務だったのでしょう。(これだけ注目を集めている中で、まさか定款を十分確認しないままこのような取締役会決議を行ったわけはないでしょうし・・・)

そうなると、次善策があったかどうかということになりますが、個人的な意見では次のような方法が取り得たのではないかと考えています。
○代表取締役副社長(専務・常務でも可)として熊谷氏を選任。
○その上で、従来堀江前社長が有していた「最高経営責任者」を(現社長の)平松氏とする。(経営委員会委員長でもよいかも)
○加えて、次回株主総会までの臨時措置として平松氏をライブドアにおける全ての本支店の「支配人」として選任する。(これで、平松氏の名で営業についての一切を「代理」できる。)
○「社長」は空位にしておく。

これもあくまで「緊急避難措置」ですが、現在行おうとしている意図を維持したまま、取締役会決議としての瑕疵は一応ない形になる・・・かな?と思います。(まぁ、こんなことを悠長に考える前にもっと考えることがいっぱいあるとは思いますが・・・)

ふと気づいたのですが、今のライブドアは「現行商法でのぎりぎりの取締役数」しかいない状態になっているのですね(^^;; 万が一「もう1名取締役が欠ける」という状態にでもなったら・・・・これはこれで大変怖いですね(^^;;

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お見事です。 (Dakiny)
2006-01-28 03:44:19
あくまでも緊急時でありますので、と前置きした上で、企業の約款に基づき、社長代行として平松氏を最高経営責任者とさせていただきます。







最高経営責任者(社長待遇)として平松氏というのもありですよね。
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上記補完 (Dakiny)
2006-01-28 03:58:18
途中でリターンキーを押したら、投稿になってしまいましたので…

#システムが原因?



上記の訂正です。



専門家からの見解を、わかりやすく解説していて見事な文章ですね。



> 「もう1名取締役が欠ける」という状態にでもなったら・・・・



逮捕でなくても、事故による死亡もあるわけですから…、緊急役員会を早期に開催するべきでしょうね。



事故死といえば、1月26日発売の週間文春では野口氏の事件は他殺であると書いてたようですね。
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Re: (Swind)
2006-01-28 10:36:59
Dakiny様>



>逮捕でなくても、事故による死亡もある

>わけですから…、緊急役員会を早期に開催

>するべきでしょうね



まさにおっしゃるとおりで、取締役の早めの補充は不可欠の状況ですね。



ただ、取締役の選任は「株主総会の決議」が必要なので悩ましいところです。

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